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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第三部 第十八章 モブも箒に乗って
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俺は恋愛馬鹿らしい

 高校でずっと好きだったらしい女の子、その子が病院でこん睡状態に陥っているからと深夜に見舞いに行き、情けない事にそのまま欲望のまま意識のない彼女に口づけていたのだそうだ。


 俺が。


 その場面を目撃したらしき看護師の話では。


 そして俺はキスをするやそのまま床に倒れ、その目撃者によって俺は医者を呼んで貰えることになったらしい。


 俺はよく寝たという風に目覚めて起きたが、気が付いた時、そこが病院で、それも個室で、隣にキラキラした幸せそうな女の子が入っているベッドがあると気が付いて物凄く驚いた、のに。


 この病院はなんて破廉恥なのだと大声をだしかけたそこで、目覚めたばかりの俺は看護師達に囲まれた。

 可愛い恋の物語?

 そこまで愛されて羨ましいわね。


 看護師たちは俺のバイタルを測りながらエルヴァイラに声を掛けていたが、俺はその情報が身のうちにしっくりくる事で大声で叫びそうになった。

 なんて俺は情けない男なんだ!と。


 寝ている人にキスなんて、そんなの変態行為だろ?

 それなのに、当の昏睡時に俺にキスされた被害者であるはずの彼女は、俺の行為に引いたり気持ち悪がるどころか、喜ぶばかりだった。


 おかしい。


 好きな子にそんな事が出来たのか?俺は?

 いや、出来る気がするが、俺はエルヴァイラにそこまでキスしたいとは思った事が無いような気がした。


 おかしい。


 俺は彼女を愛していたんだよな?

 それに、それに、そんな事をしたら俺は突き飛ばされていたはず、え、そんなことがあった?

 エルヴァイラと?


「ロラン!あたしはあなたが絶対に来てくれると思っていたわ。あんなにボロボロな姿になってもあたしのもとに来てくれたなんて!思っていた通りよ!」


 獲物を狩ったと喜ぶ猫みたいに、エルヴァイラは金色の瞳を輝かせ、彼女の周りに花が咲いているのではと思わせるぐらいにはしゃいだ笑顔を俺に向けた。


「君が思っていた通りの行動を、俺は今後も取らなきゃなのかな?」


「え?」


「ああ、いや、なんでもないよ。ごめん、ローゼンバーク。」


「あの、人前で恥ずかしがらずとも、あの、本当に良くてよ。あなたは私をエルって呼んでくれていたじゃないの。エルと呼んで!」


 エルヴァイラのベッドの脇にいた看護師達が、照れちゃって可愛い!なんて俺を揶揄う台詞を口々に言い放ったが、俺は彼女を愛称で呼んだ覚えはない。

 だよね?


 おかしい。


 俺の頭の中では、記憶では、俺が彼女を好きだった、と言っている。

 だが、どんなに頭の中を覗いても、彼女を好きになった記憶が一片たりとも見つからない。

 おかしい。

 おかしいよ。


「あの、ロランさん?あなたの左手、あの感覚はありますか?見たところ、全く動かされていないようですけれど。」


 俺の血圧を測っていた看護師がおずおずと俺に言葉をかけ、俺はようやく自分の左手、そういえば左手なんかもあったなと自分の手を見下ろした。

 不思議な事に、左手に感覚が無かった事に、俺は今初めて気が付いたのだ。


「その手は動かないのですか?」


「感覚が、何も。」


 しかし、自分の手を見つめているうちに自分の手に何か温かい感覚が戻って来て、俺が見つめている事に答えるようにして左手の拳が開きかけた。


「あう!」


 頭に酷い頭痛が起きて、俺は左手を再びぎゅうと握った。

 手を開くんじゃない。

 頭でなく心が俺に命じてきたようだった。

 おかしい、俺はおかしいよ。


「あの、ロランさん?」


「ああ、すいません。退院できますか?俺は混乱しているようですから、一度家に帰ります。いいよね、ローゼンバーク。」


「あの、エルでも。」


「ごめん。」


 エルヴァイラは気が強そうな顔をした美人だが、俺のせいでかなり気弱そうな表情になって、あからさまにしょぼんと肩を落とした。

 その姿に申し訳ないという罪悪感は湧いたが、俺は恋人のはずの彼女を抱き締める事も出来なかった。

 自分がおかしい、そして罪悪感ばかりが募った。

 俺に迎えの者が病院に来て、俺の退院を許可されるや、俺は病院を逃げ出すようにして後にしていた。

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