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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第二十三章 死する覚悟で進むべし!
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背に刻まれし無情の罠

 ダレンは本気で音楽家のようだ。

 私が最初に歌った楽園の歌が終われば、ジャズの他の名曲を続け、さらには彼の十八番らしい歌までも勝手に歌い出したのである。


 眠ってはならぬ、とは!


 幽霊さん達はオペラを即興で演奏することはなかったジャズの人よ?


 しかし、彼らは怨霊体になるぐらいに演奏することに拘る人々であったらしく、ダレンの挑戦に負けるかという風に楽器を奏で始めた。

 凄いわ。

 観客だってダレンにうっとりとし始め、エルヴァイラの呪いに染まった瞳を元の色に取り戻し始めている。


「これで私が一勝、あなたが一敗ね!」


 私はまっすぐにエルヴァイラを見つめ、観客達を押さえる事が出来た勝利感のままエルヴァイラに金の箒の先を向けた。

 しかし私の箒の魔法はエルヴァイラを攻撃するものではなく、私を守るためにさらさらと砂の粒子を周囲にまき散らしているのだ。


 単なる砂じゃない。

 単なる砂だったら、砂鉄を含んでいるから危険じゃない?

 だって相手は脳みその中の微力電流を弄る相手なのよ。

 だからこの砂は星砂。

 死んだイソギンチャクやサンゴが粉々になっても星の形を形どっているという、彼らの尊い遺体であり夢の残り香だわ。


「あなた?あたしに適うとお思い?」


「あなたにはサイコキネシスなんか無い。あるのは人を惑わす幻術だけよ。」


「そんなことは無いわ!あたしはエルヴァイラなのよ!」


 エルヴァイラは私に右手の平を翳した。


 ぶぉ!


 うわ!凄い風圧が私を襲う!

 ああ、そうか、ここにはハルトがいたからハルトの力?

 私の正義の味方な銀色マントは簡単に飛んで行ったけれど、だけど、私はちっとも怯まなかった。

 足は床に踏ん張っているし、私の両手は金の箒を掴んだままだ。

 

「こんなもので人を思い通りにできると思うなあああ!こんなことばっかりしているから、あなたは誰にも愛されない。誰にも見て貰えないの!お菓子が欲しいとお店の床に転がる幼児そのものよ!」


「失礼な!この魔女が!お前がいるからあたしは呪われるんだ。そうだ!お前があたしを呪ってきたんだ!あたしはエルヴァイラなのに!エルヴァイラのはずなのに!」


 舞台の床が何枚か剥がれ、それが私に向かって来た。


「危ない!」


 私は後ろから羽交い絞めされ、そして床に押し倒された。

 横になった私の真上、いいえ、私に重なったハルトの頭や肩スレスレに板切れは飛んでいき、その勢いのまま舞台袖の何かにぶつかって大音を立てた。


「だい、大丈夫か?」


「私はぜんぜん無事よ?どうしたの?声が変!あなたこそ怪我を?」


 ハルトの額には脂汗が吹き出していた。

 顔はとても苦しそうに歪み、そして、大きく息を吐くと体中の力を抜いた。


「ハルト!」


 とにかく背中に乗っているハルトを自分の背中から降ろし、私は体を持ち上げて床に転がることになったハルトの体を調べた。


「傷は無い!でも、おかしい!」


 私はエルヴァイラを見上げて吼えた!


「あなたは!あなたは自分が何をしたのか分かっているの!どうして他人を傷つけて平気なの!他人が怪我をしたりすることをイメージできるの?自分がされて嫌な事はしちゃいけないって教わらなかったの!」


「うるさい!ハルトの怪我はお前のせいだ!あたしはお前しか狙っていない。ああ、優しいハルトが誰にでも体を張って守るって事を忘れていたわ!」


「何よそれ!だから、人を傷つけては――ああ!痛い!」


 私の背中がズキンと痛み、私は自分の背中に咄嗟に手を当てた。

 でもって、そこで気が付いた。

 背中にあった活性化してしまったアストルフォの印。

 私は慌ててハルトの上着のチャックを下ろした。


 彼の胸の真ん中には、私に背中にあったのと同じ、真っ黒な手形があった。

 真黒な手形には、オレンジ色の光が縁どられている。

 魔法を知らない私だってわかる、これは確実な死の呪い。


「いやあああああ、ハルトおおおお!」


「ミュゼ!ハルトがどうしたのか!」


 ダレンが歌うのを止めた。

 幽霊達もピタリと演奏を止めた。

 観客から剥がれかけていた紺色の呪いは、さらに色をどす黒く染めた。

 私と対抗していたエルヴァイラは、これ以上ないぐらいに顔に皺を寄せて憎しみの表情に歪めている。


「お前はミュゼかああああああああ!」


 私の身体は天高く、テントの天井にまでだったが、そこに打ち付けられた。


「あうっ。」


 ハルトを痛めつけた呪いのあった場所に何かが強く当たり、私は体中の息を吐きださせられた。

 口の中に鉄の味がする。

 後は下に落ちるだけだ。

 落ちたら死ぬな。


 私は落ち、私が直撃すると気が付いた観客達は悲鳴を上げて左右に逃げ、一気に私の落下地点の為の隙間を開けてくれた。

 だけど、私が私の為に用意された落下地点に到達する事はなかった。

 私は空気の層で出来たクッションに包まれていたのだ。


「ミュゼ。」


 舞台の上から私に手を伸ばす、私のせいで死にかけている恋人。

 どんなに体が辛くとも、私を助けるためになら最後の力だって振り絞る。

 今日が死ぬ予定だった私の最愛の人!


――奇跡が起こるかもしれないよ。


 頭の中でアストルフォの囁きが思い出され、私は急いで自分の足で立った。

 エルヴァイラを無力化しなければ!

 私が勝てばハルトの命が助かる。

 酷いわ、アストルフォ!

 私を戦わせるためだけに、あんな魔法の保険を背中に刻印していたのね!

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