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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第三部 第十八章 モブも箒に乗って
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君にできる事

 何度も生き還っている私なのに、私には魔法力は備わらなかった。

 八月の半ば、最新型の魔法力判定機、液晶タブみたいな形のものをアストルフォが持ってきたが、期待する彼の顔に反して私の数値は三と出た。

 そして、その結果に憤慨したのは私の監督者のバーンズワースである。


「三だって?こんな低低ひくひく見た事が無いよ!君は本当に生きている人?」


「ハハハ。アダムったら酷い。うさぎちゃんってもともと人畜無害なものでしょうよ。僕らの大事なこの子は、そんなうさぎそのものだってこと。」


 バーンズワースの出した素っ頓狂な声に対し、アストルフォの声が自慢しているようにも聞き取れたので、こいつは私の低い数値を確かめるためだけに最新式の判定機を持って来ただけなのだろうと考えた。


「だが、この結果はやばいよ。これじゃあこの子を保護しきれない。」


 え、保護?

 いま、バーンズワースが保護なんて人間味のある言葉を吐いた?

 本当の本当は、彼等は私を守っていたという事?

 そうなの?

 忘れていたけど、アストルフォはダレンの指導教官としてハルトが死んだ巻の続巻で登場していたらしき人だったものね。


「ハハハ。大丈夫。変な結果過ぎて、多分、観察続行素材のままだよ。君の自由研究の実験体は奪われる事なんか無いって。」


 ああ、そうだろうよ!

 あなた方に人情を期待した私が馬鹿だったのよ!

 憤慨する私を嘲笑うようにして、アストルフォは私を自分に抱き寄せた上に私の頭をポンポンと気安く撫でた。


「よーしよし可愛い子。君はこのままでいないさい。だって君は魔法力が低くとも、君は他の子にはできないことができる。そうでしょう?」


 確かに、怨霊体に関しては私は誰よりも扱いが上手い。

 いや、アストルフォとバーンズワースの会話を盗み聞くに、実際は私を物の数に入れていない奴らが私の目の前で今のようにして平気で機密情報を喋り合うだけなのだが、その情報からすると、怨霊体の召喚をクラウリー士官学校の生徒にさせてみたが誰も私みたいに霊の制御が出来なかったということだ。

 制御不能の怨霊体に反撃されてミンチになった人もいるとか、おぞぞ、だ。


「確かにね。本当に不思議な子だよ。一か月も走り込みをさせてさ、一秒だってタイムが縮まないし、五キロ走らせると自動的に気絶しちゃう体力無しだ。それなのにね、近くのデパートに買い物に行ってさ、ちょうどよく爆発騒ぎが起きた時なんかね、僕よりも早く外に逃げ出しているんだよ!」


 バーンズワースは、私を指さして、信じられないと大声をあげた。

 だって私はモブですから。

 ゲーム上のモブはレベルなんかUPしないし、イベント時にはメインキャラを残して悲鳴をあげながらさっさと姿を消すという習性もあるじゃない。

 ハハハ、バーンズワースにこの一か月扱かれた事で、自分こそそのゲーム設定そのものっぽい自分のモブさ加減を思い知らされて、何てことだと頭を抱えてしまっているけどね!


 本当に何てこと!

 これでハルトに再会したとして、もしも、もしもよ、ハッピーエンドになれるとして、本気で私とハルトは一緒にやっていけるの?ってことよ。

 物語の主要キャラと、その他大勢のモブ、なのよ?

 私はほうっと溜息を吐いた。


「どうした?うさぎちゃん?君は立ち止まったら捕食されるウサギなんだからね、幸せな世界を求めて走り続けなければいけないんだよ。」


 私の肩に腕をまわしたままのアストルフォが、妙に優しい声で私の耳に囁いてきたことで、私は自分の頭のどこかがぷつんと切れた音がした気がした。

 彼の行為は私がいつでも殺せる獲物だと見下しているからこその行為であり、そんな踏みつけをされ続けてきた私にも、とうとう我慢の限界が来たのだ、

 私はアストルフォの腕を、彼の身体を、思いっきり払いのけていた。


「アストルフォ。あなたは本当は私に何を望んでいるの?あなたはエルヴァイラを混乱させる雑音を排除したいだけだって言っていたじゃない!何が幸せを求めて走り続けろ、よ。私の障害はあなたよ!私の不幸せの原因はあなたよ!私な大事なハルトを苦しめているのもあなたじゃ無いの!」


 私は憎き男の目を真っ直ぐに見つめて罵倒したが、真っ直ぐに見つめていたからか、アストルフォのアメジストの瞳に一瞬だけ紺色のリボンが見えた気がした。


 人を惑わせて残虐な行為をさせてしまう紺色の呪い。


――魔法で殺されると魂のバランスが崩れるからかな、彼等は人殺しだったりさ、人を愛せ無くなったりね、するんだよ。


 アストルフォは両目をしっかり瞑り、それから再び瞼を開けた時、彼の透明な宝石のような瞳の中には何の陰りも見えなかった。


「真っ黒いと何も見えないからね、君から色を抜いたんだ。君の瞳はまだまだ穢れがない透明だ。残念な事に、そのせいで何も見えていないみたいだけれど。」


 アストルフォの言葉に、私はバーンズワースを見返して、彼の青い瞳の中を探るように見つめた。

 青い瞳には何も見えないと彼の顔から視線を動かした。


「ま、ああ。」


 バーンズワースの足元、彼の影の中で紺色の長いものがぴょんと蠢いた。


「アストルフォ。あなたが怨霊体を調べていたのは――。」


「し~。俺は何も聞きたく無いな。だって俺は君に命令する立場だもの。いいかな、魔法力も体力も得られなかった君は、明日からは知識だけをその身に蓄えるんだ。わかったかな。」


 私は分かったと言って頷いて見せた。

 アストルフォの恐ろしい行為ばかりで忘れていたが、彼はスーハーバーでハルトの姿に化けて「呪い」を探っていたじゃないか。


 彼が探していたのが、怨霊体そのものじゃなかったとしたら?

 それは、あの紺色の呪いの起点だとしたら?


 そうだ。

 プロムパーティで私が襲われた時、いいえ、呪いのワンピースの時だって、あの紺色の呪いが蠢いていて、あの時に、あの紺色の呪いを受けて殺された者が怨霊化するのだと知ったのでは無かったか?

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