結局はモブ
怨霊体が私達に一直線に向かってくる!
ハルトは私をグイっと引いて向きを変え、彼に向き合わせになった私を自分の身体に押し付けた。
私はハルトの身体に押し付けられたそのまま、なんだか反射行動みたいにしてハルトに抱きついた。
どごおおおおおおおおおおおおん。
私が呼んだ怨霊体は監視塔の下部にぶつかり、監視塔の壁のコンクリートを破って破片をまき散らした。
そんなものにぶつからずに助かったのは、なんと、気が付いた時には私とハルトが抱き合ったまま宙に浮いていたからだ。
「きゃあ!空を飛んでいる!」
「君だってさっきは飛んでいたでしょうよ!君も風を使えるようになったんだ。」
「いいえ。風じゃない。お化け!この世に未練残しまくりの怨霊よ!」
「うえ、何それ!」
「ああ説明はあとで!ハルト!右に避けて!また向かってくる!っきゃあ!」
ハルトの反射神経は最高なものらしく、彼は怨霊体の攻撃をギリギリに交わしてくれた。
今度の私達はくるくる回りながら、ひょろひょろと床に落ちていくけれど!
「ハルト!」
「ミュゼ!あの凄い気圧の塊は何なんだよ!俺の風でもあれを遮れない。」
「だから、幽霊。痴漢に間違われて線路に落とされた可哀想な人!だから痴漢だって嘘を吐く人が嫌いなの。って、きゃあ!」
私達、いえ、ハルトは私達に向かって来た怨霊体から避けるために、私を抱いたまま少々乱暴に中空で向きを変えたのだ。
すごい。
ハルトには怨霊体が見えないらしいけれど、今度もスレスレで交わしてくれた。
「ハルト、あなたって凄い、のね。」
「はは、ありがとう。わけわかんないけどね。で、君が、あいつらよりもおかしなものを呼び寄せたのはわかった!で、何をしているのよ!」
「だ、だって!あいつらが頭に来たんだもの!ぶっ叩きたかったんだもの!」
「わかった。俺もそうだから許すよ。で、どうしようか。あいつらは、ちくしょう、俺達が攻撃されているのを喜んで見ている!」
私も首をまわして地上を見下ろしたが、ハルトの言う通り、私の呼び出した怨霊体の実際を知っている彼らはニヤニヤ顔で私達を見上げていた。
怨霊体を呼び出した私にこそ、あの怨霊体は自分を冤罪に落とし込んだ相手だと思って復讐に飛んでくるのだ。
「ミュゼ、どうする?」
「ええと、今度向かってきたら成仏させて、いえ、良い事を考え付いた。」
私は自分に再び怨霊体が突進してきたと知るや、思いっ切り大きな動作で憎き男達を指さした。
指を差したそこで、良い事を考え付いたと思っていたが、これは単なる思い付きじゃないのと、ギリギリで気が付いてしまった。
そこでサーと血の気が引いた。
でも、ここで止めるわけにはいかない。
やらなければ直撃を受けて大怪我をするだけだ!
そうでしょう!一か八かよ!
「あいつらよー!あいつらが真犯人だわ!あいつらが私を痴漢してあなたを線路に落としたの!あいつらが全部悪いのよ!」
はたして、私とハルトに直撃する一瞬、カキーンという風に怨霊体の針路が曲がった。
それはまっすぐにアストルフォ達に向かっていったのだ。
「ざまあみろ!真っ当なモブを舐めるんじゃない!」
「ミュゼ!暴れないで!落ちる!」
私はハルトに抱きつき直した。
この温かい体を二度と離すもんかと彼の身体に腕をまわし、彼の温かい胸に顔を擦りつけるようにして埋めた。
ハルトは私の様に対して嬉しそうなクスクス笑いをあげ、彼の胸に顔を埋めている私には彼の笑い声が快く響いた。
「よし、やっとミュゼが大人しくなってくれた。さあ、俺達は逃げようか。」
はいと言おうとして、私の喉が詰まった。
やっぱり、両親の顔が頭にちらつき、だから逃げられないと観念した。
私はやっぱりハルトを裏切らなければいけない。
一緒に行けないと言わなければいけない。
だからせめて、ハルトの胸から顔をあげて、大好きなハルトの顔をしっかりと見つめようと思った。
だけど、私はハルトの顔が見えなかった。
ハルトが私の名前を何度も呼んでいる声が聞こえたけれど、私にはそのハルトの温もりも感じなければ何も見えなくなっていた。
だって、世界が真っ暗だ。
「怨霊体の始末の仕方を君に教えたのは、俺こそ、でしょう。」
ああ、そうだった。
私、またアストルフォに殺されたんだ。




