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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第二十章 いばらの姫にモブは挑む
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初っ端から裏切り者発覚

 私はほとんど誘拐されるみたいにして、アストルフォが用意していたという部屋に連れ込まれた。

 転校初日だというのに、そして、バーンズワースにとっては赴任初日でもあるのに、アストルフォの号令があれば一丸となって従うのか。


 さて、連れ込まれたそこは、私が誘拐されていたアストルフォの部屋だった。


 今回は同居人という風な待遇なので玄関からコンニチワしたのだが、スーハーバーの町からほんの少しだけ外れた立地のこの家は、異国風な瀟洒な外観を持つ素敵な家で、センダン家の賃貸物件だった。


「ああ!大人になったら住みたかった家だったのに!」


「大人になりたいなら協力するよ。」


 私は咄嗟に適当な置物を掴んでいた。

 ああ、アストルフォにぶつけたい。

 だが、私が置物を投げるのを思いとどまったのは、アストルフォこそ壁にぶつけられた適当な置物にエルヴァイラにされたばかりだからである。


「で、私の部屋はどこって、わお!元の監禁部屋という地下室ね!」


 アストルフォが面倒そうに床を指さしたのだ。

 そして、バーンズワースが勝手知ったるという風に階段を上がっていったので、彼の部屋は二階の客間となるらしい。


「で、俺も今日はここに泊まるのですか?」


 ダレンも誘拐?というか一緒に連れ込まれていた。

 それもしっかりとボストンバッグを肩から下げているという、まるで誘拐されることが分かっているような佇まいだ。


「で、俺の部屋はどこになりますか?ええと、アリスちゃんと俺は一緒に地下牢、なのかな?」


 居間の長椅子に偉そうに横になっているアストルフォは、無言のまま上階を指さした。


「ええ!私が地下牢でダレンが客間なの!扱いが私にだけ酷くない?」


「ばかうさぎ。二階の客間はバスルームが共有だ。君の地下室はバスルーム完備。ダレン君と換えたいならどうぞ。アダムが女子高生の裸が見れると喜びそうだけどね。」


「申し訳ありませんでした。うさぎは反省して黙ります。」


「うわ、可哀想!ミュゼはいつもこんな風にしていびられていたんだ?」


 私はこれ幸いと顔を両手で覆って、殆ど嘘泣きだが泣いて見せた。

 泣いたふりをしながら、本当に涙も出て来たが、その涙は誰にも知られるわけにはいかない。

 ダレンは友人だったのに、簡単にアストルフォかバーンズワースに唆されたのか、彼等と同調しているじゃないか。


「取りあえず、一度部屋に戻って荷物を片付けてこい、ダレン。それから今日の打ち合わせをしようか。」


 アストルフォの言葉でダレンが素直に二階の部屋へと上がっていき、取り残された私はアストルフォを見つめた。

 ヒールを持っていたらしい彼は、私達を招集した時の顔の歪みは治していた。

 それでもバーンズワースとダレンに自分を抱えさせて自宅に運ばせ、今もソファに体を投げ出して横になったままなのは、エルヴァイラから受けた衝撃が体に残っているからだろうか。


 アストルフォは私を見返して、おいでという風に自分の右手を私に向けて差し出した。


 行くわけが無い。

 私はあなたのその姿に、ざまあみろ、と思っている部分の方が大きいのよ。


「君の瞳の中を見せて。そして、俺の瞳の中も覗くんだ。そこに紺色の呪いが見えるか確認し合おう。」


 私はアストルフォの方へと歩いていた。

 そして、彼の差し出している手など掴まず、思いっ切り彼の頬を打っていた。


「あなたは!知っていたのね!エルヴァイラが紺色の魔法の根源だって!色んな人達を不幸にして来たのが彼女だって!それなのにどうして彼女を守るの!普通に生きている人達はどうでもいいの?あなたは普通の人を守るために軍人になっているのでしょう!って、きゃあ!」


 私は強い風に思い切り背中を押され、気が付けば、両腕を広げたアストルフォの腕の中に納まっていた。

 ただし、両足の膝はソファではなく絨毯の床についているので、私の上半身がアストルフォの胸板に斜めに押し付けられている、が正しい。


「な、なにを!放して!」


「いやあ、放すもんか!凄いよ!うさぎさんパ~ンチ!俺の目を完全に覚ましてくれたよ!ああ、君も俺も瞳の中はクリアなまんまだ。」


「放してよ!目を覚ますどころか、あなたを殺してやりたいわ!あなたは守るべき人を守らないどころか、罪のないハルトばっかり虐めるじゃ無いの!」


「ああ、良かった。ミュゼはハルトへの気持ちが残っていたんだ。」


 ダレンは階下に戻って来た所だったようだ。

 ダレンの言葉に私は彼に向き合おうとして、大笑いしているアストルフォの胸から慌てながら逃げ出せるようにもがいていた。


「もう、放して!」


「嫌だよ。ダレン君も殴られたら可哀想だ。」


「え?」


 私はそこで、アストルフォがダレンの指導教官だった、という小説の設定を思い出し、どうして自分とハルトの行動が全部アストルフォに筒抜けだったのか、ようやく理解することになったのだ。


「だ、ダレンが、スパイだった?」


「そこは責めないであげて。ダレン君も紺色の呪いの対処に一生懸命なんだよ。スーハーバーしか知らない君は、この紺色の呪いが合衆国中に蔓延している病気みたいなモノだって知らないだろう?」


「え、じゃあ、エルヴァイラだけが原因で無かったの?」


 私はアストルフォから手放され、私を手放したアストルフォはしぃっと言って口元に指を当てた。


「固有名詞は禁止だ。呪いを呼ぶかもしれない。」


「ではどう呼べば。」


「あれは、そうだな、猫ちゃんでいいか。で、君はダレン君が通り魔に殺されかけたことは知っているかな?」


 私は首を横に振りながら、ダレンを見返した。

 ダレンはにこっと疲れた様な笑顔を作ると、アストルフォの座るソファの斜め向かいの方の椅子に腰かけた。

 それからダレンは私に向けて両手を翳した。

 彼の手の平には、切り傷らしき痕が無数に白い線で描かれていた。

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