持つべきものは女友達
私は何も考えていなかった。
ただ、ハルト達が私の為にアストルフォ達職員の宿舎を襲撃すると聞いて、慌てて大声をあげていたのだ。
いや、少しだけ頭が動いていた。
自分の持つポンポンを、昼食のサンドウィッチを縛っていたビニールひもを使って、自分の右足、ほとんどお尻に近い足の付け根に縛り付けたのだ。
アストルフォから支給された私のスカート丈は、あいつの性癖かと罵倒してやりたくなるぐらいに馬鹿みたいに短い。
いや、私だって前世の高校時代は短くしていたけれどね。
でもね、前世の日本人スタイルじゃなく、モブでも前世時代よりもスタイルの良い今では、なんというか、ギャルどころかあやしぃエロ風味を醸すのだ。
なんだか、日本のギャル女子高生というよりも、なんちゃってチアガール的な見た目になっているせいか、棒に絡まって踊るストリップダンサーがそんな衣装を着ている、みたいになった感じの恥ずかしさなのだ。
そんな格好で、ハルトにスカートの中が見えるだろうと思いながら、いや、見て欲しいと思いながら、私はハルト達のテーブルのすぐ隣のテーブルの上に乗って大声をあげたとは。
でも、危険な計画は取りやめて欲しかった。
さあ、私のスカートの中は見えたよね。
さあ、気付いて、スパイみたいな女に危険な相談が聞かれたわよ!
あるいは、私がミュゼだって気が付いて!
「お主!クローバータウンの女だな。友好はどうやって深めるつもりだ。なあ!」
ニッケだ!
私はテーブルからぴょんと飛び降りると、偉そうなそぶりで胸を張った。
いやだ、まるでエルヴァイラの仕草に似ている、なんて思いながら。
ハルトはこんな私をどんな目で見ているのか。
盗み見た彼の横顔は辛そうで、そんな顔を彼がしていると知った私の体は、何も考えずに彼の傍に寄って行ってしまっていた。
でも今は彼の顔を見る事も出来ない。
目を合わせたら私は泣いてしまうだろう。
彼に縋りつきたくなってしまうだろう。
私は大きく息を吸うと、偽物の顔が太々しい表情をしているといいなと思いながら、親友ニッケの問いに答えた。
私の部屋に泊まってくれた時のことを、彼女に思い出してほしいと思いながら。
「怪談話よ。怖い怖い幽霊話で怖がらせ合いましょう。はははは、この世界は怨霊だらけ。私達のバトルフィールドは死霊が呻いているわ。一番脅えた奴を明日の私の生贄にどうかと思ってね。」
「おお、主よ。なかなかな性格の悪さじゃな。」
ニッケは嬉しそうにポンと両手を合わせ、にやりと口角をあげて見せた。
「これはミュゼが言っていた卒業旅行かそんな感じやもしれぬな。日中は仲違いの女グループ同士でも、夜になれば頭をつき合わせて怪談話や恋バナなどに花を咲かせる。よし、いいじゃろう。わしはお前に乗ってやるぞ。」
よし!
察しの良いニッケと語り合えるならば、共闘してあと五日を乗り切る道を互いに見つけ合えるかもしれない。
私も口角をあげてニヤリと笑って見せた。
「はーいそこまで。仲良きことは良きことですが、今日は午後に明日の分を繰り上げてもう一戦を行いたいと思います。お昼も終わったようですから、引率の先生と仲良く各々の作戦室に移動してくださーい。」
食堂の入り口には銀色の誘拐者が取り巻きを引き連れて笑顔で出現しており、彼の後ろから現れた引率職員達、教師という名の軍人達だが、彼が自分の管理学生達を集め出した。
もちろん、アストルフォこそ、ざまあ、という顔で私の想い人の名を呼んだ。
「ロラン君!こっちこっち。君は出来る限り他校の生徒と仲良くしないように。ここぞという時に止めが刺せなくなると困りものだ。」
アストルフォは!
ほら、あなたの言葉に食堂の特待生達みんなが顔色を失っているじゃ無いの。
ついでに、午後にもう一回試合があるというこの状況が私のせいだ、という風な睨みを私に向けて来たのだ。
ハハ、午後も私が一番の獲物に決定ってことね。
口角をあげた私の口元は歪み、私はこっちに生まれ変わってからした事がなかった、舌打ち、を初めてしていた。
ただし、ニッケは私に手を差し伸べた。
青と白のマーブル模様のビー玉の様なものが、ニッケの手に乗っている。
「お主、ミュゼという者を見知っていたら伝えてくれ。チーズポップは美味しかったとな。お礼の飴じゃ。」
「伝えておくよ。持つべきものは女友達だな、とも。」
私はニッケから飴玉のようなものを受け取り、それをすぐさま制服のポッケにいれて彼女から離れた。
私のポッケの中で、私の愛したアオミノウミウシが、飴玉の形を止めてにゅろっと動き出すのを感じた。
これでニッケと交信できる!




