悪い人が悪い事をしないように予防することが一番大事
セリーヌは隣のアンナの事を調べてくれた。
そしてあたしがセリーヌに電話した数日後、彼女はあたしを訪問して調べた事を教えてくれたの。
「よくあることよ。アンナの今のお母さんは本当のお母さんじゃ無いのよ。お父さんの再婚相手なの。仲が良く見えてもアンナは辛いのかもしれないわね。」
「まあ、アンナはあたしを虐める事で助けを求めていたのね。セリーヌ、あなたが悪い継母を説得できないかしら?」
「彼女は評判がいいお母さんよ。再婚したばかりでアンナと少しぎすぎすしているだけかもしれないわね。あなたから見て何かあったら教えて頂戴。私がグリーンさんを訪問してみるわ。」
あたしはセリーヌの膝できゃあと叫んでいた。
「まあ、エルヴァイラ、どうしたの!」
「ね、ねえ、アンナって、アンナ・グリーンって名前だってこと?」
「ええそうね。どうしたの?エル?」
「だ、だって。」
あたしはだってというだけで、セリーヌには何も説明できなかった。
そしてそれはなぜか今でもわからなかいけれど、アンナ・グリーンという名前の女は、この世界において、将来必ず、悪逆非道な事を成す人物だと当時の私は直感してしまったのである。
虐められていたからそう思ったのでは無いのよ。
だって、これこそあたしの時々湧いて出る第六感、セリーヌは預言者の力だとあたしを褒めてくれた力がからによるものだもの。
だからなのか、セリーヌはあたしの恐怖心を信じてくれた。
「何かあったら私に電話するのよ。これが私の自宅の電話番号。真夜中でもこれならば私に助けを求められるでしょう。」
あたしはセリーヌにありがとうと言って抱きついていた。
彼女はあたしを本当の娘の様にして抱きしめ返し、あたしは彼女に抱きしめられながら、里親が彼女だったらいいのにと思ったのは当り前の事ね。
さて、アンナの話に戻るわね。
あたしは脅えもしたけれど、将来正義の為に自分が戦う人になるのだという事は、息をするようにしてわかっていたのよ。
だから、子供ながらに現状の好転方法を考えた。
その目的の達成には大人に直談判しなければいけないけれど、その結果としてあたしが五歳という年で殺されるかもしれない。
でも、正義の為に覚悟を決めたの。
覚悟って重すぎるかしら?
だってそうでしょう。
再婚相手の娘を虐めている継母なのだもの。
まるきり他人の、それも孤児に何をするか分からないわ。
「でも、やらなきゃ。アンナのいじめはあたしへのSOSだったのよ!」
あたしはアンナ・グリーンの自宅の玄関前に立っていた。
アンナとピンクちゃんが学校に行っている間に、グリーン家の魔女、アンナの継母に突撃訪問したのだ。
アンナの生活環境が改善すれば、この先のアンナが世界を脅かす存在になることは無いはずだと、子供心に考えた結果なのである。
「まあ、かわいこちゃん、今日はどうしたのかしら?」
玄関には若々しく美しい女性が出て来た。
アンナとは違って茶色の髪に茶色の瞳という地味な色合いだったが、その女性がアンナの継母に違いないだろう。
「ねえ、おばさん。アンナを虐めるのは止めてくれる?アンナがそのせいであたしに意地悪をするのよ!お腹の子供は他所の男の人の子でしょう。だったら、アンナこそ可愛がらなきゃお家を追い出されるのはあなたの方よ!」
あたしは近所中に聞こえる大声を出した事は覚えてはいるが、その後のことはなぜかちょっと記憶がない。
途切れた記憶の後に目が覚めたのは病院で、アンナの継母があたしを殴り飛ばしたから気絶していたのだとそこで教えられた。
正義の執行が危険極まりないのはいつもの事よ。
「まだ怖いかな。何があったのか教えてくれる?」
私に真実を尋ねたのは、紺色の制服を着た警察だった。
もちろん、あたしは正義の執行者の制服を着ている人に、正直に答えていた。
ピンクちゃんもあたしも、そして、アンナはいじめっ子でも、まだ子供な子達はちゃんとした正義に守らなければいけないからだ。
「アンナのママにね、もう意地悪しないでってお願いしに行ったの。」
「それで殴られたの?」
私はそうだと答えた。
退院する時には、ピンクちゃんの家も隣に住んでいたグリーン家もどこかに引っ越したと聞かされて、あたしは再び孤児院に戻ることになった。
ああ、そうだ。
あたしの手を引いて孤児院に連れ戻ってくれた男の人、あの警察官その人だったが、彼が私に尋ねたんだったわ。
「どうしてアンナのママのお腹の子供がグリーンさんの子供じゃ無いと君が知っていたのかな。アンナが君に話したのかな?」
「いいえ。子供を虐める人は、夫を裏切るぐらい普通にするでしょう。あの人はアンナを虐めていたからそういう事をしていたはずなのよ?」
「そう。そうなんだ。そうかもね。でもね、次は証拠がない事は口にしない方がいいよ。たくさんたくさん悲しい思いをする人が増えるからね。」
「わかったわ。」
あたしはそう答えていたが、正義こそ大事じゃ無いの、と、あなたは大人で警察官の癖に何も分からないのね、と心の中で呟いていた。
いいえ、心の中でしか呟く事が出来ないと思い知ったそこで、あたしは決意できたのかもしれない。
弱きを守るために、あたしこそ正義を貫く勇気をもたなければ、と。
だから私は顎をあげ、大人の男の人だろうが、彼の両目を真っ直ぐに見た。
「アンナ・グリーンという子は世界に仇を成す存在なのよ。」
彼ははっと気が付いたようにして目を見開き、そして、セリーヌがあたしに感銘を受けた様にして、彼はあたしを信じるって言ってくれた。
アンナ・グリーンには気を付けろと、町の人や同僚達に伝えておくよ、と。




