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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第二十章 いばらの姫にモブは挑む
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勘違い女と攻防

 ダレンの為にピアノを止められなかった、というダニエルの言い分。

 私はすっごく理解した。


 彼はプレッシャーに弱い。


 自己処理できないプレッシャーを感じると、彼は混乱を極め、その結果として一先ずその案件から逃げ出してしまうらしいのだ。

 そんな彼が十四歳の頃にはチェロ演奏家として名前が知られるぐらいになったのは、発表会やらレコーディングから逃げようとするダレンの腕を、お姉ちゃんのダニエルが掴んで離さなかったからであろう。


 私はそう考えた。


「アリス。エルヴァイラは君と話したいそうだよ?」


 奴は私をエルヴァイラに差し出して、自らは逃げようと画策したのである。

 私こそダレンを生贄にしてこの場から去りたい思いでいっぱいなので、ダレンの上着の裾を掴んで彼の逃亡を阻止した。


「アリス?」


「エルヴァイラはぁ↑ダレンと話し合いたいっつってんじゃん?↑まずさぁ、相談事をさぁ、それを聞いてやったらぁ↑、あんたが↓。」


 エルヴァイラの相談事を、ダレンこそが!!聞いた方が彼女と早くおさらばできるんじゃない?そんな提案だよ~という気持だったが、ダレンは私との共感力を放棄していた。


「お前が聞いといてくれよ!」


 どこの亭主関白だ!

 私は取りあえずダレンの左足の甲を思いっきり踏みつけてから、今後の役に立つことを放棄した男の背中を押しやった。


「どうぞぉ↑。お好きな所に行ったらどぉ↑?」


 私に押し出されたことでゴリラみたいな中腰になっていた男は、ゴリラぐらいに迫力のある目で私を睨み、だが、戻って来た。

 戻って来て、自分の秘密基地の自分専用らしき机、閲覧用の真四角の机に四客の椅子があるのだが、その一つに彼は偉そうに腰かけたのである。


「ほら、お前らも座れ。」


 彼を動かすには、あなたはいらない、と言う方が良いのだろうか?

 今度ニッケに会ったら教えてあげよう、なんて考えながら、私はダレンの向かいに座った。

 勿論ダレンは私を薄情者とか裏切り者という目で睨んだが、今は私の方がダレンとの共感力を捨てているので痛くも痒くもない。

 だが、エルヴァイラはダレンではなく私の隣に座った。


「うわお!ダレンの隣でなくていいの?」


「てめえ、覚えておけよ。」


「あら、あたしが隣の方が良かったんなんて、我慢よ、ダレン。」


 私はエルヴァイラに話しかけ、ダレンは私に悪態をついたはずだ。

 しかし、エルヴァイラの中では、ダレンが自分の隣にこそエルヴァイラに座って欲しかったとぼやいていた事になるなんて!


 私はこの勘違い女には衝撃ばかりだ。

 小説では全ての男の子達が彼女に夢中という設定だったと思い出し、その設定を裏付ける描写が全てエルヴァイラの一人称文章だったとも思い出した。


 もしかして、もしかするのか?

 高校で本を貸してくれていた友人が、私が続きがいらないと言うや、これからなのにとぐいぐい薦めていたが、もしかして、続きはこんなエルヴァイラの性質が表に出ちゃうと言うのか!

 だとしたら、借りて続きを読んどけばよかった!


「いつもの紳士なあなたが素になれるのはあたしの前ばかりね。」


 はっ!

 私が前世を思い出していたばかりに、ダレンが今そこにある危機だった。

 私の目の前で、エルヴァイラが駄々っ子を慰める聖母みたいな顔をして、ダレンの左手の上に自分の手を重ねようとしていた。


 幼い頃から音楽発表会に出演し続けた紳士な男は、自分の手を掴もうと差し出される女性の手を嫌でも振り払えないように体が学習させられているらしい。

 ダレンは叩かれる直前の犬みたいに体を引いているが、叩かれる前に逃げる事も考えない律義な犬の様にして身を引くだけで、脅えた目を挙動不審にきょときょと動かせているだけだった。


 ダレンが哀れになった私は、エルヴァイラの手に自分の手を意識的にぶつけて邪魔をすると、そのままその手でダレンの手の甲をバチンと打ち付けた。


「いったあ。お前は何をする――。」


 ダレンは痛いと自分の手を抱えたそこで私の意図に気が付いたのか、私に軽く目礼をした後に、自分の脇の下に両手を差し込むという形の腕組みをして、自分の両手を完全に隠した。


「何をなさるの!!ああ、ダレン!大丈夫?」


「ええ~?↑虫がいたと思ったからぁ。↑」


「あなた、空気が読めないって言われるでしょう。」


「空気は読めないけど、男の子の気持ちはわかるかもぉ↑。あんたのことがすっごく嫌だってことはね。」


「あなたは自分が何を言っているか分かっているの?」


 エルヴァイラは小説のハルトの決め台詞を言ってのけた。

 私はエルヴァイラのその台詞を聞くや、びくっと体が震えた。

 震えるわけだ。

 私は椅子に座ったまま、座っていた椅子ごと後の本棚にぶつかったのだ。

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