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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第十六章 Run モブ Run
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大きなつづらを開けて見れば

 俺は調理場に飛び込むや、一直線にミュゼの声が響く宝物に向かっていた。

 横長の大きな業務用の冷凍庫、大きな棚が横倒しになった見た目の白い電化製品の蓋は、ミュゼを閉じ込める為なのか取っ手には南京錠がぶら下っていた。


「こんな玩具。」


 俺は自分に能力があることを今ほど喜んだことは無い。

 工具が必要だろう金属の鍵は俺の目の前で弾けた。


「ミュゼ!ミュゼ!」


 俺は言葉を忘れたかのようだ。

 俺はずっと大声を出して叫んでいるが、ミュゼしか口にしていないじゃないか!


「ああ、ミュゼ!会いたかった。」


 俺は蓋に手をかけて、思い切りその蓋を開けた。


「ハルト!」


 俺はミュゼのとっても嬉しそうな声を聞いたはずだ。

 聞いたはずだった。


「ミュゼ?」


 冷凍庫の中には誰もいなかった。

 俺は中にいるはずの少女の姿を探し、いないはずはないだろうと自分こそ中に飛び込んだ。


「おい、ハルト!むやみにそんな場所に入ったら!」


 ニッケの俺を諫める声が聞こえたが、俺には今のこの状況、ミュゼがいなかったという真実を認めることができないのだ。


「ミュゼ!わあ!ミュゼ!君はどこに行ったんだ!」


 俺が頭を抱えて冷凍庫の中に跪いたその時、冷凍庫の中にヒュンと音を立てて何かが、きらりと光るものが俺を目掛けて突き立てて来たのだ。

 ガーウィンが再び襲って来た?

 咄嗟に転がって交わした俺の手の指先は、ふわっとした触り心地の良いものに触れていた。


「……おんりょ……さんびゃくさんじゅうきゅう。……さんびゃく……四十は……ほうちょう……。ほうちょうが本体。」


 うさぎの毛皮が、ぼそぼそと、アストルフォの声で囁いている。

 俺はそれをつかみ、そのまま風を使って冷凍庫から飛び出した。

 それからすぐに冷凍庫の蓋に風魔法を発した。

 風を使って蓋を締めれば、次には蓋が開かないようにと自分の身体を重しにして蓋の上に抱きついた。


「ダレン!氷結してくれ!この蓋が二度と持ち上がらないように蓋をしてくれ!中に亡霊を閉じ込めたぞ!」


「すぐにやる!お前はせいので飛びのけろ!一緒に凍りたくは無いだろ!」


 俺達は目を合わせ、同時に、せいの!と叫んでいた。


 ダレンの氷結は恐ろしすぎる。

 一瞬だった。

 俺が体を離すのがほんの少し遅れただけで、俺はこの冷凍庫に貼り付けられていただろう。


「ありがとう。」


「いや、いいよ。だけど氷は直ぐに解ける。二度と蓋が開かないようにするには何か策はあるのか?」


 俺とダレンの間に細い鉄パイプがにゅうっと差し出された。

 その鉄パイプは、俺達が見ているその目の前で、冷凍庫の取っ手に差し込まれ、ぐにゅうと曲げられる、という非常識極まりない変化を遂げた。


 今までの悲喜こもごも、怨霊への恐怖やらミュゼ不在の喪失感やら、一瞬でどうでも良くなってくる画にされてしまうとはどういうことだ?

 不条理しか感じない俺は、とりあえず八つ当たりをしていた。


「ニッケ。スナイソギンチャク様を召喚したのか。お前はMPが足りないんじゃなかったのか?」


「スナイソギンチャク様はMPなど気にせずとも良いお方じゃよ。」


「そうか。俺はお前のMPを心配しなくて済む小物様に弄ばれてたのか。」


 ニッケは俺ににやりと笑って見せ、鉄パイプを変化させて見せたニッケの相棒で俺の天敵である真ピンクなイソギンチャクは、俺に嫌がらせの様にして触手を上に向けてひらひらさせた。


 いや、本気で嫌がらせなのか?


「ニッケ、そのロゼッタリボンはどうしたんだ?」


 ピンクなイソギンチャクの化け物の触手の先には、俺達の胸にもついているロゼッタリボンが三つもくっついてひらひらしているのだ。


「奪った。これで今日のノルマは達成じゃ。安全地帯に戻れるだろ。なあ。」


 死にかけていた少年からも奪えたのかと、ニッケの冷血な所に俺は唖然としたが、無意識に動いた視界の隅で、俺こそ存在を忘れていた大怪我の人が応急手当をされていた姿を目に捉える事が出来た。

 俺は自分の人でなし度こそ隠すべしだと、ニッケに最高の笑顔を向けた。


「わあ、凄い。色々とありがとうニッケ、君は最高だよ。」


「ハルト、棒読みだ。ちなみに、怪我人の応急手当をしたのは俺だよ。」


「まあ、よいぞ。ハルトはこんなやつだと分かっている。それにな、ハルトも哀れじゃないか。外れ箱でがっかりなのだろう。だがな、ハルトや。考え無しで開けた箱が外れ箱なだけで喜ぶべきじゃぞ。第三の怨霊が出て来たらお手上げじゃったろう?わしらは、なあ。」


 俺は素直に仲間にすいませんと頭を下げ、それから冷凍庫から持ち帰って来た戦利品、アストルフォの土産の色違いを友人達に見せつけた。

 俺達が持たせられたキーホルダーと同じものだが、奴の性質をこれでもかと現わすぐらいに、真っ黒に染められたものである。


「こんなものが入っていた。それでこれからアストルフォの声が聞こえた。」


「ほう。じゃあ、それがミュゼの悲鳴を流していたって事か、ああ、そうか。」


 ニッケは何か思いついたという風ににんまり笑うと、俺達から数メートル離れた場所へと駆けて行った。


「よし。ハルト!お前のポンポンに耳を付けろ。」

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