罪を赦すのは自分の心
「はい?」
ああ、上ずっている!
声が思いっきり上ずった!
私は「共闘」の単語により、完全に私がした事をバーンズワースに知られていたのだと気が付き、ペナルティを受ける覚悟どころか脅えるだけでバーンズワースを見返すしか無かった。
ごめん、ハルト。
助けるつもりがあなたの足かせになっているみたい。
「ひゃあ!」
私の魔法変装メガネがバーンズワースに奪われた。
メガネを奪ったバーンズワースは、右手で眼鏡を掴みながらも伸ばした指先で、私の鼻筋、急所の眉間をすっと撫でた。
「ひゃあ!」
「ハハハ。本当にうさぎさんだ。ぴくぴくして可愛い。うん。こんなメガネを掛けさせたあいつの気持ちがわかるな。あいつは意外と拘りが強いから。」
「拘りって、自分好みの可愛い顔に変装させるのが?」
「ハハハ。違う違う、君は素顔の方が可愛いよ。可愛いから変装させたんだよ。素顔の君が大怪我したら、あのショーンが冷静でいられなくなっちゃうから。」
「ま、まさか!それは絶対にないわ!私の素顔なんか十人並みじゃ無いの!」
本気で絶対に違うと強く言い返してしまっていたが、そういえば相手は大人しくしておくべき私の看守様だった。
しかし、バーンズワースは私に笑いながらメガネをかけ直し、ついでに鼻の頭を突くなんてことまでした。
「あいつの気持ちがわかるな。本当に君は普通の子だ。人に怪我をさせたって、その行為を深く後悔しているぐらいの可愛い子だ。」
「いいえ。ろくでなしよ。あなた方に逆らうよりも言う事を聞いた方が良いって、勇気がないから人を傷つける方を選んだ卑怯者だわ。」
「いい子だね。じゃあ、真実を言おうか、このサマースクールの本当の姿。」
「怨霊体の研究実験?ついでに、処分したい子供達の処分会?」
「何だ、わかっていたのか。じゃあ、君が倒したガルガンタル校の子達がその能力で色んな悪事をしていたことは理解できるよね。僕達は能力があるからって殺している訳じゃない。魔法判定を受けるまでの生育経過も見ているんだよ。そして悲しい事に、人と違う能力を持った子達は万能感から人を傷つけても平気な子供が多く出てしまう。」
「ハルトもダレンも、ニッケこそ、優しくて、傷つきやすくて、守られるべき人達だわ!そんな人達を思い違いの判定をして、特待生なんかにして隔離をしたってことなの!」
「軍部が優秀な能力者が欲しいのも真実だ。それから僕はね、あんな真っ直ぐな子達こそ守りたいと思っている。軍人は弱き者を守ってこそだ。ローンリバーの子達はね、能力を使って気に入らない女の子や男の子を公衆の眼前で裸に剥いたりして自殺に追いやって来た子達なんだ。」
私は刑務所の見取り図の横にあるファイル、このサマースクールに連れて来られた子供達の罪状も簡単に書かれたものを横目で見た。
どの子も許せないいじめをしてきた過去のある子供達で、それを読んだ私は自分でガルガンタル校の生徒を最初の生贄に選んだ事も思い出すしかない。
「それは、わかっている。だから、こそ、」
「いいから聞いて。大人が子供を処分するのは簡単だけどね、僕は能力というもので歪んでしまったのだったら、その能力が敵わない相手に壊される事で更生できるかもしれないと、ああ、僕は考えるんだよ。この子達はやり直せるんだろうか、と。ショーンはそれこそ残酷だから止めろと言うのだけどね。」
私は自分が倒したガルガンタル校の人達が、バーンズワースに囁かれた後に、三人固まって泣き出した姿を思い出していた。
――君達に殺されたユーリは、もっと辛かったと思わないかな。
「更生を考えさせるのがどうして残酷なんですか?」
私の声は震えていた。
バーンズワースの言う事は真っ当で慈悲深い言葉にしか聞こえないのに、私の足の指先が彼から感じるうすら寒さにきゅっと丸まってもいるのだ。
バーンズワースは両肘をついて両手の指を絡めた。
絡めた両の指の人差し指にキスをしているようにも見えるが、自分のお喋りな口元を押さえているだけの様にも感じた。
だって、彼が私に重ねた言葉はとっても残酷だった、から。
「本当に更生したのなら、自分で自分の命を絶つと思うんだ。生きていけない程に他者を追い詰めた罪、その死んでしまった被害者の苦しみを理解してこその更生だ。更生したと言って真面目に生きているだけの奴らなんて、僕は更生したなんて見ないね。」
――あいつは俺よりも人間味が無いからね。
「バーンズワース先生?クローバータウンの子達は、ええと、この処分会に参加しなくて済んだ子達はどうなったのかしら?」
バーンズワースはにっこりと微笑んだ。
「更生したよ。ちゃんと、更生させた。」




