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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第二十章 いばらの姫にモブは挑む
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変わらない君である君

 俺はミュゼをどうするつもりだったのだろう。

 俺は彼女を見つけ、その瞬間の感情は、喜びよりも怒りが強かった。

 騙されていた、そう感じた。

 でも、そんな感情は一瞬だった。

 だって、ミュゼは俺が一番なミュゼでしかなかったのだ。


「……ご飯を食べていないの?」


 俺はミュゼのその一言で全部許した。

 君は俺にも他の人にも正体を知られてはいけない身の上なのに、俺を一目見ただけで、俺を心配する言葉を無意識に吐いちゃうんだね、と。


 だが彼女を認めた途端に、俺の中は獣の咆哮みたいな自分でもどうしていいかわからない感情が渦巻いて、何も考える事も出来ずに彼女を見つめるしか出来なくなってしまった。

 いや、体が動かないから感情ばかりが荒ぶるのか?


「ほら、ハルト、座って。適当な所に、だ。俺が隣じゃ無くてお前は寂しいかもしれないが、俺も大事な目的がある。わかるな。休み時間に俺達はしっかりと話し合えばいい。そうだろ?」


 行動不能になった俺に助け舟を出してくれたのはダレンだったが、俺の目はミュゼから外せず、俺の頭はダレンの言っている事が聞こえていても、言っている事なんか何一つ理解しようと働かなかった。

 そんな俺の目の前で、ミュゼが口元を押さえ、立ち上がったそのまま教室を飛び出して行ったのだ!


 勿論俺は、ああ、何も考えていなくとも体が動いていた。


 金の変な杖を持った魔女っ子みたいな姿をしていたが、追いかけたミュゼはミュゼでしかないと俺に思わせてくれた。

 後ろ姿の走り方がミュゼでしか無いのだ。


「そんなフォームじゃあ、早く走れないよ?」


 俺は直ぐにミュゼに追いつき、ああ!追いついて良かったよ!

 彼女は階段から飛び降りようとしている所だったのだ!


「死んじゃうって!」


 俺の指は彼女の襟首を掴んでいて、ぐぅっという首を絞められた生き物の呻き声を彼女に立てさせてもしまったが、絶対に手は緩めずに思いっきり彼女を後に引いて転がした。

 二度と死なせてなるものか!


 ああ、心臓が破裂するぐらいにドキドキさせやがって。

 俺の寿命をどれだけ縮めれば気が済むんだ!

 心配した分怒りばっかりが湧いてしまったが、それでも俺は当たり前のようにミュゼに手を差し出していた。


「さあ。」


 ミュゼは俺の手など取らず、脅えるようにして頭を下げただけだった。

 自分を守るようにして、へんな魔法?ステッキを胸に抱きしめて。

 ああ、こんな声じゃミュゼを脅えさせるだけだったな。

 でも、俺は冷静な自分な声って忘れたよ?


「こ、高所恐怖症だしぃ↑、案内ならダレン君にして、してもらうしぃ↑。」


 それが別人の振りの芝居か?

 ミュゼめ!忘れていた!

 彼女は自分でもわかっていないが、いざという時のリアクションがなんだかおかしい、のだ。

 そこが俺のささくれた気持ちを解いてくれたから俺は彼女に惚れたんだなと、今の俺こそ落ち着かせてくれたが、アストルフォがミュゼに執着しているのもそこなのかと急に思いついた。


 俺の腕の中でミュゼは確実に死んでいた。

 彼女を蘇生させたのはあいつか?

 そこまでしてミュゼが欲しかったのか?


 そうだ!


 外見が変わっていようが、ミュゼはミュゼの動きしかしない!

 あいつはミュゼこそ手にいれたかったのか?


 俺の中で怒りがかっと弾け、その激情のまま無理矢理にミュゼを立たせて、なおかつ、俺がいつもさぼりに使っている屋上へと俺の身体は向かい始めた。

 ミュゼは、ああ、抵抗はしないでくれるが、俺に追従してもくれない。

 俺に引きずられるに任せているだけか。

 俺はミュゼを見返して、ひどいよ、ミュゼに粉々にされた。


 彼女は大きく目を見開いて俺を一心に見つめていたのだ。

 俺の苦しみを理解しようと一心に見つめ、俺を一心に愛していると目だけで伝えてきているという、ミュゼにしかできない表情だ。

 その表情を浮かべるのは、ミュゼの顔ではないけれど、君はミュゼでしかない。

 とにかく、屋上に行きたい、と思った。

 誰にも邪魔され無い二人に戻りたいと思った。


「俺が君を守れないのは知っている。だから、生きている限り君といたい。」


 ミュゼは俺に抱きつき、俺は抱き返した彼女を上から見下ろし、アストルフォが変えられなかった彼女自身を見つけた。

 ミュゼを見つけた喜びに溢れ、俺は彼女でしかないそこに口づけ、もっと彼女を抱き締め、抱きしめたことで、彼女の体だって変わっていないと気が付いた。


「屋上に行こう。君と話し合いたい。」


「でも。」


「君と俺を殺す前に、アストルフォはエルヴァイラに殺されるさ。ねえ、ミュゼ、奴が俺達をモニターしているならね、奴こそ俺達のこれからの会話は聞きたいかもしれないと思うよ?」


 ミュゼはこくんと頷いた。

 俺は彼女の左の二の腕を掴むと、彼女が階段を駆け上がるしか無い勢いで上へ上へと引っ張っていった。

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