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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第二十章 いばらの姫にモブは挑む
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本当の目的をもってしても処分決定は覆らない

 ダレンの手の平の傷跡のひどさに、私は愕然とするしかなかった。


「ひどい。」


「ああ、酷い傷だろ?俺はこの怪我で愛しているチェロと別れる破目になった。チェロを諦めたら俺は魔法特待生になるしかない。この怪我は俺が魔法特待生への招集命令を拒否した結果なんだよ。」


「え?報復?魔法特待生を蹴ると?ええ!通り魔に襲われるの!」


「ああ、国への反乱分子と見做されるらしい。魔法使いは能力があるからこそ管理されるべきってのが国の方針なのだって。だから俺が悪い。俺が悪いのかもしれないけどね、俺は辛かったよ。チェロを諦めることよりもね、俺と一緒に天才ピアニストの姉の指をも台無しにされたことこそ辛かった。」


 ダレンは情けなさそうな微笑を浮かべると、その気弱そうなほほ笑みからは考えられないくらいの激情を持って、だんっとローテーブルの天板を殴りつけた。


「国は何にもわかっていない。俺は音楽では秀才君。姉は天才だった。この国は音楽の神に愛された指を永遠に失ったんだよ。」


「永遠に失ったは失礼だな。俺のヒールは完全に彼女の指を治したさ。彼女がぬいぐるみ職人になりたいのは、それは彼女の趣味でしかない。」


 私はアストルフォに振り向いていた。

 ええと、ダレン姉弟が通り魔に襲撃されて、大怪我をアストルフォが治した?

 だから、ダレンはアストルフォのスパイになった?

 アストルフォは私にウィンクして見せると、寝ころんでいた体を起こして座り直し、うわあ、それだけでなく私を抱き上げて自分の隣に座らせたじゃないか。


「怖い話は枕かぬいぐるみを抱きながらってね。ふふ。弟思いのお姉さんはね、スーハーバーに行ったきり、手紙も寄越さない弟にぬいぐるみを送ったんだ。駄目になった指のリハビリのためにと、一生懸命に指を動かして作ったぬいぐるみをね、殆どケンカ別れの様にして家を飛び出した弟に向けて、さ。」


「まあ!」


「彼女は大好きな弟に手紙も書いた。アバロン君を見て思い出して!私がこの子を楽しく作っていたってこと。私はね、本当はピアノなんか大嫌いだったのよ。ピアノをしていたのは、ダレン、あなたが一人じゃ嫌だって泣くからなのよ。」


「え?」


 アストルフォは自分が語ったそこで大笑いしだし、私がオロオロしながらダレンを見返すと、彼はお道化た様にして肩を竦めて見せた。


「え?」


「そう、姉が言いたかったのは、自分は天才だけど音楽に興味ないから音楽が好きなら俺に一人で頑張れっていうエール?俺は姉のそんな手紙に失望させられ、せめてぬいぐるみに慰めて貰おうと思ったのにね、アバロン君が寝ても覚めても届かない。そこで俺は休みを取って実家に帰った。アバロン君はどうしたってね。」


「ハハハハ。ダレン君()にはアバロン君はいなかったが、この僕、アストルフォ少尉様がいたって寸法だ。俺はダレン君とダニエルちゃんの襲撃の聴取と治療をしに来ただけだけど、長年追っていた紺色の呪いの手掛かりが掴めた様な気がしてもいた。」


「そう!ハハハっは!自分が紺色の呪いを探りに来た正義の使者だったという今更な告白?でも、私とハルトにはあんなに酷い事を!あなたは本気で私達を殺そうとしたでしょう!本気で子供殺しだってしてきたじゃ無いの!私とハルトは守る価値も無いってことなの!」


「うん。紺色の呪い。その呪いで軍部も警察も、いや、社会も政治も動いていると言っても過言じゃないんだよ。その呪いはね、煩いぐらいに囁くんだよ、悪い芽は早々に刈り取るべきだってね。だから、猫の機嫌ばっかり悪くして、人死にを増やしそうな君達は処分決定されてしかるべきってこと。」


「ひどい!」


「だから、うさぎな君は頑張って猫を倒してみよう。軍部は戦闘力の高い猫が大事だから、猫の機嫌を保つことこそ正義だ。そんな猫が、一般大衆の女の子に簡単に倒されちゃった、それも、え、軍部の技術屋さん達が製作していた武器で?うわお!無能力者が武装した方が強くね?そうだ!魔法っ子達には抑制具をつけるだけにしよう!そんな方向に向かえるよう、俺は君に期待している。」


 アストルフォの物言いに対し、パチパチと、間抜けな拍手が居間で響いた。

 ダレンは私にごめんという表情で手を打っていたが、居間の戸口ではバーンズワースがなかなか帰らない生徒を追い立てる様な拍手をしていた。

 バーンズワースは私と目が合うと、めし、と分かりやすく口パクした。

 私は大きく溜息を吐き、のそっという風にソファを立った。


「ああ、ショーンの方が料理が上手いのに!」


「俺は野郎には作りたくない。」


 私は頭に来たままアストルフォの脛を蹴っていた。

 脛を蹴られて物凄く嬉しそうに笑うなんて、本当に癪に障る。

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