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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第三部 第十八章 モブも箒に乗って
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証人保護プラグラム

 私が蘇生した時、私はやっぱり全裸で、私がベッドに一人横になっているというこの間と同じシチェーションだった。


 ただし、違いもあった。


 横になっていた場所がアストルフォの家の地下室ではなく、どこぞのホテルの一室であり、アストルフォは別の部屋にいたどころか私のベッドの脇の椅子に腰かけて私の蘇生を見守っていた、というところだ。


 もちろん、彼の隣にもう一人、彼の複製みたいなろくでなしもいたが。


 私は乙女らしく彼らに見られまいと胸を慌てて隠したが、人を実験動物以下にしか見ていなかった奴らがそんな私の裸など気にしていないどころか、実験が成功したという風に小さく拍手をして喜んでいた。


「おお~、本当だ。生き返った。この子の能力がゾンビ?」


「うーんどうだろ?肉体をばらして繋ぎ合わせ直して蘇生したらそうなんだろうけどね、俺はそこまでやりたくないんだよ。内臓って、ほら臭いし。アダム、気になるんならさ、君が試してみる?」


「ええ~。僕も臭いのは嫌だよ。ほんっと、死体の臭いって嫌なものだよね。」


 ああ、人の内臓が汚くて臭くて良かった。

 内臓が無臭だったら、このろくでなし鬼畜共にバラバラ死体にされていた所だ。


「まあ、わかるけどさ。ショーン、君は本当にきっちり殺したの?ミュゼちゃんが可愛いからって、君は手を抜いたんじゃないの。君の攻撃を一緒に喰らったロラン君だって元気ぴんぴんじゃ無いの。」


「いいやあ。本気の本気で一気に二人殺しを狙ったよ。うさぎちゃんって見た目よりも頑丈みたい。ほら、君だって確認したでしょう。うさぎちゃんのバイタルも、それに、今や背中にできた俺の印、もさ。」


 ハルトの無事という情報にはほっとしたが、アストルフォによる聞き流せない物言い、お前の印って何だよ!に、私は恐る恐ると背中を振り返った。

 そこには、確かにアストルフォの印が出来ていた。

 背中の真ん中に押し付けられて出来たらしき真黒な焼き印、それも、アストルフォの手形、という最低最悪なものであった。


「いやああああ!何これ!最低!変態!変質者!純情な乙女の肌に何をしてくれるのよ!」


 アストルフォは首を軽く回すと、乙女?と馬鹿にするような声色で口にした。

 え?もしかして、もしかされていた?


「せっかくだし、今からやる?本気で俺のモノになれば、俺の印なんて嬉しいばかりになっちゃうかもよ。」


 私は真後ろにある枕の端を掴むと、それを思いっ切りアストルフォに向かって投げつけた。

 もちろん、彼が間抜けにぶつけられる訳はなく、私の投げた枕は彼を直撃どころか私の手を離れたその一瞬で粉々に爆発した。

 真っ白な羽毛が宙に舞い、それがために、何処から見ても美しい男でしかないアストルフォの存在を、天使めいてみせるという演出にしかならなかった。


 告知ではなく、死を告げるという天使の方だ。


「元気いっぱいで嬉しいよ、うさぎちゃん。さあ、次に俺が君に期待することはわかっているよね。」


「従順になること、でしょう。」


「よくできました。」


 次にアストルフォに殺されて目覚める時には、アストルフォの隣にもう一人増えているのかしらと、本気で嫌な気持ちになったと思い出す。


 また殺されるのであれば。


「ですからね、大事なお嬢様でいらっしゃるミュゼさんを、反社会的犯罪組織から守るためにですね、証人保護プラグラムを利用しませんかと申し上げているのです。いえ、彼女の為に了承してください。お父様、お母様。」


 今の私はアストルフォの隣に座り、私は彼に守って貰って安全です、私の身柄を彼に完全に委ねてください、という顔を作っていた。

 ここはホテルの一室で、アストルフォに呼び出された両親は、私の元気な姿に涙を流して喜び、そして、私が別人として生きる事をアストルフォに説得されているのだ。


 嫌だと両親に訴える?

 いいえ、ここで両親とも決別していれば、両親が私の人質になることが無くなるのよ。

 そうでしょう。


「ミュゼ、君は大丈夫なのかい?」


 お父さん!大丈夫なんかじゃないわ。

 今ここで叫び声をあげたいくらいだ。

 でも、大丈夫だと言わなければ。

 でも、喉が詰まって声を出す事が出来ない。

 口を開けば、この作り笑いが壊れてしまう。

 私が泣いたら、両親は私をきっと連れ帰ってくれる。

 そうしたら、家族全員地獄行きだ。


「ご心配なく、ライトさん。お嬢様とはこれっきりではありませんよ。彼女の安全の為に別人として過ごして頂きますが、長い休みの時には、ええ、こちらが家族で過ごせる場所を提供します。その時には、軍部の私達が安全の為に見守ることにもなりますが。」


 私の両親の顔付が希望のあるものへと変わった。

 私に会えるというカードを貰えるのであれば、両親が私の安全を一番に考えてくれるのは当たり前だ。

 でもね、アストルフォが言った通り、監視付きの家族の団欒なのよ。

 そして、アストルフォは、私の両親を完全に陥落させる言葉を続けた。


「状況が変わればご家族のもとに帰せます。しばらくは、ええ、ええ、ちょっとだけ厳しい寮付きの学校に進学させたと同じだと思って頂ければ。」


 父はアストルフォの差し出した書類にサインをした。

 私の安全の為に、私が別人として保護されるという、私を悪魔に売り渡すだけの契約書だ。

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