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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第二十二章 美人コンテストとモブ
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引き裂かれている恋人の恨み言

 人間は落ち込んでいる時に、普段とは違う事への決断などしない方が良い。

 ギャング団が制圧排除されたからと、俺はニッケと手を繋いで病院から学校の寮へと帰って来たが、そこでダレンに出会ったのが間違いだった。

 奴は俺を見つけるや、俺達をナンパしてきた、のだ。


 ねえ、君達、この学校の子じゃないよねって。


 ニヤニヤ笑いで、ねえ彼女、とデカい声で話しかけられるより、この格好を笑い飛ばして欲しかった。

 俺とニッケはアストルフォに毒気を抜かれたそのまま病院を出ていたが、どちらもナース服のままだったという事に、ダレンに声を掛けられるまで忘れていたのである。


 俺とニッケはデリカシーのない友人を無言で睨みつけて返すだけにした。

 さて、奴がその程度の事でへこたれるだろうか。

 奴は俺達の不興などものともしないで、自分が持っていたコピー束から引き出した用紙を俺とニッケにを押し付けてきたのである。


「こんどさあ、この学校で、Tシャツ水着コンテストがあるんだ!俺ね、実行委員。見に来ない?かわいこちゃんだったら、当日の突撃参加もオッケーだよ。」


 白黒で簡単に刷られた紙には参加者リストも記載されており、俺は参加者にミュゼの仮の姿の名前を見つけていた。


「追加参加のエントリーはいつでもオッケー。みーんな、この日を決戦の日として頑張っているよ。それはもう、女の子達、自分が一番だって殺気だってのバトル直前。だってさ、投票が無ければ女王様を決めるステージに上がれない!」


 奴は俺に目線を合わせ、参加しない?とウィンクして見せた。


 それから三日目の九月七日。

 月曜日の学校の昼休憩時間に、それも冷房完備だった理科準備室で、俺はぼやきながら床に転がった。


「あ~あ。見境ない奴と親友になったばっかしによ!」


「言うな言うな。ミュゼはお前の参加に大喜びだったぞ。」


 ダレンは俺に弁当箱を差し出し、俺はそれを受け取りながらのっそりと上半身を起こして座り直した。

 半透明なプラスチックケースには、ミュゼが作ったらしい昨夜の夕飯のおかずが詰め込まれている。

 学食のスペシャルランチ代でミュゼのご飯を俺に売りつける事を、金曜日の夜にダレンは天からの授かりもののようにして思いついたのだ。

 土日とダレンは俺とニッケに会いに寮に来て、俺は奴が言うがままにその弁当を受け取っている。

 友人を小遣い稼ぎの道具にするなんて、友達がいがあるのかないのか。


 けれども、俺はダレンを責めてこの行為をなくすことはできやしない。

 俺の為に作ったのではない飯である事にはがっかりだが、ダレンから手渡せられる弁当の中身はいつも豪勢で、冷めていても学食や寮の飯よりも旨いのだ。


 俺はダレンに紙幣を渡してその弁当箱を受け取り、膝に乗せるや宝物の蓋を開けるようにしてその弁当箱の蓋をパカッと開けた。


 美味しそうな丸パンがまず目を引いた。

 それは分厚いハンバーグだけでなく、目玉焼きとチーズとピクルスまでもがしっかり挟まれているという豪華なハンバーガであり、それをさらに際立たせるようにして、小さなピックが刺さったイカと野菜のフリッター、そして、カラフルなポテトサラダが食欲を刺激する完璧な配置で詰め込まれてるのである。


「これが、夕飯?」


「うそ!それは昨日の夕飯どころか今まで見た事も無かった奴だ!畜生、あの野郎。俺がハルトに売りつけているのを知って内容を変えやがった。お金返すから、ちょっとそれを俺に返してくれ!俺はそのハンバーガーが食べたい。」


「やだよ。」


 俺はダレンに奪われる前にパンを掴んで齧り付き、冷めていようが旨いと涙が出そうになっていた。


「ああ、ミュゼがこんなに料理上手だったなんて!いいなあ、お前は。毎晩、ああ、朝もか、ミュゼのご飯が食べられるんだもんな。」


 俺から俺の弁当を奪いたがっていた親友は手を引っ込め、ついでに両目に罪悪感ぽい翳りを浮かべると、俺にごめんといった。

 彼の謝罪は、俺とニッケが聞いた事を俺達から聞いた上でも、彼はそれを知りながらも、アストルフォの側にいる事を選んでいる事を、だろう。


 お前の辛さを解っているのに、ふざけすぎてごめん、かな。


 だけど、彼に何ができると言うのだろう。


 ミュゼがエルヴァイラにメタモルフォーゼしなければ生き続けられない状態にされているのならば、俺だってその勢力と流れを止めることはできないのだ。

 その流れを作っている勢力側にダレンが立っているとして、それはミュゼの魂が生き延びるためには必要な事でもあるのだ。


 それに俺がミュゼを殺すと覚悟を決めたのだから、ダレンに俺の側に立てなど俺からも言えない。

 何度も考えたが、俺はミュゼじゃ無いミュゼは受け入れられないのだ。

 だから、俺の中のミュゼを殺す。

 つまり、息を吸うように彼女を愛している俺も、ミュゼという肉体をミュゼの魂が捨てた瞬間、そこで命を終わらせる、それだけである。


「あいつ、本気で飯が旨いんだよ。アストルフォとバーンズワースがさ、ミュゼをわざと怒らせるの。するとあいつは、俺達の事は一切考えずに自分の食べたいものを作るんだな。それが全部激うま。自分の食べたいものを不味く作る奴はいないもんな。俺はさ、本物のビーフシチューをレストラン以外で食べたの初めてだよ?なんか、本気でお前に悪いなあってさ。恋人じゃない俺の方があったか飯で恋人のお前が冷たい弁当だろ?なんか、本当にごめん。」


「お前のごめんはそっちか!」


 決めた!

 Tシャツ水着コンテストで、俺は大暴れしてやろうじゃないか。

 ミュゼのエルヴァイラへの変化など誰も考えなくなるぐらいに!

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