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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第十六章 Run モブ Run
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チーズポップに潜む危険

 溶かしたプロセスチーズをマカロニに絡めただけのチーズマカロニや、牛肉に衣をつけてフライドチキンのように揚げてしまえというフライドチキンステーキという郷土料理がアメリカに存在するように、この世界のアルカディア合衆国にもたくさんの郷土料理が存在する。


 特に有名なのが、老若男女問わず好み、永遠に愛するらしいチーズポップだ。


 小麦粉、あるいはトウモロコシ粉に粉チーズを入れて練り、一口サイズの大きさに絞り袋を使って絞りながら油で揚げる、それだけのものだ。

 家庭で作れるスナック菓子そのもので、私は油が多すぎてそれほど好きじゃない食べ物でもあるが、今の状況ではそれは言っていられないだろう。


 私は自分で作ったチーズポップを一つつまんでそれを口に放り込み、味を確かめながら自画自賛の溜息を吐いた。


「美味しい。チーズポップはセンダン家ではミュゼのものが一番って言われていたそのものね。ふふ、五年の修行は無駄ではなかったって感じ。」


 ガーウィン肉屋のチーズポップは確かに美味しいものであったが、揚げ油が古くて臭かったのだ。

 そこで私は自分で工夫して作っていたのである。

 自分があまり好きでなくとも、あれば親戚の誰もが喜ぶお菓子であるなら、大好きな親戚たちの喜ぶ顔が見たいだけで作っちゃうものなのだ。

 まあ、九歳の時のまずいゼリー菓子による自分への評価の覆し、それ目的の小賢しい子供の浅知恵、ともいえるが。


「ええと、作って鏡の前で言えばいいのかしら。これこそ本物のチーズポップだって。ガーウィンのレシピを盗んだって。」


 私は自分の腕に抱いたサンドウィッチ用の大きな紙箱、それにぎっしりと香ばしい匂いをたてるふわふわなスナック菓子を眺め、駄目にされたら勿体無いなと急に思い直した。


「ハルトも好きかもしれないじゃない。ジュールズだって馬鹿みたいに好きだったお菓子よ?手料理を食べさせてあげられるかもなチャンスよ?」


 私は幽霊を呼び出すために封をしていなかった事も忘れ、お菓子がべちょっとしないようにキッチンペーパーをさらに投入し、封をした後に箱にラップをかけるという事まで行った。


「セリアの事を思い出せば、怨霊の交霊には臭いこそが必要だって答えに帰結しない?」


 私はアストルフォの声にびくりと体を震わせた。


「いるの?この部屋にいるの?」


 振り向いたが自分以外誰一人としていない台所のままである。

 アストルフォ繋がりで、彼から貰ったポンポンへと自然と視線が動き、腰から下がっているそれがぴくっと動いた気がした。


「俺は魔法使いだ。水晶玉を覗くことだってできる。」


 ポンポンが喋ったと、私は大きく息を吸っていたかも。

 それでもその感覚は驚いただけのものでしかなく、不思議と脅えを感じなかった私はアストルフォの声に応えていた。


「水晶玉?」


 言いながら、アストルフォと一緒に食事をした時、アストルフォが水の入ったグラスを時々覗いていなかったかと思い出した。


「そ、そちらの、み、水は美味しいかしら?」


「ふふ。君は賢い子で大好きだよ。それでつい、俺はヒントをあげちゃうんだな。おやつの時間までにって、ふふ、簡単だったね。」


「え?あれってそういう?あ、ぜんぜん気が付かなかった。」


 あ、黙りこくった。

 自分に絶対に自信のある彼は、自分が施したヒントに私が全く気が付かなかった事に、高い高いプライドを刺激されたと見た。

 そして、そんな彼に絡まれるのは面倒だと、完全防備包装のチーズポップを抱き上げると、味見用に取って置いた数粒を手に持って、とにかく鏡のある場所へと駆けだしていた。


 私の監禁部屋のバスルーム。

 その洗面台の大きな鏡だ。

 息を弾ませながらその鏡の前に立ち、私は鏡の中を覗き込んだ。


 私の抱える箱の上には、まだ出来立てほやほやのチーズポップが二個乗っていて、チーズ嫌いには勘弁してほしいほどのチーズ臭を発している。


「さあさあ、気付きなさいよ。チーズポップよ。ガーウィンさん!あなたのレシピを盗んだわよ!こっちの方が美味しいって、特許出願してやるわよ!」


 鏡に映り込んだ私の後ろ、白いタイルの壁しかないはずだが、その後ろに中年男性が悲しそうな顔をして立っていた。

 悲しそうすぎて、この人が怨霊体になるなんて間違いだと思うくらいの顔だ。

 用心棒達に突き飛ばされて頭を打って死んだその時のまま、ガーウィンは後頭部を真っ赤に湿らせていて、首筋にも赤黒いものをこびり付かせている。


「あなたが閉じ込められた場所に連れて行ってちょうだい。あなたが本当のレシピを持っているって、それをみんなに公表できる人を私は知っている。」


 私の後ろに立つ人は私に両手を突き出した。

 突き出された手は鏡から突き出され、その両腕、太くて剛毛がみっしり生えている中年男性の腕は、私に絡みついて私を引っ張った。


 ブラックアウトした私は瞼を開け、ブラックアウトしたままの自分を知り、自分が悪霊に掛けた言葉を思い出して自分を罵っていた。


「ああ!私の馬鹿!あなたが閉じ込められた場所なんて言っちゃうから!ガーウィンさんは冷凍庫の中で凍死か窒息死しちゃったのね!だから怨霊化出来たんだ!うわあああ、冷凍庫から出してええ!」


 怨霊体となったあなたが、閉じ込められた場所、であるシュルマティクスの食堂、に連れて行って、という意味でしか無かったのだが、悪霊さんは、自分が閉じ込められて殺された本物の殺人現場に私を連れて行ってくれたようだ。


 死体が四体以上は入るらしい冷凍庫の真っ暗な世界で、私はアストルフォの爪先にだってキスしたっていいというぐらいの気持ちで、自分を閉じ込める冷凍庫の扉を叩いて蹴っていた。


「誰か助けてええええええ!」

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