女の子同盟を結ぶには
とりあえず私の申し出を受け入れてくれたニッケは、私の騎士みたいに振舞ってくれているハルトとダレンに対して追い払うようにして手を振った。
「わしとミュゼとお前達が保健室でいけないことをしていた。そんな噂になったら困るだろう、なあ。」
ハルトは、ニッケのいけないことの台詞で、本気でいけないことを想像したみたいで、こっちが恥ずかしくなるぐらいに顔を真っ赤にして、違うんだ!という目で私を見つめている。
わかったから、落ち着いて!
ただし、ダレンの方は冷静で、ニッケに対して小馬鹿にしたように言い切った。
「お前とは普通に噂になんないよ。誰がぬいぐるみや抱き枕に変化する女の子を襲うかよ。」
「おやダレン。わしをお前の部屋に引き込んだのはお前だっただろうが、なあ?」
私とハルトは一斉にダレンを見つめ、見つめられたダレンは顔を真っ赤にして見るからに慌てふためきだした。
「な、ななな。だって、俺は、ああ俺は、ちくしょう!」
「え、ちょっと、ダレン!俺はミュゼと!」
ダレンはハルトの身体を掴むと、ここに残りたいらしきハルトを思いっきり引っ張って保健室を出て行ってしまった。
いざという時は、やっぱりダレンの力の方がハルトよりも強いみたいだ。
格闘技系スポーツ選手と短距離走選手じゃ、鍛えられて使う筋肉は違うか。
「わしはダレンの三角筋と大胸筋は好きだな。ハルトに関しては大殿筋から大腿二頭筋の流れがしなやかで良いなと、なあ。」
「え、読んだ?私の思考、読んだ?でも、鍛えられた筋肉が違うってだけで、そこまで考えていないってか、ああ!考えちゃったよ!」
ニケはぷぷっと口元を押さえて笑い声を立てた。
それでも彼女はダレン達がやり残した仕事、私への手当の続きとして絆創膏を取り上げると、それの封を開けて私の額にぺたっと貼り付けた。
「あ、ありがと。」
「お前は気に入ったな。わしは普通に綺麗な男が好きなんだ。ついでに言えば、わしをベッドに引き入れたダレンには責任をいつか取らせたいと思っておるんじゃ。お前と友達なら、グループ交際ができるかとおもうが、なあ。」
私はニッケの紫色のアメジストみたいな瞳を見つめ返し、なんて綺麗な瞳なんだと思いながら頭を上下に振っていた。
「勿論だと思う。ダレンがどうしてあなたをベッドに連れ込んだのか教えてくれたら、きっと、もっと、協力できる、かも。」
ニッケはウケケと笑い声を出すと、ダレンの秘密らしきものを囁いた。
「あれは可愛いもの好きなんだ。ちっちゃくて可愛いお菓子も、ふわふわのぬいぐるみも、な。授業が面倒だとクマのぬいぐるみに化けて寝ていたらな、奴はわしをそのまま自分の部屋に持ち込んでしまったと、そういうわけじゃ。わしもびっくりしたぞ。なあ。」
私はエルヴァイラ視点の小説には決してなかった、知らなかったダレンの可愛いもの好きという情報に笑っていた。
だけど、そこで気が付いた。
勿論、私が読んでいた所はハルトが生きていた所ばかりだけど、彼女の一人称視点では、今私が次々と知る事になっているハルトやダレン、そして、ニッケについても、知らないことばかりだったという事実である。
これこそ、私が本当は別世界にいるっていうことかしら?
じゃあ、ハルトがエルヴァイラを守って身代わりに死ぬなんてことは、起きないかもしれないのね。
なんだか目の前が開けたようなハッピーな気持ち、そう、虐められる事でニッケと知り合ってそんな事に気が付いたならば、人生には無駄が無いってやっぱり先人が言っていた通りなんだわ。
「わしが化けたぬいぐるみが、ダレンものと似ているからと勘違いしてたのさ。彼のものは寮に持って来たそこで消えてなくなってしまったって嘆いていた。おっきなぬいぐるみが消えたことこそ不可思議だがな、なあ。それで消えたぬいぐるみって奴は、寮生活のダレンの為にお姉さんが作ってくれたぬいぐるみだそうだ。そこでわしも気が付いたのさ。わしの持ち物も、ああ、実家から持って来た大事なものが、持って来たはずなのに消えていたって、なあ。」
私はニッケを見返していた。
そして、小説にあった、そう、エルヴァイラが悪人を倒そうと誓う事になった最初の事件、仲良くなったばかりの友人が実家に帰っちゃった、という事件があったのかどうか、物凄く怖々と口に出して聞いていた。
違うって、否定して欲しいと思いながら。




