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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第二十一章  サイコパスはモブを語る
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ニッケと俺と色んな事情

 俺は三日も学校に行っていない。

 一応学校側には連絡が入っている筈だから、俺が積極的に政府に処分される事は無いだろう。


 いや、あるか。

 俺を処分するのは、軍部でも警察でもない、第三勢力かもしれないが!


 スーハーバー病院は、ニッケの弟に雇われたらしきギャングに襲撃された。

 彼等の狙いはニッケとニッケの父であるが、彼女の父の方はニッケの命を受け、我がロラン家お抱えの護衛達に連れ去られて首都に搬送されている。

 どうして原因のニッケこそがN‐23に乗って逃げなかったのか。

 誰しも思うはずで、俺こそ同じことをニッケに尋ねていた。


「敵がどこまで鼻薬を嗅がせているのかってね、その実験じゃ。アルカディアの州兵か民兵ぐらいにまで手を伸ばしていたら、あの飛行機は落ちるじゃろ。」


 ニッケの答えを聞くや俺の手は彼女の首に伸びており、俺こそ国際問題になる人殺しになりそうだったのは、そこは語るまでも無いだろう。

 さて、ニッケによれば敵はギャング団しかお抱え出来なかったらしいが、それはギャング団だったら簡単に見捨てられるという事にもなる。

 つまり、見捨てられたギャング団には銃殺されるか重罪犯専用刑務所に送られて死刑を待つぐらいしか選択が無くなったという事だ。


 彼等は生き残るために病院に立てこもった。


 病院の出入り口を封鎖されたばかりか、人質を取られたことで、院内に乗り込む事が出来ない警察とギャングの膠着状態が続いている。

 トカゲのしっぽ切りをされたギャング団には、金と移動手段を手に入れて、新天地に逃げる事だけが唯一生き残れる望みしか残っていない。


 俺とニッケがいれば、簡単にズドーンどこーんとギャング団ぐらい片付けられるはずだと思うだろう。

 だけどね、ニッケは知らないが、俺には一応は人道主義ぐらい残っている。

 ギャングが人質にしてボスらしき人物が立てこもっているのは、自分で動く事がままならない患者、それも幼い子供ばかりが入院していた病室なのだ。

 下手に動けば、病気の子供達が殺される。


 よって、誰の数にも入っていなかったという院外に逃げ遅れた俺は、ニッケと共に病院職員を巻き込んでのレジスタンス活動中だ。

 いや、子供達を救え!大作戦か?


 内容は簡単だ。

 ギャング団に食事を配りに行くそのタイミングで、子供を一人ずつニッケ特製の人型ぬいぐるみと交換していく、という作業だ。

 俺とニッケと患者のバイタルを診れるナース二名の計四名で、ギャングにセクハラを受けつつ、死の恐怖とも戦いつつ、食事カートに子供を隠し乗せるのだ。


「二日で六人部屋の四人の救助が成功だ。それも、敵には気付かれずってのがミソだな。ハルト、こんなことを考え付くなんて、お前は意外と面白い奴だったんじゃな。」


「面白いって、遊びじゃ無いだろ。」


「だがな、似合うぞ、そのナースの格好。」


 俺は自分自身を見下ろした。

 真っ白なナースのワンピースは少々ミニで、男の俺が着るには!とも思ったのだが、あのノーマンが女装できたように、痩せてしまった俺には女装が上手くはまってしまった。


 いやいや、それだけじゃ無いだろ。


 変装だと金髪のカツラを被って肌を褐色に塗ったら、俺は母親そっくりの外見、つまり、ロラン財閥の長である父が地面に伏して結婚を願い出たという伝説の美女、ノエミ・ロランそのものになってしまったのである。


 つまり、俺は食事トレイをギャングに手渡すだけという、ニッケ達の行動にギャングたちが注目しないためのカーテンになるという役割に徹しているのだ。

 うふふ、おひげが素敵い~、なんて言ったりさ、ああ!情けない!


「うふふ。ロランさんの変装には、我が、スーハーバー病院美容部全員、最善を尽くして最高傑作になるように努力しておりますから!」


「ね~。っていうか、化粧がこんなに楽しいって久しぶりよ!」


 俺達と共にいたナース達はそういって笑い、ストレッチャーに乗せ換えたばかりの俺達が助けたばかりの子供の頭を撫でたりしながら、そのまま彼女を連れて医師が待つ隠れ家へと去って行った。

 残された俺とニッケは軽く手を叩き合った。


「お疲れ。」


「お主こそもな。」


「テレビニュースにもなっていれば、お前の弟が王になるのは完全に無理か。」


「いやあ、我が国は王の人格などどうでも良いからな。まあ、それでも奴は王にはなれん。奴の勢力はどうしてもそこを理解しないから駄目だ。」


「え?」


「簡単な決め事じゃよ。奴では我が国繁栄の守り神、偉大なるキャスパー様を召喚できないからだ。」


「ええ!キャスパーって、あのキャスパー様?」


「ははは、そうそう。あのキャスパー様だ。それでキャスパー様はな、祭りの真っただ中、あいつの演説の後の召喚に全く応えてくださらなかったらしいぞ。百人も召喚士を召し抱えておいてな!なんて笑い話だ!ハハハハ、キャスパー様はわしが与えた久しぶりの人間の魂に夢中になられたのであろうな。」


 俺は悪霊よりも怖かった深海の悪魔の触手を思い出し、あれこそがニッケの国の神様だった事を知って怖気よりもニッケに完全に引いていた。

 トゥルカン王国って人間の国ですか?そんな感じだ。


「――。なあ、キャスパー様ってお前は可愛く言うが、それって呼び出してはいけない深海の恐怖様か何かじゃないのか?」


「本当のことを言うとな、単なる大型タコのお化けじゃよ。本当のほんとに内緒だがな。いいか?平和ボケするぐらい平和な我が国には兵器なんてものはない。あるのは知恵だけじゃ。アルカディア連邦みたいな戦争国家に蹂躙されないようにするにはな、こけおどし、というものは大事なんじゃよ。」


 俺はニヤニヤ笑うニッケの額を突き、そういう事にしてやるよ、と言った。

 ニッケは額を押さえながら、俺の横腹を仕返しについた。


「いた!」


「悪いな。大丈夫か?」


 これは俺の横腹を突いたニッケが俺が痛かったか聞いた大丈夫じゃ無いと、俺を見上げるニッケの瞳が心配そうにけぶっている事で気が付いた。


「あのボスと何を話していた?」


 俺は一瞬どころか完全に言葉を失ってしまった。

 ギャングとの会話は忘れる事が出来ないが、自分の中で昇華も出来ない内容でもあったのだ。

 言うべきか、どうするか。

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