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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第二十二章 美人コンテストとモブ
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ブラックサタデーからブラックマンデー

 月曜の昼までは学校は平和だった。

 学校近くの病院でギャング団による抗争が起きていたらしいのに、被害がよそ者のギャング団だけという事で、スーハーバーは今日も平和だ。

 そんな目に遭った病院こそ、何事もなく町民に扉を開いている。


 ギャング団によって建物や機材にかなりの被害を受けたとも聞くが、病院が事件前と変わらずに運営できているのは、政府がいち早く救いの手を差し伸べたかららしい。

 いや、州が、かな。

 病院をぐるりと取り巻いて突撃準備していた州兵だが、彼等は患者用の治療器具も運んできており、ギャングを排除するや壊れた機材とそれを全部取り換えてくれたのだそうだ。


 入院患者にも職員にも一人も死亡者がいなかったうえ、病院の古い機材が最新式になったのならば、スーハーバーの病院職員や病院を利用する町民には儲けではなかったかと、人の心のないアストルフォは言ってのけた。

 人の心が無い彼にはそう思うかもしれないが、普通の人間はそんな事が起きれば心にトラウマを残すものだ。

 また、その襲撃が自分が招いたものだと突き付けられたら、かなり責任感やら罪悪感を抱くものだと思う。


 ああ、ニッケ、あの子は傷ついていないかしら。


 あの病院にギャング団が乗り込んだのは、ニッケの暗殺の為だったと心無い人に私は知らされたのである。

 心無い人と言っても、それはアストルフォでもバーンズワースでもない。

 ダレンはデリカシーが無いだけで人の心は持っている。


 では、教えてくれたのは?


 もちろん、政府お抱えのアイドル、エルヴァイラ様、だ。


 土曜日の朝の十一時頃、私はダレンを追いかけて特待生寮を訪問していた。

 ダレンは寮でハルトやニッケに会っているはずで、ダレンの恋人という立ち位置の私ならば、手土産を持った姿で恋人の友人に挨拶するシチェーションはおかしくないと思ったからだ。


 変わってしまった私だけど、私は親友のニッケに一目でも会いたかった。

 あんな別れ方をしたハルトの姿だって、一瞬でもいいから目にしたい。


 しかし、私は運に見放された女だ。

 エントランスに一歩入った所で寮の門番を気取る鬼に見咎められ、彼女によって私は追い立て追い払いを受ける事になったのだ。

 もちろん私はそれに抵抗してみた。

 周囲にはエルヴァイラ以外いないみたいだし、と。


「あたしはぁ↑ダレンと待ち合わせて来たのぉ↑。関係ないあなたにぃ↑邪魔されるいわれは無いんですけどぉ↑。」


「待ち合わせ?嘘ばかり。寮は寮生以外は基本立ち入り禁止。招く場合は事前報告が必要なの。あなたは待ち合わせじゃない。ダレンに置いてきぼりを喰らった、が正しいんでしょう?」


 その通りだ!

 あいつはニッケとハルトに会うからと、私の作り置きの手料理を冷凍庫からかっさらって行った癖に、私に一声も掛けずに出かけたのだ!

 しかし、そんな事をエルヴァイラに言う必要は無い。


「恋人は一心同体でしょぉう↑?ダレンってばあたしを別人格って思っていないのかもぉ↑。」


「はあ、ダレン可哀想。そしてあなたも勘違いが過ぎて可哀想。きっとダレンこそ失敗したと思っているわね。勘違い女に勘違いさせたって。」


 お前が言うなぁ!と叫びたいところをぐっと呑み込んだ。

 すると、私が歯をぐっと喰いしばったのを、エルヴァイラに言い負かされた悔しさによるものと彼女は勘違いしたようだ。

 ふんと鼻でせせら笑い、おちょぼ口のくせにかなり口角を引き上げた。

 笑みを作った口元がまるで口裂け女みたいだ。


 彼女は鏡を見た事があるのだろうか。

 あなたが今作ったその顔はね、悪口だったり虐めをしている最中の女の子達が浮かべるのにも似た、とても醜悪な表情なんだよ?


「事実に気が付いて悲しくさせてしまったかしら?思い込みが深くなりすぎるよりも幸せよ。友人想いの彼に一瞬でも目を掛けて貰えたことこそ喜びなさいなって、あなた!」


 私は手土産を持っている。

 それぐらいは受付に預けてどこが悪い。

 しかし、それもできなかった。

 受付がガラスの小窓をピシャリと閉めて、終了の札を急に窓口に置いたのだ!

 受付の小部屋の奥で、もあっと紺色の靄が噴出して見えた気がした。


「残念ね。もうすぐお昼だもの。さあ、お帰りなさい。ダレンはね、ドロテアを慰めに寮に戻って来たって言っていたわ。ほら、この間の病院襲撃。あれって、ドロテアのせいなのですって。可哀想ね。国民から疎まれて叛乱を起こされて暗殺されかけるなんてね!だからそっとしてあげなさいな!」


 私はチーズポップを詰め込んだ紙箱の入った紙袋を抱き締め、エルヴァイラに追い返されるまますごすごと帰るしかなかった。

 大嫌いなエルヴァイラの誇張と歪みを添加された情報だが、ニッケが暗殺されかけたのは本当だろうし、そんな目に遭っていたのならば、誰にも邪魔されずにダレンに慰められた方が良いと思ったのである。


「でさ、今日の弁当の仕様は何だったんだよ?俺だってバーガー食べたい。」


 私は自分の弁当から顔をあげ、私が作った弁当では無いものを忌々しそうに齧っている男を、私だって忌々しそうに見返した。

 土曜日のチーズポップ、あなたが全部食べちゃったくせに!!

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