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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第十六章 Run モブ Run
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俺こそ自我を誘拐されていた

「すごいな。クローバータウン校の黒髪、一人で三人を倒したらしい。」

「それも、あそこだよね。ガルガンタル校の奴らでしょう。本当に高校生かってくらいのガラの悪いの。そいつらがボロボロだってさ。」

「よかったんじゃない?いくら能力者たってさ、評判の悪い人達じゃない。一緒くたにされたくないよね。」


 俺は俺達が押し込められている宿舎という名の食堂で、他校性のざわめきを聞いて立ち止まっていた。


――地下には入って来ないで。


 うさぎのポンポンはミュゼの声でそう囁いたそうだ。

 俺は残念ながら聞いていない。

 その声を聞いたのは、黒ポンポン係に任命されたダレンだった。


 ダレンはミュゼと小さく叫び、俺はすぐさまダレンからポンポンを奪い取ったが、既に交信の切れたポンポンは俺の耳にモケモケの温かさしか与えなかった。

 まるでミュゲの頭に頬ずりした感触だと思い出し、ミュゼの声も聞く事の出来ない自分に俺は本気で涙を流してしまったと思い出す。


 うわ、今だって視界がぼやけて来たじゃないか!


 慌てて目元の涙を拭ったが、そんな俺をまた泣かせる奴がいた。


「ほら、使え。今日は開始から一時間しないで終了のベルが鳴ったな。そんな奴とわしらがぶつかったらひとたまりも無かったかもな、なあ。」


 俺はニッケのハンカチを受けとって、それで簡単に涙を拭くと彼女の隣に腰を下ろした。


「ありがとう。」


「いや、いい。持っておれ。それで洗って返せ。わしは洗い物が苦手だ。」


「――お前。これは昨日のハンカチなんだな。俺に洗わせるために俺に貸してくれただけなんだな。お前こそ正義な味方の黒髪さんにやられてしまえ!」


 ミュゼが俺達に禁止した地下室で、ガルガンタル校の奴らは謎の黒髪にボロボロにされたらしいが、奴らは俺とダレンが掴みかかりそうになるほどの糞連中だった、と思い出す。


 小柄なニッケに対し、本当に十六歳なのか調べてあげようか、なんて絡んで来た怖いもの知らずの馬鹿者であったのだ。


 ニッケがニヤリと笑い、明日の獲物は決まったな、なんて言うので俺とダレンは奴らを殴り飛ばすよりも二人抱き合ってニッケに脅えただけで終わったが、奴らはそんな俺達をさらに嘲笑った。

 その上、自分達のしてきた小さい悪事の自慢までしてきたのだ。


 生意気な女の子のスカートを燃やしてやったとか(単純発火能力でしかないくせに!)、カッコ付けのムカつく奴のベルトを切って下半身を丸出しにした事があるとか(恐らく地味な酸化強化魔法で皮を劣化させただけだろう)、だ。


 そんな奴らがミュゼが禁じた地下室でぼろ雑巾になったのである。

 俺はそれだけで黒髪の奴には拍手喝采だが、黒髪の動きを知っていたミュゼに対して酷く心配していた。

 黒髪の奴がアストルフォの手の者だとして、そいつらの動きを探って俺達に情報をもたらしたミュゼの身は大丈夫なのだろうか、と。


「ミュゼはアストルフォの部屋にいるのかな。」


 俺は思わず向かいに座るダレンを恨みがましく見つめた。

 ダレンが口にした事は、俺が一切考えないようにしていた事だ。

 しかしダレンは俺のそんな視線を馬鹿にしたようにして流した。


「お前はお利口さんだよな。」


「どういうことだよ。」


「アストルフォの従順な奴隷野郎って事だよ。俺だったらアストルフォの部屋に行くよ。恋した女の子が閉じ込められていると思ったらね。お前はそんな気概を見せない。お利口さんだなって思ってさ。」


 俺の拳はダレンの顔を狙っており、しかし、俺の手はニッケによって押さえられていた。

 いや、ニッケの召喚獣様に、というべきか。

 俺の腕はピンクの触手に絡み取られ、駄賃とでもいうようにピンクなイソギンチャクの痺れ毒針の痛みまで受けていた。

 そして、ダレンは俺を真っ直ぐに見返していた。

 俺よりも年上だと思わせる冷めた視線で。


「……お前はさ、俺達を何だと思っているのかなってね、時々情けなくなるんだよ。何にも頼んで貰えないってね。こんなに巻き込まれているのにさ。」


 俺はダレンを真っ直ぐに見返していた。

 頭が真っ白になったどころか、彼の言葉が俺を打ちのめしたのだ。


「……これ以上何を頼めるんだよ。こんなにも巻き込んで、命の危険だってあるような状況じゃないか。」


「馬鹿じゃのう、お前は。誘拐者こそルール違反をしているんだよ。人の大事な人間を人質に取るというな。お前はどうしてそこまで誘拐者のルールを守ろうとする?お前はわしらに言えばいい。ミュゼを助けに行くぞ、とな。引率の教師達が閉じこもっている監視棟に、わしらはいつでもぶっこんでやるぞ?」


 俺は口元を押さえていた。

 嗚咽が出そうだと、流れる涙は止められないが、これ以上情けない姿を親友達に見せたくは無いじゃないか。

 明日試合の開始のベルが鳴ったらミュゼの奪還の為に反撃の狼煙をあげようと、俺は今こそ親友達に言うべきだ。


「ダレン、ニッケ、ありがとう。頼みがある、あした、」


「さあ、みなさん!明日は明日の風が吹く!せっかくここに偶然でも会したのだから、友好を深めるのはどうかしら?」


 噂の黒髪が俺達のすぐ横のテーブルの上に立ち、両腕を広げて軽薄なセリフを叫んだのだ。

 俺達に背中を向けて立っている彼女は、とっても短いスカートであることを気が付いていないのか。

 いや、あれは俺にスカートの中を見せたんだな。

 スカートの中に、灰色のポンポンの影が見えた、のだ。

シュルマティクス刑務所は囚人を寝起きさせる収監房である監獄舎がパノプティコンで、円形に配置されている牢屋を一望できる監視塔が監獄舎内にある、という設定でした。

ニッケは教師のいる宿舎を「監視塔」と言っているだけですが、監獄舎内の監視塔と混合してしまうと思い、ニッケの言葉の監視塔の塔を棟に変えました。(2021/5/5)

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