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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第十六章 Run モブ Run
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うさぎはたった一羽で荒野を走り抜ける

 私は開始のベルが鳴るや一目散に目的の地点へと走っていた。

 私に課せられたのは、完全なトラップゲームだ。

 私がトラップのある場所に誰かを誘導し、彼等がトラップの範囲に来たところで起動させる。


 起動?


 怨霊を起動とは笑えるが、私が昨日アストルフォのファイルをまとめて予習したことを利用すれば、怨霊体の怨霊を活性化させることが出来るのである。


「ぴんぽんぴんぽん。あー、あー。皆さん聞こえますか?これから大事なルール追加をお知らせしま~す。」


 私はアストルフォの声など無視してひたすら走る。

 モブな私が、キャラ立ちしている方々、つまり能力者様面々より、単なる運動能力でも優れているはずはないではないか。

 だから私はアストルフォに突きつけた。


 私が最初の目的地に辿り着く手助けをしなさい、と。


 彼は私の言い分に手を叩いて喜び、そして、今現在、その手助けをしている。

 アストルフォのルール変更という名の放送は、阿漕なゲームに参加させられている可哀想な子供達には命綱とも思えるものなのだ。

 彼らが足を止めて放送を聞きいるその一分くらいは、私が彼らの先を走り抜けきる事ができるであろう。


「いいですか~。魔法力でしかロゼッタリボンを取れない、という事でしたが、それでは能力差でハンデがありすぎる~という苦情がありましたので、ハハハ、素手でもオッケーとします。さあ、頑張りましょう。殴り合っても構いませんよ、君達は屈強な世界を守る兵士になるのだ。」


「わあ~、本気で悪役を楽しんでいるわね。」


 私はきゅっとゴムの音を立てて足を止めた。

 私が今日選んだルートは、まず、懲罰的独居房が六つあるところから始める。

 狭い廊下を挟んで三部屋ずつ向かい合っているという所だが、私はその廊下の真ん中に立ち、私の真後ろを誰かに襲わせるのだ。


 ああ、ハルトみたいに風を巻き起こす人ではありませんように!


 私はそんな願いを込めながら、自分が立つ場所に安全祈願の想いを込めて見知ったばかりのマークを足元にチョークで書き込んだ。


「よし、十秒以内に完成!昨夜練習したかいがあった。」


「あ、一番乗りかな。君を倒せば今日はお終い、何だよね。一日に一校ってルールだもんねぇ。」


 私は詰めていた息を吐き、私を追いかけて来た男の子に振り向いた。

 黄色の髪はヒヨコ色でジュールズみたいだが、長めのその髪と痩せぎすのひょろ高い体つきで、単なる薬中のロッカーにしか見えなかった。

 その少年、少年には見えないしっかりした顎の持ち主の青年は、私に向けた顔を十代のくせに中年の様な好色なものに歪めた。


「ここさあ、防音だよね。もしかして、誘われちゃった?」


 私は短すぎるスカートの裾を引っ張った。

 心の中で散々に、チェックのスカート短すぎるだろ!助平が!と、アストルフォに罵声を浴びせながら。


「そ、そうかもね。」


「きみ、すっごく可愛いから、乱暴したくないんだけどさ。ねえ?」


 ハハハ、そうでしょうとも!

 変なメガネと真っ直ぐな黒髪のカツラの組み合わせは最高でしょう!

 モブな私の顔が、いまや溜息吐くぐらいの可愛らしい顔になっているのよ!

 これが趣味かよ、あんちくしょうめ!


 そんな私の憤慨も知らない、そんな私の憤慨を身に受ける事になるだろう不幸な少年、どこの学校の子か知らないが、彼が私に向かって走り寄ってきた。

 私を捕まえようと手を伸ばして。

 私は叫ぶ。


「この人痴漢ですううう!」


 ちがあああああああういぃいいいいいいいいいい。


 私から見て左側、私に手を伸ばした不幸な青年にとっては右側の三つの扉、そのうちの真ん中の一つが開き、中から拘束具を身に着けた怨霊体が叫びながら飛び出した。


「ぎゃああ!」


 怨霊体は進路上にいた青年を撥ね飛ばし、だが、防音効果を高めるための壁にはクッション性がある。

 私は視界の隅で怨霊に飛ばされた青年が死んではいない姿にほっと溜息を吐き、だが、目の前の怨霊からは目が離せないと睨んでいた。

 次は私に襲いかかるはずだ。


 はずだじゃない。

 もう飛び掛かって来た。


 私はぎゅうと目を瞑った。


 ここで死んだら今日のゲームは終わるから、ハルト達は安全地帯に戻される。

 生き残ったら、あと二人を私が手にかける。

 どっちも嫌な事なのだから、どっちに転んでも構わないでしょう、と、私は覚悟を決めたのだ。


 うがががあああああああああああああああああ。


 神様は私にもう少し頑張れと思っているらしい。


 私が書いた神様のマークに怨霊は囚われ、怨霊は電気ショックを受けたみたいにして宙に棒立ちで浮いたまま小刻みに揺れている。

 さあ、言ってあげましょう。

 あなたは痴漢などしていない、信じているわ、と。


 だが私は亡霊に何かを言うどころか、倒れている青年のもとに駆け寄り、彼の胸からロゼッタリボンを取り上げていた。

 その上、怨霊消滅どころか、踵を返して懲罰房部屋から飛び出していた。


 だってこの怨霊、意外と使い勝手が良かった、のだ。


 本気で人を殺しそうな怨霊は消去しよう。

 さあ、次のトラップは、逆さづりの男という怨霊だ。

 どうか今回も人殺しはしないで済みますように!

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