地獄の底を作り出した者
彼の能力の発現の目覚ましさを目にした事で、ブラックが土属性であることを私にしっかりと思い知らせた。
コンクリートの床は裂け、床の下を通っていただろう下水などの鉄パイプが床を突き破り、宙に飛んでいる私の真下で私を待ち受ける剣山となっている。
「滑落って声をあげると引っ張り上げて助けてくれるだけなのに、そんな優しい霊を怨霊扱いする軍部って酷いわよね。」
怨霊体クリフは私の呟きにぶるっと震え、私を床に放りだしそうになった。
そうだ、彼は助けた遭難者に崖に突き落とされた人だった。
「滑落です!まだ滑落中です!」
私は自分が呼び出した「吊り下げられた男」に振り落とされないようにしがみ付き直しながら、ハルト達に来ないでと言った理由をブラックに、いや、監視塔にいる少女二人にも味合わせるべく大声で叫んでいた。
「ジョーン・ボイドこそ監視塔にいるぞ!」
三階の三か所の檻の扉は監視塔に向かって弾け跳び、それらは見事なまでに監視塔の壁に刺さった。
二階部分の独居房全てから監視塔に向けた形で炎が噴き出している。
熱せられた鉄の檻の破片は真っ赤に染まっていき、恐らく、監視塔に閉じ込められた少女達は全身を火傷するような熱波に煽られているだろう。
これは実際に起きた事の再現と、監獄舎の亡霊達の夢の実現でもある。
囚人達はジョーン・ボイドという名の囚人の指示に従い、外の農園作業の担当の者は肥料を盗んで爆弾を作って仕込み、ボイドの唆す脱獄を夢見たのである。
それこそが、快楽殺人者でもあるボイドの狙いとも知らずに。
彼は準備が整ったからと、隠された爆弾に火を点けさせた。
――ほら、爆弾でこの檻が一斉に弾けて監視塔を攻撃する。
そうしたら、一斉蜂起だ、脱獄するぞ!
現実には鉄の檻を破るほどの威力のない爆弾は、爆弾を仕掛けた囚人だけを攻撃し、また爆発によって起きた不燃の煙による一酸化炭素中毒で、監獄舎内の囚人の五十五人が亡くなったという実に痛ましい結果で終わった。
監獄舎内に九つの怨霊体としてこびり付いた思念は、私が叫んだ言葉によって恨みを活性化して目覚め、ジョーン・ボイドに唆された脳裏に描いた夢を私の足元で再現させているのである。
「いやあああ!熱い!出してええ!」
「痛い!ああ、髪の毛が焼ける!痛いいいいい!」
監視塔に閉じ込められた少女達が叫び声をあげている。
自分達よりも美しいからと妬んだ気持ちそれだけで、罪のない同級生を全裸にするだけでなく、発火能力を使って全身に火傷させた二人だ。
「あの可哀想な子はもっと痛くて悲しかったはずよ?」
ブラックがいた一階部分はどうなっているのか。
暴動を起こして射殺された囚人の霊たちが地獄絵図を描いていた。
看守と勘違いされたブラックは、亡霊達に捕まり、自分の作り上げた剣山に押し付けられようとしている。
「う、ぎゃあああああ!助けて、ああ!止めて!痛い、痛いよ、ああ!止めて!」
私は監獄舎内の怨霊体の思念は全部開放できたはずだからと、このすべてを終わらせられるはずの言葉を吐きだした。
「監獄の鍵は開いているうううううう!逃げろおお!自由だあ!逃げろおおお!」
全ては一瞬でパッと消えた。
亡霊達全てが光り輝くオーブに変わり、次々と、監獄内にいた五十五人の魂はビュンビュンと飛び交いながら外へと逃げ出して行ったのだ。
「私はちゃんと人助けが出来たんだね。」
「ええ、クリフさん。私は助かったわって、うそ!消えないで!」
吊るされた男もぱっと消えたのならば、私はひゅんと落ちるだけだ。
ブラックが作り出した針山の上に!
「あはははは、ざまあ見ろ!俺が作り出した糞だめの鉄パイプに刺されて死ね!」
「そうよ!不細工女!穴ぼこにされてしまえ!」
「あたしらにした報いを受けろ!この、糞女!」
落ちる私の服はバリっと破れ、破れた服は炎を吹き出して私の身体に蛇のように纏わりつく!
私は自分の甘さに歯噛みしたが、自分の甘さにほっともしていた。
こいつらと一緒になるのは嫌じゃない?




