発見
その少女は『異様』であった。
その幼い顔の右半分は包帯でぐるぐる巻きになっており、髪は片方が黒、片方が白の色で分かれていた。
首からは小さな鈴が巻かれた小型の頭蓋骨、そして数本の骨に糸を通したネックレス状のものを下げていた。
そして何よりも目をひくのが、本来右腕がある部分、そこに少女の身の丈ほどもある棺桶が付いているところだ。
その棺桶の先端には巨大な爪のようなものも付いており、その姿は大人の話に出てきていた恐ろしき者たちであると断ずるのには充分すぎるほどだった。
「し、シリョージュツシ!!」
「え、あ、はい。ん?ああ、はい」
ビシィ!と指先を勢いよく突きつけた少年とは対照的に、少女はどこか間の抜けたようは返事を返した。
死霊術師は不幸を呼ぶ。
村の大人たちは皆そう言っていた。
目の前に立っている少女は村の女子たちと比べると儚げで可憐ではあるがそれが逆に右腕の異質さを際立たせていた。
少年の脳裏に幾つもの思考が流れる。
『何をする気だ』『村が』『殺される』『皆が』『呪いの家』『守らなきゃ』『かあさん』『守る』『俺が』
「う、わぁぁあああああ!!!!」
「え」
少年は勇気を振り絞ると目の前の少女を思いっきり突き飛ばした。
予想の何倍も軽い手応え。
少女の身体は突き飛ばされるを通り越して吹き飛ぶ、といった方が適切なほどの勢いで宙を舞い、棺桶だけがゆっくりと追従するように倒れるとそのまま丘を滑り落ちていった。
比較的緩やかとはいえ丘は丘。
だんだんと小さくなっていく少女の姿を見下ろしながら少年は悪態を吐いた。
「く、クソッ!化け物め!お前が悪いんだ!」
どこがだ?何がだ?
ちくりと、心に刺さったトゲを誤魔化すように、砕けんばかりの力で歯を食いしばると少年は乱暴に走り出した。
・・・・・・・
「いたた……、やっぱり怪しいものではありませんの方が良かったかなぁ……」
先ほどの場所からしばらく滑り落ちた丘下、流れる雲を仰向けになって見ながら少女は呟いた。
「でも、幸先は良かったかな。たぶん『当たり』だと思う」
少女は誰かに語りかけるようにそう言った。
無論、彼女の周りには誰もいない。
あるのは風で揺れる草花だけだ。
しかし彼女のそれは独り言ではなかった。
「『死霊想術』」
風が、止んだ。
「行こっかルゥルゥ。闇が深くなる前に」
彼女の名はプィエル。
ネクロマンサーたる彼女は死と語らう。