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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第十七章 モブよ、失敗したなら言えばいい、これが運命、と
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監獄舎にて愛問答でもんもんする男

 俺は訳が分からなかった。

 だからこの現状よりもミュゼに対して怒っていた。


 何だ?意味わかんないよ?

 俺が助けると言っているのに、どうしてあいつは俺に助けを求めないんだ?

 どうしてあいつこそ俺を守ろうなんて馬鹿な事を考えているんだ?


「お前こそ考えるな!走れ!間抜けが!」


「はい!ニッケ様!」


 とにかく俺は監獄舎へと走った。

 ニッケ様が俺のぬいぐるみを作成してくれたので、俺は中庭集合などブッチして、とにかくミュゼが向かうだろう監獄舎に先に辿り着こうと必死だった。


 うん、頑張った甲斐があった。

 俺は一番乗りだった。

 ミュゼの影も形もそこに無かった、けどね。


 そこで俺はミュゼを待つために、三階建ての牢屋の一番上、まあ、三階部分の適当な牢屋に入り込んだ。

 埃とカビ塗れのベッドと、小汚いトイレしかない腐ったような空間。

 丸出しの便器は黄ばんで、どころか茶けていて、もう人が使わなくなって数十年だろうに、糞尿の強い匂いを発していて鼻が曲がるようだ。


「どうするかな。監視塔の方がキレイかな。ここは無理、汚すぎて無理。」


「あの女、クローバータウンなんてふざけた学校名の奴をやっつけたら恩赦って本当かな?」


「恩赦って嫌な嫌な言い方だな。俺達は選ばれた人間だ。そんな人間に歯向かった奴らに躾をしただけだろう?」


「まあ、そうだけどさ。勝ち進まなきゃ能力者専用刑務所行きって言うじゃん。」


 能力者専用刑務所行き?

 俺は今いる牢屋の中から動くのを止めた。

 じっと息を潜めて窺っていると、女二人は監視塔に入って行き、赤髪の男は再び監獄舎の外へと出ていってしまった。


 奴らがミュゼを待ち伏せるつもりならば、俺は今すぐ動くべきか?

 目の前に現われた、処分決定されるぐらいの屑な事をしでかしているらしき人間を、ミュゼが辿り着く前に俺が倒しておけばいいのでは無いのか?


 ただし、ここで三人の会話が思い出された。


 ミュゼを倒したら恩赦が出る。


 もしかして、ミュゼも同じような唆しを受けているのでは?

 一人でローンリバー校を倒したら、恐らく、俺とニッケとダレンが恩赦が貰えるとか何とか。


――監獄舎には来ないで。


 俺達を遠ざけるだけのあの物言い!


「あり得る。あの馬鹿!」


 俺は牢屋の中に留まっている事に決めた。

 ミュゼが俺達を守るためにしようとしている事、そんなミュゼに降りかかるであろうあの三人の攻撃、それを見守り、いざという時にミュゼを助けようと。


 あいつはちょっとぐらい怖い思いをして俺に助けを求めるべきだ。


 怖い思いをしたら……ニッケと一番に叫びそうだ。

 いやいや、アストルフォなんて叫んだら俺の立つ瀬がない。

 ハハハ、ダレンは無いな、絶対。

 ああ、ヒヨコはあるかもしれない。


「畜生。ミュゼが来る前にあいつらを倒して――。」


 俺は牢から身を乗り出しかけ、そして、ミュゼが監獄舎の扉を開けた事で俺は再び動く事が出来なくなった。


「かつらくしたぞ~!」


 意味不明の事を叫んだミュゼは、一瞬で宙に浮かんだ、のだ。

 驚く俺が彼女を見守る中、彼女は再び意味不明の叫び声をあげた。 

 天使が聴衆に敵の大将の名を告げるかのように。


「ジョーン・ボイドこそ監視塔にいるぞ!」


 地獄が展開された。


 上下一階から三階まで、それも四方八方になる九か所の檻が弾け、その鉄柵が次々に監視塔に突き刺さったのである。

 それだけじゃない。

 炎だ。

 黒煙と鉄をも溶かす灼熱が監獄内で渦を巻いて充満した、のだ。


 赤髪の下種は、己の作り出した針山に突き刺されると、叫び声をあげている。

 監視塔の中からも少女達の悲鳴だ。

 プチン、プチンと、彼等の胸のロゼットリボンの固い布が、胸から弾け跳んだ音が聞こえた気がした。


――ガルガンタル校の奴らが一時間足らずでコテンパンにのされたそうだ。


――監獄舎には来ないで。


「本気で俺はいらないってやつだったのか。単に俺の存在は足手まといだってだけか。凄いよ、君は。」


 ミュゼを称賛するよりも、虚しさばかりが自分の胸を締め付ける。

 俺は彼女が自分を守れる人だと知って、そこを喜ぶべきなのでは無いのか?


「……情けないな、俺は。学校での王子扱いは嫌だとか言っていた癖に、ミュゼには王子に思われていたかったなんてさ。俺は、そう、ミュゼに求められていたかった。ミュゼを助けるのがいつも俺でいたかった。」


 俺は天使のようなミュゼを見上げた。

 彼女は自分がモブだと言って笑うが、彼女には彼女であろうとして生きて来た特技や経験が彼女の中で生きて輝いているのだ。


「知っていた?俺は能力を取ったら、何もかもがまずまずな、とりえもない男なんだよ。」


「監獄の鍵は開いているうううううう!逃げろ!自由だ!逃げろ!」


 やっぱりミュゼは最高だった。

 俺がいなければ駄目だと思わせてくれるなんて!

 彼女の作り出した地獄がパッと消え、その代わりに、彼女によってそれ程ダメージを受けなかった敵の逆襲が彼女に襲いかかってしまったのだ。


「ばか!魔法を解くのが早すぎだ!」


 ひゅるひゅると地上に落ちて来た間抜けな天使を、この俺が今こそ救わねばと、俺は勢いをつけて飛び上がっていた。

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