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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第二十二章 美人コンテストとモブ
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もし、立場を変える事が出来るならば

 月曜日のハルトの演説のすぐあと、ダレンは投票用紙を配り直した。

 最初は男子にだけ配っていた紙を、女子にも追加して配ったという事である。


 その結果として、恐ろしい事に、高等部の全生徒の五分の三の票が火曜日の夕方の時点で投票箱に入れられてしまったということだ。

 イベントが全校生徒の関心の的になった事は喜ばしいのに、それがなぜ恐ろしい事なのかというと、その高等部全員の五分の三の票の内、その大多数が書き込んだ名前がハルトムート・ロラン様だったからである。


「あいつ~。本気出して来たなあ。」


 ダレンはぼやき声をあげながら、会議室の窓に掛かっているカーテンを閉めた。

 そこは実行委員が集まる予定の場所であり、票を数える場所でもある。

 しかし、ダレンがカーテンを閉めたのは、参加者でしかない私がそんな会議室にいるのを見咎められては困る、という理由よりも、私からハルトの姿を隠した、という理由の方が本当のような気がする。


 ハルトは月曜の放送の後、常に、数えたくもないぐらいの人数の女の子達に取り囲まれているのである。

 この間までだったら、自分をちやほやして来る人達に対し、彼は眉根を寄せて小馬鹿にした表情を浮かべていたはずだった。

 それが今や、軽薄な笑顔を顔に浮かべ、彼を取り囲む女の子達に冗談を言って笑わせているのである。


 その振る舞いに無理している所が一つもなく、私は今のハルトの姿こそ首都で生活していた時の朗らかな彼の本当の姿の様な気もしている。

 だって、私が知る限り、彼は笑う時は屈託なく笑う人だったもの。


「あ~あ。私が元に戻れたとしても、それこそ完全に手が届かない身分違いだって、私が身を引かなきゃな相手になっちゃった。」


 私がハルトと仲が良くなってすぐに虐められたのは、凡人でモブでしかない私が分不相応な恋をした、そこが周囲に許せなかった事かもしれない。

 その他大勢でしかないモブにスポットライトが当たる、そんなことが起きたらゲームシステムだって小説設定だって壊れてしまうでしょう。

 だから、異物として排除されようとしたのよ。


「じゃあさ、お前はエルヴァイラになりたいか?あいつだったらハルトの相手が務まるかもよ。なんせ、魔法省で有名なアンナ・グリーン様の娘で、アンナ・グリーンの父親と言えば、もう亡くなっているけどね、ボリス・トレバー。生前は児童心理学で有名な精神科医で、大きな医療系の財団だって作り上げたお方だよ。」


「え?エルヴァイラは普通の子だって聞いていたわよ?で、すっごく詳しいけど、どうして?」


 ダレンはハッとしようにして自分の口元を隠した。


「ダレン?」


「オフレコの話だったから忘れて。」


「ああ、うん。」


 続刊で明かされるエルヴァイラの身の上だったのだろうか。


「やっぱり言うよ。今のは偶然に俺が知った事で、他の誰にももう広めてはいけないことだけどさ、本当だよ。」


「いや、大丈夫。興味ないし広めないから!」


「……で、そうじゃなくてさ。大金持ちで有名人の子供、という括りではエルヴァイラもそれに当てはまる子供になるだろ?そうしたらハルトに見合う相手になれるって事だろ?ついさっきお前が呟いた糞独り言ではさ。でさ、お前はエルヴァイラになりたいか?ええと、違うか。そんな家に生まれたかったか?」


 私は殆ど反射的に首を横に振っていた。


「い、いや。私はこのまんま、田舎町の小さなチョコレート屋さんの、ええ、お父さんとお母さんの子でいたい。」


 そして考えずに口から出た言葉で、自分がハルトから身をひかなきゃと愁傷な言葉を吐いた理由が分かってしまった。


「ああ、そっか、そうだね。ごめん、ダレン。私が間違っていた。ハルトはハルトだ。親父ってお父さんの事呼んでね、ハルトはお父さんの事大好きだもの。財閥、うん、関係ないね。私はどこまでも普通だから、ハルトに飽きられたらって、そう、嫌われたりする未来の可能性を身分違いだって言って誤魔化したんだね。好きなら好きなままでいればいいだけなのにね。」


「俺が言いたいのは!ああ、ちがうんだよ!違うんだ。」


 ダレンにしては絞り出したような辛そうな声で、締め切ったカーテンに寄りかかって立つダレンに不安になった。

 あなたはハルトの事で私の知らない何かを相談されているのだろうか、と。

 ダレンはハルトの親友だ。

 私に言えないことも、ハルトはダレンにだったら相談できるだろう。


 そうかしら?


 ニッケは学校にいるはずなのに、私は彼女にまだ会えていない。

 ニッケが傷ついている可能性が高い事も聞いていたのに、私こそニッケを探そうともしないでうじうじしているだけではないか。


「ごめんダレン、巻き込んで。それで一番辛い立場よね。あなたにデリカシーが無いからって、気軽に色々当たっていたかも。」


「俺にデリカシーが無いって、ひどい女。」


 ダレンはいつものように私を罵ってくれたが、その後に、彼らしくない優しい言葉を繋げてくれた。

 いや、彼はデリカシーは無いがとても優しい人ではあるのだ。


「まあいいよ。お前の八つ当たりは笑えるから。」


「笑えるって酷いわね。」


「笑えるさ。本気で人を傷つける言葉は言わないもんな。だからさ、お前に罵られて、ああ、笑ってさ、それが見れなくなるのは嫌だなって思うよ。ニッケもそうだ。今までのお前が消えるのが嫌だって、今のお前の姿で会って前のミュゼの姿のお前を忘れるのが嫌だって言って、お前に会わないようにしている。でもさ、お前が生きていくにはミュゼじゃ無いお前にならなきゃなんだよな。」


 私の知らないこともアストルフォと話し合っているダレンだ。

 私はダレンが言い出した事が消化できずに、彼を見つめ返すしか出来なかった。

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