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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第二十一章  サイコパスはモブを語る
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とあるサイコパスの告白②

「兎は食べられるための家畜でしょう。だから、リリーが僕の大事な友人になってくれたからこそ、僕は彼女の死を無駄にしちゃいけないって思ったの。」


 医師は俺の言葉にほだされて、ほろりと涙を流したような気がした。

 だって、死んだ祖父と同じことを言い出したのだ。


「君は賢すぎるんだね。君の読む本の題名を聞いたよ。その年で獣医学全書なんて読んでいるのかい?」


「リリーが病気になったら僕が治せるようにしたかったから。お爺ちゃんは同じご本を読んでね、牛や馬の病気を治したりもできるんだよ!」


「じゃあ、どうしてそんなにも愛するリリーを、骨格標本や毛皮にバラバラにできたのかな?」


 うわお!

 この医者は俺に同調して寄り添ったふりをして、この俺を観察していたのか!


 そうだな、彼を警戒するべきだった。

 この病院の院長でもある有名な精神医である彼は、俺が子供だからと俺を診察する場所を、産科フロアにあるキッズルームにしたのである。

 さらに、彼は俺に一番リラックスできる場所に座りなさいと言い、俺が座ったクッション椅子の目の前にあるやはりクッション椅子に座ったのだ。


 ここまで俺は間違えていないよな?


 俺は兎に似たぬいぐるみのある椅子に座り、時々、無意識みたいにしてそのぬいぐるみを触ったりをして見せていたよな。


 ああ、あの日程俺は動揺した事は無かったかもしれない。

 失敗したら矯正院に入院だぞと、動揺しすぎて涙まで零してしまった。

 だが泣いて見せたそこで、俺はこの涙は使えると泣いたままにした。

 だってね、骨が美しかったから、とか、いい毛並みだったから、なんて真実を吐露すれば俺の破滅だと、そこは子供心に分かっていたからさ、そう、俺は考える時間が欲しいと泣いて見せたのだ。


 さて、どうしよう?


 そこで、運命の神が俺に手を差し伸べた。


 突然に大きな振動で部屋が揺れ、同時に大きな悲鳴が同じフロアで起こったのである。


 こんな赤ん坊と妊婦しかいないフロアで、爆発めいたものが起きたのか?


 俺のそんな疑問は数十秒後には解消された。

 俺の目の前にいるじじい医師を呼び出しに、看護師が俺達のいる小部屋の戸口に立ったのである。

 じじい医師は、看護師の言った言葉を聞くや水色のクッション椅子から立ち上がり、かなりの大声をあげながら診察室を出て行った。


 お嬢様の病室でテロリストが!


 そんな事を聞いたら、まあ、誰だって飛び出すだろうな。


 しかし俺には朗報だった。

 俺は鬼医師から詰問される被疑者の役を突然に下ろされて、無罪ではないが自由の身になることができたからである。

 つまり、誰もいなくなった診察室から勝手に逃げ出したのだ。


 頭の中は祖父の牧場へ逃げろと言っていた。

 お爺ちゃんの牧場にリリーを埋葬したかったと、骨と皮をいれた巾着を大事そうにして抱いて泣けば、きっと祖父は俺を守ってくれるだろう。

 俺はそう考えた。

 だが、それには両親の目をかいくぐり、半日は揺られるだろう高速バスに乗れなきゃ無理だ。


 しかし、悪い時には悪い事が重なるもので、一分一秒も猶予が無いのに、キッズルームから数歩歩いただけの俺の目の前に、なんと、太陽みたいに黄色く光る変なオーブがフワフワと浮いていたのだ。


 俺は一瞬だけ躊躇した。

 だって、これは逃せられない、何かの魂だぞ。

 死んだ者の体には入っていないものだ。

 生きている小動物もいくつか殺してきたのだから、俺にはそれが死んだばかりの体から抜け出した、死んですぐのほやほやの魂だと分かっていたのだ。


 どうする?

 魂だよ?

 捕まえたら実験出来るじゃないか。

 死んだ体に植え込んだらどうなるのかって?


 俺は逃亡のチャンスを捨て、自分の探求心に従った。

 両手で魂を包み込み、それを捕まえたのだ。

 ああ、あたたかい。

 リリーみたいだ。

 どこにこれを植え付ける?

 ああ!死体をまず用意しなきゃなのか!


「これから掻爬手術だなんて!まだこの子が死んだって、まだ。」


「心音が聞こえないって、ああ、このままじゃあ、君の身体も駄目になるって。だから、ああ、今回は諦めよう。」


 なんと!俺の目の前で泣き出した若い夫婦が丁度いた、のだ。

 俺は迷わず彼らのもとに歩いていき、若い夫婦の片方、膨らんだお腹が真っ暗色に染まった女性に両手を差し出した。

 虫を捕まえているかのようにして、組んで膨らんだ手を差し出したのだ。

 彼女は突然のそんな俺の出現にかなり吃驚したが、母親になる予定の人だからか、子供の俺には寛容だった。


「あなたは?何か捕まえたの?」


「魂を捕まえたの。おばさんのお腹に入れて良い?」


 結果?

 心音が無くなった彼女のお腹の中の赤ん坊は復活し、俺は解剖魔のサイコパス少年から、神の手を持つ心優しき少年ヒーラーに格上げされた。


 最高のヒーラーって、体の仕組みを医師ぐらいに知っていてこそ、らしいよ?


 人の病気を治して生き返らせることができるように、そんな大志を抱いた子供の俺が解剖したりして学んでいた、という事になったのだ。

 それ以後、俺が普通に快楽殺人者の卵的な行動を取っても、親は俺に何も言わないどころか、俺が最高のヒーラーになるからだと疑いもなく信じるようになった。


 これもみんな、リリーのお導きなのかな?

 ハハハ!俺がうさぎが大好きな理由、わかって貰えただろうか。

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