寮生活なんて大嫌い
私の名前はレイナ・シェフィールド、先日使った仮名そのままだ。
まあ、その名前でクローバータウン校の生徒として軍部の名簿に登録しちゃったらしいので、その名前のままでいくと私の保護者は言った。
「この間の黒髪も可愛いけど、君は真っ白の髪の毛も似合うね。目の色も変えられちゃったんだ?白うさぎだって黒目な子はいるのにね。」
「目の形自体変えられちゃったのだもの。今更。」
「そうだね。早く前の顔に戻れるといいね。僕はあの顔の方が好きだよ。」
モブの顔は癖が無いからね。
私は心の中でアダム・バーンズワースに答えていた。
彼が私の監督官で監視者だろうが、今の私は愛想を振りまく余裕などない。
あれはほんの三日前だ。
いや、まず、三日目どころか、一週間以上前にさかのぼる。
夏休みで寮には生徒の誰も残っていないからと、アストルフォが両親に私との一週間を持ち掛けた。
両親はそのことでアストルフォを完全に信じたばかりか、彼が薦めるまま、クローバータウン校の寮に一週間も寝泊まりしてくれたのである。
そしてアストルフォの思惑通り、私の両親は私の環境は大丈夫だと安心し、今後一切政府に訴える事など無いだろう風情でにこやかにスーハーバーに帰っていったのだ。
私の身に起きた不幸はその夜、つまり三日前の夜の事だ。
両親が帰るやすぐに、私の顔はアストルフォによって整形されたのである。
彼がいつもしている樹脂の仮面を貼り付けての変装ではない。
私の顔の筋肉や脂肪を動かしての、魔法手術による完全なる整形だ。
私は自分の顔を鏡で見て、殆ど悲鳴に近い声で泣き叫んでいた。
「こんな風にされたら、次に両親に会う時はどうなるの!お父さんもお母さんも私の顔が変わったって泣いてしまうわ!」
「大丈夫。その時は俺のいつもの魔法変装でミュゼに戻してあげる。」
何事も無いようにアストルフォは答えたが、私は今の顔がおぞましくていやでいやで堪らない。
以前よりも目尻がほんのり下がった可愛い系美人にされたが、こんな顔は私が馴染んでいた私の顔ではない。
ハルトが大好きだと言ってくれた顔じゃ無いのだ。
それでも、恩情で生かされている処分決定の私なのだから、両親の為には、いえ、実はハルトの為が一番だが、大事な人達の安全の為には私が我慢して頑張らねばいけないのだ。
でも、私だって意地がある。
私に怨霊召喚士なる称号を与える気持であるならば、私が今後軍の機密だろう怨霊体の資料を読み漁ることが出来るのだとしたら、私に反旗を翻すチャンスだってあるのでは無いのか?
そんな思惑と意地だ。
そのぐらい覚悟しなければやっていけない。
アダム・バーンズワースは、脳筋野郎でもあったのである。
「じゃあ、休憩は終わり。これからグラウンド十週。君はまだ三キロしか走れないというヒヨコちゃんだ。十キロぐらいは軽く走れるようになろう。」
私は前世の中学時代に、バレーボール部に入って頑張っていた事を思い出そうとした。
背が伸びるように、ポチャッとした体が細くなるように、と願って、大好きな漫画の真似をしてバレー部に入ったのだ。
結果、背は伸びずに体も細身にならなかったが、下半身はずしっとした安定したものとなれたなあと、いや~な風に思い出した。
「嫌だああ。筋肉ムキムキは嫌だあああ。固太りは嫌だあああ。せっかく良いスタイルなモブなのに!」
思わずの叫びにバーンズワースは吹き出したが、もともと軍人で自分の体だって鍛えるのが大好きなナルシストのスパルタ野郎だ。
この三日間、泣いても笑っても、朝から晩まで走り込みをさせられているのだ。
「さあ、走る。タイムを計っているからね。昨日よりも遅かったら一周追加。」
私が転生したのは恋愛少女小説だったはずだと思いながら、ハルトへの想いだけで頑張って足を振り上げていた。
「がんばれー。僕達のフォローなしで走って敵を倒せるようになれ。そうじゃ無いと君は自由な野っ原に帰れないぞ!」
私は両腕を大きく振った。
確かに体をしっかりと鍛えて、私も戦えるようにならなきゃいけない。
アニメの重要キャラ役の声優がモブキャラに声を充てるなんてよくあることだが、モブが重要キャラに成り代わるなんてありえない事象だ。
でも、私はレイナ・シェフィールドになってしまった。
アストルフォに変えられた外見を冷静になってから改めて鏡で見て、そこでようやく私はハルトが死んでしまう巻の内容、いいえ、ハルトを殺す敵のことをしっかりと思い出したのだ。
九月十四日にエルヴァイラが戦って倒す相手、スーハーバーを混乱に落とし込む魔女、それが白髪のレイナじゃないか!




