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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第十六章 Run モブ Run
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一難去ってのまた

 俺達は取りあえず作業室での悪霊には対処できたようだが、同じフロアのどこかで、大きな悲鳴が上がった。


「あれは生きている人間のものじゃな。」


「いや、普通は生きている人でいっぱいな世界ですから。」


「そうだよ。女の子の悲鳴だよ!」


 ダレンは俺達を押しのけるや、作業場の扉を開いて廊下へと飛び出した。


「すごいな。あいつは生まれながらの紳士様かも!」


「ミュゼ以外はどうでもいい、というお主の姿勢こそどうかしたらと思うぞ。」


「ミュゼは俺以外のやつにも優しいよ。俺はそんなミュゼこそ大事にしたい。」


 ニッケは俺に感動するどころか、物は言い様だな、と吐き捨てた。

 そして、ニッケは他の人ばかりに優しいダレンの後を、彼女こそそんな彼を守るためにか追いかけるべき廊下へと飛び出していった。


 俺?もちろん仲間を追いかけるさ。

 友情は大事じゃないか?


 俺達がダレンに追いついた時、惨劇らしきものはダレンによってかろうじて防がれていた。

 俺達と同じく狩り出された魔法特待生、紺色に近い紫の髪をした少年と真っ白い髪をした少女がダレンの背に守られている。

 ダレンは自分とその二人を守るために、自分の周囲に氷の壁を築きあげていた。


「よおやった。お主は最高なおのこじゃ!なあ!」


 ニッケが褒めるのは訳も無いだろう。

 大きな肉切包丁を持った見たこともある男、それが時々姿にノイズを走らせながら、姿を現わしているのだ。

 いまや、俺の目の前にも。

 振り下ろされる大きな包丁。

 俺はすぐ隣のニッケを抱き上げ、風を身に纏って数メートル先に飛んだ。


「なぜにスーハーバーの肉屋がここにいる。」


 ダレンが茫然とした声を出し、俺はやっぱり首都育ちのダレンもそうかと、同士だという風に応えていた。


「俺に聞くな。俺は冬にあの店が閉店してから、ずっと悲しく思っていたんだ。」


「まじか!俺もだよ!ハルト!ガーウィンさんのチーズポップは最高だった。店内はクラッシックが流れていたしさ、そんな人がどうしてだよ!」


 最後には泣き声に近い声をあげたダレンの気持ちもわかる。

 寮の殆どの学生達は町に降りればガーウィンの肉屋に寄り、彼が作り上げた少々ジャンクな総菜を買って戻るのだ。

 首都と違いジャンクフードのチェーン店が無い田舎町で、首都で人気だったマクフライヤーのチーズポップなんて屁だと思わせる、最高のチーズポップが食べられるという、首都にいたみたいにしてジャンクといえる軽食を気軽に手に入れられる良店だったのである。


「お主ら、食欲だけの男児とは悲しいな。ハルトが腐った標本を平気で喰うはずだよ、なあ。」


 俺の真横から再び包丁の刃が突き出して、俺は憎まれ口を聞いたニッケも抱えてあげながら刃を避けて跳んだ。

 それからダレンの防御壁に逃げ込もうとしたが、ダレンの後ろで見逃せないことが起き始めている事にこそ気が付いた。

 彼が守ってあげている人達が、守ってくれているダレンの真後ろで、守り手のダレンがダメージを受けるであろう紫色のオーブを作り上げていたのだ。


 紫色に輝く魔法と言えば、ジュリア・ノーマンが得意な、人にしか作用しない幻術系のものしかないのである。


「ダレン!壁を破って飛び上がれ!」


「そうじゃぞ!あれを受けたらお前は奴らのお犬さんだぞ!」


「わ、何って、わあ!恩知らず!」


 ダレンは俺の指示そのままに氷の壁を壊して飛び上がり、俺はダレンを風で掬う様にしてガードさせ、自分はニッケを抱えたまま俺達がいる広間から逃げ出そうと扉前まで移動した。


 ガツン。


 舌打ちをするしかない。

 作業場で変態囚人の霊に襲われた時と同じ、扉が固く閉まってしまったのだ。


「幽霊を倒す以外の道は塞がれたか。なあ。」


「姫君、もう一度キャスパー様を召喚していただけますか?」


「悪いな。大物は一日一回しか呼べん。わしにもMPというものがある。」


「ですよね~。」


 俺はダレンにどうしようかと目線を動かしたが、彼は俺が足元にも及ばないであろう騎士道精神の持ち主だった。


「マジかよ。裏切りかけた人達を助けている。」


「あはあ、間抜けすぎるなあ。きゃつらが悪霊に倒れたらロゼットリボンを奪ってやればいいだけなのに、なあ。」


 俺は暗黒すぎる生き物を放り投げると、単身で悪霊に挑んでいるという親友の助太刀へと駆けだした。

 刑務所の食堂は聖堂ぐらいに広いと思いながら。

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