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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第三章 出るモブは打たれる
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好きな女の子をどうやって守るのか

「すごい仏頂面。その顔で学校内を歩けばお前の人気が落ちるんじゃないの?」


 俺は楽しそうな軽い口調の男を睨みつけた。

 とりあえず今は授業中だ。

 しかし睨まれた男は、全くめげ無いどころか、授業中なのに関わらず、隣に座る俺の耳元に再び揶揄いの言葉を囁いた。


「君はそんな顔をしていても可愛いよ。」


「てめ!」


 俺と同じ焦げ茶色の髪だが、俺と違って全部が艶のある焦げ茶色で、瞳だって同じ色という、チョコレートの化身のような男がチョコレートみたいな甘い笑顔を俺に向けた。


「俺は男だぞ。その甘ったるい笑顔は女に取って置け。」


 ダレン・フォークナーは、男の俺だって背筋や腰回りがゾクゾクしそうな低くて素晴らしく響く声で笑い声をあげた。

 とりあえず、講義をしている教授には聞こえない声で、だが、そのせいで尚更に腰に響く低音となっている。


「君がご執心のミュゼちゃん、彼女に笑いかけてもいい?」


「ふざけんな、馬鹿。ただでさえミュゼが困っているんだ。」


 反射的に言い返していたが、ダレンは普通に外見の良い男であるので、特待生クラス内外においても、憧れの君、なんて言われて騒がれている。

 俺と同じ十六歳という年齢ながら、以前は格闘技に近いスポーツをしていたせいか背も高くて体格もとても良いのだ。

 そこに真っ直ぐな鼻梁に彫りの深い目元という整った顔立ちが追加されれば、変な頭の俺よりも女子に人気が出るのは当たり前の話だ。

 俺は女教師には惚れられていないものな。


「だからさ、本当は俺と付き合っているという風にしたらどう?」


 俺は目線だけで友人になったばかりの男の心臓を止められないかな、と彼をまじまじと睨みつけ、俺に睨まれた男は嬉しそうに笑い出した。


「すごいな、そのミュゼちゃん。この間までの君はさ、常に斜に構えた雰囲気で、同じクラスの俺達をゴミ屑を見るような目で見ていたじゃないか。それが、こんなに怒ったり心配していたりの百面相だ。」


「怒るし、心配だってするのは当たり前でしょう!」


 大事な友人が、それも女の子が酷い目に遭っているのだ。

 それも、俺のことをよく知らないくせに俺に恋をしているらしい、女の子達の手によって!


――ハルトと友達でいられるなら、もっと虐めてもいいよ。


 ああ、天使!


「気持ちが悪い。今度は顔のしまりがなくなった。」


「うるさい。ああ、役に立たない授業なんかすっ飛ばして、ミュゼの様子を俺は知りたいよ!」


「確かに。魔法の勉強なんて役に立たないに俺も賛成だよ。電気が無い時代ならば魔法は御大層なものだったのだろうけどね、数時間かけて炎が出来る魔法を習得した所で、俺達はライターに負けるじゃないか。」


 俺はハハハっと笑い声を立てていた。

 ダレンと友人になれたのはミュゼのお陰だな、と意外と皮肉屋だった好青年を見返して、俺はありがとうと彼に言っていた。


「君のお陰で俺は冷静になれたよ。ミュゼのチョコレート缶を取り返してくれたりと、君は俺の救世主だな。」


「バカな事を。同じ男としてね、好きになった女の子のお土産をネコババされたらと思うと、俺は許せなかっただけだよ。俺もそんな目に遭ったらって、ね。」


「本当にありがとう。あの寮の看守は、いつからどれぐらい寮生の荷物を横抜きしていたんだろうね。」


「本当にね。ああ、やだやだ。今すぐにでも自白魔法を手に入れたいよ。」


「ああ、俺はどこでも水晶玉かな。ミュゼの無事をずっと確認していたい。」


「それは覗きのストーカーじゃない?」


 俺達はワハハと密かに笑いあった。

 そうだ、授業が終わればとにかくミュゼのもとに駆け付けよう。


「そこの二人!私の授業がどうでもいいのならば、さぞかし素晴らしい魔法力と実力をお持ちなんだろうなあ。今すぐに凍結魔法をこのビーカーの中の不凍液に施せ!凍らせることが出来るまで、今日はお前らの仕事はこれだ。はははは、優等生な君達は直ぐに出来るのかもしれないがね。できたら今日の授業は免除してあげるよ。」


 俺達の私語にとうとう痺れを切らした教授が俺達に罰を与えたが、俺はこれこそ好機であるとダレンと顔を見合わせた。


「ハルト、俺もミュゼに挨拶したい。」


「じゃあさ、さっさと凍らせて教室を飛び出そうか?」


「ハハハ、いいねえ。」


 不凍液は絶対に凍らないと思う人間は多いが、耐性温度さえ超えれば簡単に凍るものなのである。

 俺の風の魔法とダレンの氷結魔法を組み合わせれば、耐性温度がマイナス十五度程度の不凍液なんか一瞬で凍らせることが出来る。


 かきん。

 ぱきん。


「まさか!凍るなんて!」


「じゃあ、教授。俺達は本日はこれで一抜けさせてもらいます。」


「あ、そうだ!教授。せめて不凍液はマイナス四十度ぐらいのものを用意して下さらないと!俺もハルトも、むぐ。」


「ばか、余計な事を言うな。教授、本日はありがとうございます。おかげで虐められている友人の様子を探りに行けます!」


 俺は今すぐに行動したいからと教授におためごかしを言っただけなのだが、いつもの皮肉だけの嫌な教授は顔を真っ赤にして俺に行って来いと言った。


「助けに行っておいで。」


「ありがとうございます。ロックリー教授!」


「うわ、すごい!良い人だった!ロックリー教授!」


 俺はやっぱりダレンの口を塞ぎながら、彼を引き摺って教室を出た。

 一歩足を踏み出したそこで、俺は大事な事を思い出したな、と気が付いた。


「ダレン。どうして教室にエルヴァイラとニッケがいないんだ?」


「え、いなかった?って。本当だ。いなかった。うわ、ニッケどころかジュリアもいないじゃないか!」


 俺達は顔を見合わせると、これは大変だと廊下を必死に駆け抜けた。

 ミュゼの教室に向かって。


 ニッケは指先から出した蜘蛛の糸みたいな繊維を使い、化けたい人物そのものの精巧な着ぐるみを作って他人に成りすます事が出来る。


 ジュリアは幻術だ。

 俺達が彼女達がいないことに気がつかなかったのは、確実に彼女の仕業だろう。


 そして、エルヴァイラ。

 彼女は魔法力は殆どない。

 それでも特待生となったのは、彼女には常人にはない能力があるからだ。


 念じただけで岩をも動かせるサイコキネシス。


 俺の頭はミュゼがサイコキネシスによって壁にぶち当てられる場面を、なんども繰り返して俺に見せつけていた。

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