宣戦布告
「はぅ!」
背中に強い痛みを受け、私は肺の中の空気を全部吐きだしていた。
体単体よりも椅子ごとの方が、ぶつかった時の衝撃が体に響くものなのね。
本棚にぶち当たった衝撃と、その衝撃に椅子の背もたれが加算され、まるで木刀で背中を思いっ切り叩かれたような痛みに私は呻き、呻きながらも今起きた事が信じられないと顔をあげた。
私は意図的にエルヴァイラを怒らせた。
いつも気が付いたらサイコキネシスを受けていた、だったから、意識してサイコキネシスを受けたらどうなるのか、そこが知りたかったのだ。
肉を切らせて骨を絶つ?
ところが、肉も骨もボロボロになるところだった。
ただし、エルヴァイラのサイコキネシスの仕組みが少しわかった、かも?
まず、私の挑発によって怒ったエルヴァイラの身体から、ぶわっと紺色の帯が吹き出し、それが吸血鰻か昼の様にして私の身体に纏いつき内部に入ろうと圧力を掛けて来たのである。
また、私だけでなく、ダレンにだっても。
同時に、だ。
次に――。
「お前、だいじょう、ぶ、か?」
ダレンが心配した顔で私の無事を尋ねて来たが、その顔からして彼には何が起きたのか気が付いていないのだろう。
紺色の呪いに巻き付かれているのだから。
「ええ。あなたの長い足で思いっきり蹴っ飛ばされたにしては、意外と平気よ?」
「俺が?今のはエルヴァイラのサイコキネシス、だろ?」
違う。
今のは紺色の呪いに染まったダレンによる攻撃だった。
それを証拠に、斜めに体を向けていたあなたは、今や完全に私の方に体を向けて立っているじゃ無いの。
しかし、私はこの台詞をダレンに投げなかった。
その代わりとして、私は椅子から立ち上がると(どうしても動作がよろよろでそこは格好悪かったが)、エルヴァイラに向き直った。
既に椅子を立っていたエルヴァイラは、私に一切の罪悪感どころか晴れ晴れした顔を向けており、心なしか私の受けたダメージを喜んでいる?ように見えた。
私は無言のまま、左腕で掴んでいた金の箒を両手で持ち直した。
まるで大きな銃かギターを持っているようにして胸の位置で掲げ、箒の先はエルヴァイラの胸の位置を指している。
「なによ、それ?あたしに何をなさるおつもり?」
「単なる宣戦布告よ。」
「宣戦布告?あなたが?あたしに?」
「ええ、そう。あなたに恋しているとあなたが思う男の子は私が全部貰う。私はクローバータウンのアリスよ。魔法を使わずに成し遂げて見せる。あなたは良いわよ、お好きにそのサイコキネシスを使っても。っていうかぁ↑、サイコキネシスで脅して、男の子からオッケーをもらっているだけじゃあん↑。」
私はエルヴァイラによる、彼女のサイコキネシスの圧、を体に再び受けたが、今度の私は本棚にぶつかることは無かった。
私は自分から本棚にぶつかろうとする自分を今は制御しているし、物理攻撃が出来るダレンから離れている上に、箒の先から砂の粒子を自分を取り巻くように撒いてもいるのだ。
ダレンの魔法の属性である、炎も水も、土属性に対しては無力なのである。
エルヴァイラにはサイコキネシスなんか無い!
全部、きっと、彼女が吐きだした紺色の魔法によって感染した魔法能力者の力によるものだったのよ!
さらに言わせてもらえば、当のエルヴァイラこそ、自分の力の本質に気が付いていない。
御覧なさいな!
私がよろめきもしなかった事に、私を思った以上に攻撃できなかったと一瞬だけ驚いた顔をして見せたのよ。
ほんの一瞬だけだったけれど。
わお!机が持ち上がった?
ええ!本気のサイコキネシスもそのくらいあるのか!
私は何となく周囲を見回して、図書館には私達だけでは無かったと気が付いた。
さぼっている生徒達、それも特待生達がいるね、いる。
これはやばい!
「あ、あんたがサイコキネシスを使うって事はぁ↑!も、もう、あ、あたしに負けを認めたんだあ↑!」
女の子が喧嘩で殴られそうになる時によく使う、言葉で負けたからって暴力なの!、……卑怯だろうが絶対に言ってみるものだ。
あ、机が落ちた。
「ば、バカじゃ無いの?人の心はサイコキネシスなんかで縛ることなんかできないものでしょう?あたしに恋するのはあたしがエルヴァイラだから。そう、あたしがエルヴァイラだから皆が恋してしまうのよ!サイコキネシスなんか関係ないわ!あたしがエルヴァイラだってだけなのよ!」
私の身体から、そして、ダレンからも、紺色の呪いがぱっと消えた。
私は今だ!と金の箒を抱き締めると、エルヴァイラの前から一目散に、仲間のダレンだって放って走りだしていた。
これ以上ここにいたら、エルヴァイラの呪いを受けた誰かの魔法で殺される事、確実!だもの。
十代の平均タイムしか出せない私だから、すぐにダレンに捕まって、いえ、彼に追い越されてしまったけれども!!




