九月一日 転校生な私
「はーい。編入生を紹介します!クローバータウン校が廃校になったのは知っているね。」
私は新任教師のアストルフォの横に立ちながら、知らなかったよ!、と心の中で口答えをしていた。
「僻地過ぎて特待生がみーんな退学しちゃったからね、国の補助金なんかも打ち切られちゃってさ、ハハ、廃校になっちゃったの。少子化どころか、一般生こそいない学校だったから良いよね、って奴。」
一般性がいない、それは知っている。
ガラの悪い、というか、魔法を使えるってことで万能感を持った特待生による一般性への魔法暴力事件があってから、一般生の保護者達が遠くても別の学校か私学へ子供を進学させるようになったと、私はそこの教師だったバーンズワースに聞いていたのだ。
「うーん。僕が更生させて、悪いことした子は全部処分したんだけどね。」
「全部って、全員が自殺?」
「うん。五人で一人を集団暴行した輩はね、屋上に一列に並んで、ごめんなさいって叫びながら一人ずつ飛び降りて行った。なかなかに良い見ものだったよ?」
そんな見ものがあった学校に、普通の保護者が子供を通わせたいと思いますか?と私はバーンズワースに聞いてみたかったけれど、私は自分が思ってしまった事を彼に尋ねて、いや、口に出していた。
「なんだか、あの、クローバータウンって、単なる素行不良な魔法特待生達の処分場みたいな気がしてきたわ。」
「ああ、その通りだよ。一般生がいないなら僕達も思い切った教育が出来るってことで、特待生達にはあそこがどん詰まりの場所。生き残れる四葉のクローバーが見つかるといいねって、そんな校名になっちゃったね。」
ああ、怖い話を思い出しちゃった。
いいえ、怖い学校の一つが無くなった事実は、ハルト達には朗報なのかしら。
私は軽く頭を振ると、くだらない話を長くしそうなアストルフォに顔を向けた。
「席につきたいのだけど?」
声は勿論変えられてはいるが、それでも話し方でミュゼだと分からないように、私が絶対にしない語尾を上げるという喋り方をしてみた。
「は、生意気な娘め。自己紹介が済んでいないよ。」
語尾上げ喋りはアストルフォの癇に障るだけらしい。
しかし、私は大嫌いなアストルフォの神経を逆なでしたやった事に大満足で、嬉々としてその喋り方で自己紹介をする事にした。
「えっとー、アリス↑・バーンズワース↑っていいますぅ。おにいちゃんがあ?↑体育教師?↑してるっぽいけどお、あたしには関係ないし、友達作る気しないし、どうでもいい↑って感じぃ↑。」
あ、アストルフォが思いっ切り拍手なんてした!
そして彼は私にちょっとだけ体を寄せ、私にしか聞こえない声で囁いた。
「そのキャラでいくのか。君が困難な道こそ選ぶと知って嬉しいよ。」
あ、ちくしょう!
笑顔のアストルフォは、私にあっちに行けと指先で示した。
私はキャラに徹したわけでもなく、本心から不機嫌になりながら、教室の一番後ろの机へとぶらぶら歩いていき、そこで適当な席に腰かけた。
歩きながら気が付いたが、教室にはハルトもニッケもいなかった。
ダレンはいたが、彼は、あ!私に向かって手を振って見せた。
気が付いた?
うそ、そんなに私の変装は甘かったのかしら?
私がダレンを茫然と見つめていると、彼はおもむろに立ち上がった。
「先生、転校性の隣に俺が座り直していいですか?教科書とか、まあ、いろいろと教えてあげられるかもしれませんので。」
アストルフォ先生は、殴ってやりたくなるぐらいの笑顔を作り、気さくそうな声で、お願いしたいくらいだよ、なんて答えるじゃないか。
ああ、あんなキャラ作ったばっかりに!
ダレンとのこれからの会話がキツイ!
そんな私の気も知らないで、ダレンが私の真横に腰かけて来た。
それだけでなく、初めて見た様な笑顔で私に手を差し出して来たのだ。
ニッケがダレンに夢中になっているのが分かる、心がポッとあたたかくなる甘い甘い笑顔だ。
まさに、ホットなビターチョコレートの精。
「初めまして。俺はダレン・フォークナー。困った事があったら何でも言って?俺は可愛い子は誰でも大歓迎だよ?」
「え、ええ。うれしいわ。あたしぃ、お兄ちゃんしかとしか男の子と話した事が無いしぃ、ええと、」
「普通でいいよ。」
ダレンは笑顔のままそっと私に囁いた、なんて!
え、ダレンは私がミュゼだって気が付いた?
「あの体育教師、ほら、君のお兄さん。彼が君が引っ込み思案で人を遠ざける子だって教えてくれたからね。うん、嫌な時は言っていいから。」
え?ただ単に親切だけ?
ダレンは単に親切な人ってだけなの!
あなた少し鈍すぎない?
バーンズワースはあのシュルマティクスに、それも私の指導教官としていたじゃ無いの!
そんなバーンズワースに話しかけておいて、って?え?
ダレンはもはや私の方など向いてはおらず、優等生風に黒板の前のアストルフォを真っ直ぐに見つめていた。
でも、アストルフォが何かを喋りながら黒板に向かうと、ダレンは私に気安そうに体を寄せて頬杖をついた。
「俺は良い男でしょう。なのにね、俺の親友のハルトって奴の方がこの学校では王子様なんだってさ。単なるさぼり魔なのにね。奴はま~た屋上にでも転がっているのかな。」
ダレン!
私の手が震えている事に彼は気が付いたかしら?
息だって一瞬止まってしまった事も?
私は大きく息を吸うと、もう一人の大事な人の行方を尋ねていた。
「あ、あたしは、女の子の方が良いわ。あ、あたしと仲が良くなってくれそうな女の子は、ええと、この学校にいるのかしら↑。」
ダレンは頬杖の手を額に当てるという風に変えてから、はあと大きく溜息をつき、いない、と答えた。
「いないの?」
「ああ。親父さんと親父さんのライバルの結婚式のお祝いで国に帰っている。」
「はあ?↑」
これはキャラづくりしなくても勝手に口から出ていた。




