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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第三部 第十八章 モブも箒に乗って
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復讐するは我にあり

「それはお前だけが受けた傷か?」


 俺の腹の火傷の後を見たニッケは尋ね、俺はそうだと彼女に答えた。

 ミュゼこそこれを受けたと答えれば、ミュゼの死をニッケに教える事になる。

 ニッケやダレンがミュゼが生きていると信じているならば、それはそのままにしておこうと思ったからだ。


 いや、彼等がミュゼが生きていると信じている限り、俺もミュゼが生きていると思い込めるような気がするからだ。


 そう、復讐をやり遂げるまで俺は生きていなければいけないから、この世界のどこかでミュゼが生きているって自分に思い込ませたいのだ。

 ミュゼが死んだ世界なんて、ああ、息を吸うのだって俺は苦しい。


「ハルト。お前は大丈夫か?ええと、責めて悪かった。」


「馬鹿ニッケ。お前はしおらしくなるな。ミュゼが慌てるぐらいに傍若無人に俺を罵ってくれ。」


「なんじゃああ、それは!いやじゃ。こんなハルトは嫌じゃ。この馬鹿!」


 顔を真っ赤にして、大きな紫色の綺麗な目に涙を一杯浮かべて、俺の頼み通りにニッケは俺を罵倒してくれたが、お前、それって反則ぐらいに可愛いだろ?

 部屋の真ん中で立ち尽くす俺を彼女は突き飛ばし、そして部屋を出て行った彼女の小柄な体による軽い足音が遠ざかって行った。


「ミュゼの言っていた通りだな。ニッケって可愛い。ああ、それでどうしてエルヴァイラにだけは俺は嫌悪感ばかりで全く心が惹かれないのかな。俺は彼女を欺かないといけないのにさ。」


 エルヴァイラが入院していた病院を俺が退院したあの日、俺はフォードによって自宅に連れ帰られたが、フォードに頼んで彼の社員を二名ほど借りていた。

 フォードは父の会社専用の警備会社を経営しており、彼の会社には元軍人という経歴の人材は沢山いる。


「フィッチとノーマンは能力者との戦いも軍人時代に経験しています。」


「うん。でも、相手の得意技が幻術なんだ。だからさ、敵を呼び出す方法のアドバイスやサポートだけ頼みたい。でさ、俺のまず捕獲したい敵がノーマンって名前なの。偶然って怖いね。」


 さて、フォードの選抜した男達は有能だった。

 その夜のうちにノーマン襲撃を実行できたのだ。

 ノーマンとはどういう男かとフィッチ達に尋ねられ、女装してまで惚れこんでいる女を守っている男だ、と俺が答えると、獲物と同じ名前のノーマンが使い古された手を提案してきたのである。


「エルヴァイラを外に呼び出すメモを作る、か。いやあ、ほんっとにかかった。君がそこまでエルヴァイラに捧げられる真心があることが俺は信じられないよ。俺はさ、彼女に一度だって心が惹かれた事なんて無いからさあ。」


 俺は俺のメモをエルヴァイラに手渡される前に目を通した男を地面に引き倒しており、その男はエルヴァイラの代りに病院の屋上庭園に出て来た自分のうかつさを呪いながら歯噛みをした。


「幻術は使えない。お前に筋弛緩剤を刺した。幻術の為の集中なんてできないよね。」


「はふ。き、きさま!俺を殺して、ははは、人殺しになるか?」


「そうだね。エルヴァイラは次に殺る。俺に何をされてもいいみたいだからさ、筋弛緩剤を打ち込んで、適当な裏路地に捨てようか?いろんな男を経験できるかもねえ。そう思わないかな?」


「きさ、貴様!や、止めてくれ!俺には何をしたっていい!た、頼むから!」


 俺はあっさり過ぎるぐらいに陥落したノーマンに、やってやったぞという達成感よりも、肩透かしを喰らった気持ちの方だった。


「わかった。エルヴァイラに何もしてほしくないんならさ、教えて。どうして誰も傷つけないミュゼを寄ってたかって虐めるんだ?」


「そ、それは。」


 俺はノーマンの答えを聞いて、思いっ切りノーマンを蹴り飛ばしていた。

 無抵抗の彼は俺に蹴られて転がり、その時にコンクリートの地面に顔をしたたかに打ち付けて昏倒した。

 俺はそれでも怒りが収まらず、さらに彼の顔を地面に打ち付けてやろうと彼の髪を掴んだが、彼の鼻も口元も真っ赤に彼自身の血で染まっていたことで急に冷静に戻れた。


「あいつを殺してやりたかったのに。」


 先日の暴行をそこでやめたのは、ノーマンの血を見て冷静になったからではなく、俺の中のミュゼが俺に止めてと叫んだ気がしたからだ。

 そうだ。

 あいつと同じところに逝くのならば、俺は人を殺してはいけないだろう。


「畜生!あんなに優しい女の子に、あんなくだらない理由で!」


 俺は部屋の真ん中で、今までに何度も叫んでいた言葉を同じものを、再び叫んでいた。

 叫びたくもなるだろう!

 俺の大事なミュゼが処分決定されたのは、彼女の存在がエルヴァイラの癇に障るという理由だけだそうだ。


 ノーマンはそう答えた。


 エルヴァイラが俺を愛している、から。

 それなのに、愛する俺がミュゼしか欲しがらない。

 だからミュゼを排除すればいい?


 許せない。


 ああ、ノーマン、俺はエルヴァイラには絶対に何もしないよ。

 俺が絶対手に入らないとエルヴァイラに思い知らせ、その上で俺はエルヴァイラの目の前で死んでやるつもりなのだ。


 エルヴァイラが制御不能になったら?

 ハハハ軍部め、ざまあみろ、だ。

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