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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第二十三章 死する覚悟で進むべし!
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まわせまわせ狂言回しを

 九月十四日。


 晴天の空に空砲が何発も上がった。

 完全に町中が祭り騒ぎだ。


 それもそのはず。

 町も学校も何もしなくとも、子供達の死闘が見たいらしき政府の人達によって、スーハーバー高校は出店も立ち並ぶという祭り広場に作り替えられたのだ。

 目玉となる催し物の会場は、校庭だった祭り広場のど真ん中に、神殿とも思える巨大テントがアストルフォの手配によって設営された。


 その神々しいまでの舞台設定をみて、誰がそこで単なるTシャツ水着コンテストが行われると思うのだろうか。


 しかし、アストルフォは本当に無駄な美意識を発揮するのが得意だ。

 巨大なテントは帆布で全部を覆ってはおらず、扇風機の羽みたいな形の布が六枚、布の先端を支柱の天辺に括りつけられて、ダヴィンチが考案したプロペラ飛行機の様な美しさもある外観となっているのだ。


「運命の塔だ。君達はここで踊り、己の運命をまわすのさ。」


 私の耳元で囁いた男は、私の背中を軽く押した。

 その手が推したのは私の背中の真ん中、アストルフォ自身による刻印を押されたその場所を彼は正確に触れたのだ。


 どうして正確だと言い切れるのか。


 触れられた一瞬、私の頭にオレンジ色のスパークが弾け、そのオレンジ色の輝きの中に真っ黒の手形というイメージが浮かんだのよ。

 そして気が付いた。

 この火傷の痕はただの傷跡ではなく、アストルフォの魔法を発動するための印でしかなく、今まさに彼の手によって活性化させられたのだと。


「何をしたの?この背中の傷は何を私にさせるの?」


「うさぎちゃん?君は何も考えずに荒野を駆け抜けろ。生き抜くそれだけを考えるんだ。野生のうさぎはね、鷲に掴まれて皮膚が裂けたとしても、それで逃げ切れるならって必死に逃げるさ。だからね、君は俺から逃げたいって、そう、俺から逃げ切れることだけを考えて走り続けるんだよ?」


 私はアストルフォに与えられた金の箒の柄を両手でぎゅっと掴み、一番信用してはいけない男から手渡されたものであるのに、今の自分を助ける命綱の様にして胸に押し付けた。


 さあ、ミュゼ、こんな反吐野郎に惑わされてはいけない。

 とにかく私はミュゼに戻ることだけを信じて、そう、本当に望んでいること、それを成し遂げることだけを考えるのよ。


 ステージでは既にハルトや他の参加者たちが舞台の上に立っている。

 舞台の周囲には凄い人だかりだ。

 学校の生徒は勿論、スーハーバーの人間、それに、シークレットサービスか宇宙人を捕まえる組織の人みたいな、紺色のスーツ姿の屈強な男女がそこかしこに立っている。


「エルヴァイラと一般人の死闘が見たいなんて、なんて悪趣味。いいわよ、彼らの見世物になって、絶対に絶対、自分を取り戻して見せる。」


 この決意表明は物凄く小声だったはずなのに、私の後ろで含み笑いの声が響いたってことは、アストルフォに聞かれてしまったということか。


「頑張って、アリス。いいや、ミュゼちゃん?駄目だと思ったらお兄ちゃんを呼びなさい。絶対に駆け付ける。」


 私は右耳を押さえ、ああ、魔法インカムがあったと笑った。

 どこまでも実験動物なんだなという悲しい笑いと、でも、そんな実験動物にも愛着を持って守ろうと決めてくれた人もいる、というちょっとだけの希望を感じた笑いだ。


「さあ、逃げちゃったかな?最後の最後の出場者、アリス・バーンズワースちゃん!君が来ないと始まらないよ!」


 舞台からダレンのマイクの音が響き、私はその声に従ってハルトが待つ、いいえ、エルヴァイラという私の障壁がそびえるそこに一歩踏み込んだ。

 私の姿を見たせいか、舞台の上でも、いいえ、観客者がかなりどよめいた。


 私の衣装はハルトが好きだったお婆ちゃんな水着だ。

 そこに銀色のマントを羽織っている。


 悪趣味?

 いいのよ、ハルトが、以前に言ったのよ。

 海に沈んだ私を救い出そうと手を伸ばした時、私が彼が行きたかった宇宙から来た宇宙人に見えたって。

 だからこれは私の決意表明の格好。

 今日がハルトと最後の日になるかもしれないけれど、私の姿がミュゼとは違う別人のまま終わってしまうかもしれないけれど、私はミュゼとしてこの人生の舞台を降りる。

 私はどこにも逃げないし、ミュゼ以外の何者にもならない。


 ハルトは私の意思が分かったのだろうか。

 私に向けた顔を一瞬微笑ませかけ、だがすぐに私から目を逸らした。


「う~わ~変人だ~!そんな趣味の悪さで美人コンテストに出場って、よくもまあ票が集まったよ!」


「ははははは。不正した奴がいるって噂は本当だったんだ!」


 舞台の直ぐ前にひしめいている学生の誰かが私にヤジを飛ばし、そのヤジに呼応するようにして、不正、というワードが次々に周囲に感染して行き、ほんの数秒で大きなシュプレヒコールとなって私に向かって投げつけられ始めた。


 紺色の呪いはよく見えた。

 紺色のひも状の呪いは、人々を縫い付けるようにして、グルグルと会場内に触手を伸ばして渦巻いていくのである。


 私は金の箒をこれ見よがしに振り回して周囲の注目を惹き付けると、前日に設置した怨霊体を呼び覚ますべく意味のない大声をあげた。

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