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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第三部 第十八章 モブも箒に乗って
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友との再会

 トゥルカン王国から我がアルカディア連邦合衆国に戻って来たお姫様は、トゥルカン王国の土産を持って来たと俺を訪問してくれた。


「お主はなーにをやっておるんじゃ。そこにミュゼがいたのに、簡単に敵にミュゼを差し出して来たとは。この役立たず。」


「お前だって、ミュゼが証人プログラムで政府に連れていかれたと聞いたその足でお国に帰ったんじゃないか!」


 俺がニッケについてダレンから聞かされた話はもっとえぐかった。

 俺がミュゼをアストルフォに奪われていたその時、色々と面倒になったニッケが、中庭に巨大生物を召喚して大暴れしたというのだ。

 彼女は学生達のロゼットリボンを全部奪い、ついでという風に一番偉そうな男を人質に取ったという。


 ダレンは言った。


――人質にした偉いさんに、国際問題にしたいのかって脅せるのはあいつぐらいだよ。チョー怖え。


 その怖い少女は今や俺を睨みつけ、俺に向かって何かを放った。

 それは俺の顔に直撃し、俺は自分の顔から落ちて床に落ちたものをニッケにぶつけ返すつもりで拾い上げようとした。

 俺の指が止まったのは、俺の部屋に入るなり彼女が俺にぶつけて来たものが、トゥルカン王国の観光パンフレットにトゥルカン王国への帰化申請書類であったからである。


「はん!このど阿呆が!!」


 俺は彼女がなぜ自国に戻ったのかをすぐさま理解し、彼女の行動力と俺達への庇護心に感動もしたが、俺が卑屈な気持ちになる方が強かった。


「君が男の子だったらさ、ミュゼはきっと君に惚れていた。そうしたらさ、ミュゼは元気にここにいるんだよな。」


 ニッケは俺に、ば~か、と言い返すと、後ろ向きにぴょんと飛んで俺のベッドに上手に座った。

 そして、俺に座れと言う風に床を指さしたのだ。


「床にか?」


「当り前だ。ヌシはわしに説教される立場にある。そら、座れ。」


 俺はニッケに罵られても何も言い返せないと、ぐぬぬという情けない悔し顔を見せつけながら彼女の言う通りに床に胡坐をかいて座った。


「主は泣くだけか?惚れた女が奪われて泣くだけなのか?なあ!」


 俺はぐっと歯を喰いしばった。

 俺は決めている。

 だが、ミュゼの親友である彼女を巻き込んではいけない。

 俺だけで完結する復讐でなければいけないんだ。


「はあ、だんまりか。この覇気の無さ、先月のまでの父と同じだ。」


「おい、ちょっと待て。父って、お前の父だろ?そんな言い方可哀想くねえ?」


「いや。あの間抜けは十七年を無駄にした間抜けじゃ。さっさとトゥルカン王国に乗り込んでハチの巣になる覚悟をすれば良かったのじゃ。」


「いや、だから実のお父さんに死んでくれって、ひどいだろ!」


「何が酷い事があるか!」


 ニッケは俺のベッドの上に仁王立ちした。

 お前、靴を脱いでいないだろ?

 無理矢理にでも俺のベッドから彼女を下ろそうと手を伸ばしたが、彼女を捕まえるその前に、ニッケが俺に吼える方が早かった。


「死の覚悟を決めて女王に謁見したその時、奴は女王と国民の尊敬を受け取ることが出来たというのに!遅いわ!あの馬鹿!」


 俺はやっぱりニッケに両手を差し伸べて、それどころか、ミュゼの不在の代りとして俺が彼女を抱き締めた。


「良かったな、ニッケ。これでお前の父親は名実ともにトゥルカン王国の女王の夫となったのか。」


「いや。遅かったと言っただろう。父は恩赦を受けて銃殺刑を免除されただけだ。わしの弟の父となる男の方が一足早かった。全く、わしが女王になれなかったらどうする!」


 俺は可哀想なニッケの父を思い、今後はトゥルカン王国の迎賓館には近づかないようにしようと心に決めた。

 あの親父に八つ当たりされるのは物凄く嫌だ。


「全く。次期女王の父が二番目の夫とは!二番手など、愛人のままと変わらぬではないか!」


「え?でも夫にはなるんだ?」


「当り前だろ。我が国は一妻多夫の風習だぞ。」


「それ、ダレンに言った?言っていないなら絶対に言うなよ。あいつは純な奴だからさ、自分がたった一人の夫になれない相手だと知ったそこで恋愛対象から絶対に外すからな。」


「そうか?あいつにもその観光パンフをやったが、トゥルカン王国の実際を知ったら婿になりたいって言ってくれたぞ。」


 俺は幸せを掴んだらしいニッケをぽいっと放り出すと、ニッケに早く帰れとぞんざいに言い放った。

 俺に帰れと言われたニッケは、不満そうに俺を眇め見た。


「慰めと活を入れに来たわしに、お前は。」


「感謝しているよ。感謝しているからさ、帰れ。お前にこんな印をつける羽目になりたくはないからな。」


 俺はシャツを捲り、ミュゼが殺された証となっている俺の腹の焼き印をニッケに見せつけた。

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