我思う……だから君も思うのだろう?
脳の電気信号が同調?
「ハハハ。だから、人間の体は化学反応で成り立っているからさ、脳やら肉体から微力電気による信号がチカチカと発せられている、という事だ。君の一言でアダムの頭の中のニューロンがね、スパーンとポリッジというイメージの電気を点滅させ、ポリッジは嫌だという負の感情という電気エネルギーを発した。ここまでは普通の人間が誰でもやっている事だが、アダムは意識的にね、ターゲットの脳みそに自分の頭で起きた電気信号と同じものを送って、自分と同じ行動を取る、あるいは考え方になるという、支配下に置く事が出来るんだよ。」
「え?それは、魔法、なの?」
アストルフォはいつもと違う、少々やけっぱちにも聞こえる、低くて乾いた笑い声をあげた。
私が少々ビクついてしまう程に。
「うさぎちゃん?魔法なんてこの世に無いんだよ。人の脳から漏れ出たエネルギーをね、何かに媒介させて活性化できているだけの事象なんだ。」
「だって、呪文書だって。」
「だからね、脳の中の電気信号をその呪文で整えて、そんな魔法みたいな能力を編み出した人間と同じことが出来るように、その人間の脳のパルスに近づくための同調方法だよ。運動でペアを組んだ時、同じ動きをする時には、ねえ、まず呼吸を互いに整えるでしょう。呪文は、それ、なんだよ。」
「じゃあ、じゃあ、本当は私も呪文を勉強すれば魔法使いになれるのね!」
「いや、君は無理。なぜか知らないけど、無理だった。アダムは君をもんの凄く気に入っているね。それはなぜかって、アダムの能力が君には一切干渉できないって事だったからさ。君は魔法力が無さすぎる。だからなのかね。」
「え?」
「アダムはね、そこら中の誰にでも愛されて生きて来たけれど、それが彼の能力によるものなのか、真実の愛なのか、わからない孤独な人でもあるんだよ。」
私はバーンズワースに振り向いていた。
バーンズワースは、いつもそんな顔をすれば私だってほだされただろうに、という、寂しさも見える微笑みを私に返しただけだった。
たった一人でクローバータウン校にいたのは、エルヴァイラみたいに彼の感情で他人の感情を操ることが出来てしまうから?
バーンズワースが誰かを愛せば、その誰かは必ず、バーンズワースが持つ愛と同じ気持ちを持つという事?
だとしたら、彼は、誰も愛せないと考えたのかしら?
だから、たった一人で、廃校で暮らしていた彼は、私という彼の能力に同調しない人間を見つけたからと、こんなにも必死に兄だと言って疑似家族を体験しようとしているのかしら。
そこで二か月間の彼と二人の生活を思い出し、あれ、と首を傾げた。
「どうした?うさぎちゃん?」
「いえ、ショーン。アダムってね、一緒に寝ようか、とか、パンツを洗ってあげようか~とか、僕のお風呂を覗かないでね~なんて、変態的な事ばっかり二か月間も私に言って来たの。私はアダムを変態としか思っていなかったけど、それも私がええと、同調するかの確認だったとしたら、やっぱり単なる変態よね。私が彼の能力で彼に同調しないから私と親しくなりたいって思ってのそれだったら、やっぱり変態よね。」
アストルフォは口元を押さえて私からそっぽを向き、身を捩ってソファの背もたれに抱きついたまま背中や肩を震わせている。
いやだ、目尻に涙まで見えるわ!
「笑い過ぎよ。酷い人ね。」
「酷いのは君こそだよ!妹よ!僕は普通に君と仲良くしたかっただけなのに!」
「うっさいな!あなたのは、ぜんぶ、ぜーんぶ!セクハラなの!仲良くなんか、ぜんぜん、ぜ~んぜん出来ません!」
「いいよ。君のハルト君に君を嫌うような信号を送ってやる。」
「え、それはあなたが私を嫌いだから出来るって事よね。本当は嫌いだったから、ええと、同調はしないような変態行為をしていた?」
「うわあ!違う!」
「うわあ!違う!」
バーンズワースが頭を抱えて仰け反って見せるのはどうでもいいが、ダレンまでも同じ叫びをあげて同じ動きをするのはうるさくて仕方がない。
「ねえ、ダレンを解放してあげて!ダレンがちょっと煩い。」
バーンズワースは座り直して、それから私を見据えた。
ダレンも座り直して私を見据えた。
そして二人同時に同じ言葉を口にした。
「僕が君を好ましいと思う気持ちを信じてくれるなら。」
「僕が君を好ましいと思う気持ちを信じてくれ、って、俺は本気で友情だけだからね!このおっさんは本気でミュゼに惚れているぞ!やばいぞ!」
「あ、ダレンが戻った。解除してくれてありがとう、アダム。」
「いいや、アダムは解除していないよ。ダレンが自分で解除したのさ。」
「自分で解除って、できたの?」




