蔓延
「このっ、バケモノ!」
小さな村の広場。
そこには子供達が数人集まり、一人の少年に詰め寄っていた。
子供達のリーダーであろうか、少年より一回りほど身体の大きい子が少年を突き飛ばしたところのようだ。
「オマエのせいで俺のとーちゃんが足怪我したんだ!ふざけんなよ!」
大柄の子供は怒り心頭のようで倒れた少年を罵倒しているが、周りの子供達は恐怖や不安の表情を浮かべていた。
「カ、カンちゃん、ヤバイよ……。この前こいつの、『呪いの家』に行った大人が大怪我したって話忘れたの……?近寄らない方がいいって!」
カンちゃんと呼ばれた子供はぎりり、と歯を食いしばってから舌打ちをすると、
「オマエもう村から出ていけよ!」
そう吐き捨ててその場を離れていった。
「……くそっ、キュルガおばさんのパンが……」
少年は地面に散らばったパンをかごに入れると立ち上がり、
「……俺はバケモノなんかじゃない」
ぽつりと呟くと歩きだした。
・・・・・・・・・
少年は重い足取りで丘の上を歩いていた。
本来であれば目的地に行くのにここを通る必要はないのだが、村の中を通らないためには大回りして丘を行くしかないのだ。
今、村の中に少年を好意的に扱う人間はほとんどいない。
すれ違う誰もが嫌悪の表情を浮かべ、足早に去っていくのだ。
「……前まではこんなんじゃなかったのに……!」
少年の瞳に涙が浮かび、溢れ落ちそうになった時、
風が、吹いた。
まるでその風に運ばれたかのように丘の向かいから一人の少女が歩いてくる。
その少女はちりん、と鈴の音を鳴らしながら少年の前に立ち、
「呪いの家を知りませんか?呪いを解きに来たんですけど」
さも当たり前のことのようにそう言った。