スポポポポ~ン
2021/4/18 (誤)アベル→(正)アダム
私の立ち位置から見える的は、形や大きさから大人の男性ではなく子供の体みたいに見えた。
「ねえ、アストルフォ。」
「いい加減に俺をショーンと呼ぶんだ。バーンズワースはアダム。君はこの世界ではレイナなのだから。さあ、レイナ。あの的を粉々にしようか。」
彼にとっては人間以下の私なのだから、彼に何を言っても無駄なのだろう。
私はエルヴァイラが大嫌いだけど、人を傷つけるための武器を彼女に向けるなんて行為など、いいえ、誰にだってしたくはない、のに。
「早く。レイナ。」
私は両足を踏ん張ると、金の錫杖、ええと、魔法が使えない私が魔法が使えるようになる魔法の箒を人型に向けた。
小型の、子供にしか見えない形の的に。
アストルフォと口論しても仕方がなく、彼に知りたい事を尋ねてちゃんとした答えが返ってくるわけが無いと知っているはずだろうと自分を諫めながら。
「さあ、使い方を教えて頂戴。ショーン!」
「その魔法電池は炎属性だ。的に向かってイメージをすればいいよ。君のイメージを読み取った機械が勝手に魔法をそこから放出する。」
私は錫杖をギターか何かを捧げ持つような感じで構え、炎魔法と聞いて思いつく自分のイメージを頭に描いた。
ソフトボールぐらいの大きさに丸まった炎の玉だ。
「いっけええ!ファイヤーボール!」
スポポポポ~ン。
錫杖のオブジェの先から次々と火の玉がポンポンと放出し、それらはスポーンと小気味いぐらいに放物線を描いて人型の的に当たった。
ボンボンボンボンボンボン。
「やったわ!全弾命中う!」
私は右腕でガッツポーズを取って、ほんの少しだけ飛び上がっていた。
実行する前の人を傷つける云々を忘れるぐらい、実は祭りの射的ゲームよりも物凄く楽しかったのである。
火の玉がぼーんと的に当たって弾ける様は、祭りの太鼓みたいだったし。
「はう!」
軽くの衝撃だったが、私は隣に立つ男に後頭部を叩かれたのだ!
え?後頭部を叩いて来たのは初めてじゃないか?
私は暴力を振るって来たアストルフォを見上げると、彼は苦虫どころか神経を抜かなきゃいけない虫歯があるぐらいに顔を歪めて私を睨んでいた。
「な、なに?」
「今までのこの機械の試射実験ではね、魔法弾を撃ち出すどころか、暴発してテストオペレーター達の両腕ごと吹き飛ばして来たんだぞ、これは!」
「何よそれ!何よ!勝利の為の試し撃ち会じゃなくて、私の腕を吹き飛ばしてしまおう会だったの?さいてい!あなたって本当に最低な男だわ!」
「この馬鹿うさぎ!こんなスポポポポ~ンな火の玉じゃ、攻撃力皆無でしょうが!君は死にたいの?本気のエルヴァイラは、君が乗っていた救急車を宙に持ち上げて地面に叩きつける事が出来たんだよ?」
私は意外と真っ当な事を言ったアストルフォに驚くとともに、そんな化け物と戦わされるんだと、ひょえっとなりながら魔法の箒を胸に抱いた。
いや、脅えたのは彼の物言いだけじゃない。
アストルフォがなんと、うわ、なんと、デザートイーグルとか名前が付きそうな強面の銃を、彼の懐から取り出して私に見せつけて来たのだ。
こ、この人は、本気で武装もしている軍人だった、のね。
「な、ななななななにをするつもり?」
「いや。そういえば君は人を殺せる攻撃魔法を見た事が無かったなってね。」
「いえ。何度も見させていただいているわ。お忘れかもしれないけれど、私は二度ほどあなたに殺されていてよ?」
ぷす、とアストルフォはこっそりと笑って見せた。
そのくせ、私には小馬鹿にするような顔しか見せず、また、物凄く乱暴に自分の身体で私を押しのけ、私が立っていた場所に彼は立った。
「見ておいで。うさぎちゃん。これが人を殺せる炎の弾だ。」
彼は的に向かって銃を一発ぶっぱなした。
ただの銃弾が撃ちだされるや炎を纏ったものとなった。
的に当たった時には、ドオンと大きな破壊音をあげ、あとには形も何もない的でさえなくなった支柱だけ、その支柱も二度と使えないものになっていたけれど、そんなガラクタを一つ作り上げていたのだ。
「見たね。では隣の的を、俺の炎弾を思い浮かべながら撃ってみようか。」
私はごくりと唾を飲み込み、新たな的に向かって魔女の箒の先を向けた。
頭の中のイメージはアストルフォの恐ろしい銃撃の記憶。
ギチギチギチギチギチ。
機械が動作不良の音を立て、箒の先を真っ赤に燃えたてさせ始めた。
暴発?
「ショーン!危険だ!機械を放棄させろ!」
「ああ畜生!」
私達を見守っていたバーンズワースが危険だと声をあげ、アストルフォも呼応するようにして罵り声をあげた。
そして、アストルフォは私の手から機械を奪い、その機械を片手だけで持って的に向けたのである。
どおおおおおおおおおおおん。
機械は爆発どころかロケットランチャー並みの炎の玉を的に撃ちだし、的が立っていたその一角をバチバチと火花が弾ける状態の焼け野原に変えた。
さすが、アストルフォ、なのかしら?
「あー、あーあー、分かった。暴発の理由が分かった。あれだ。持ち手が能力以上の魔法を繰り出そうとすると、魔法を制御できなくて機械を暴発させてしまうってだけだった。あーあ。うさぎちゃんだとスポポン弾な玩具にしかならないってことだ。ああ、どうしよう。この子の攻撃性が上がらない!」
アストルフォは意外と本気で私の攻撃力をあげようとしていたらしい。
私はスポポン弾なら誰も怪我させないからと、落ち込んだ風にしてしゃがみ込んだアストルフォの腕から魔法の箒を取り上げた。
「うさぎちゃん?」
「ええと、これは貰っとく。いいわよね、ショーン?」
「魔法電池が無ければ使用不可な魔女っ子アイテムだけどね。」
「あ。」
「いいよ。あげる。替えの電池が無くなったもしもの際の時のさ、魔法電池の充電方法も教えてあげようか?」
「え?」
私はアストルフォに抱きしめられ、なんと唇を奪われていた!
私の腕の中の魔法の箒は、ミュインと、いかにも充電できましたよ、という風な機械音を立てた。
「本当は自分の魔法力を注ぎ込むだけなんだけどさ、君は魔法力が三しか無いものね。もしもの際は、適当な特待生と肉体的接触を計ればいいよ。あ、もちろんロラン君以外でね。」
「あ、じゃあ僕がやってあげる。引率者として常に一緒だもんね。」
「それこそ思いっきり無理!」




