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プロローグ
「ねんねこねんねこねんねこよ~」
ちりん、と小さな鈴が揺れた。
少女の澄んだ声が風に乗って草原に流れる。
「やーこやよいこや……」
ぴたり、と少女の唄が止まる。
すると不思議なことに穏やかに流れていた風は止まり、揺れていた草木は静まり、まるで時間が止まってしまったかのように辺りの音は消えてしまった。
少女は遠くの山の方に視線をやっているが、その瞳は山を見ているわけではないようだ。
ぼんやりと、まるで山の先にある何かを見ているような、それでいて何も見ていないような。
それとも見えない何かを見ているような。
「ねんねこねんねこねんねこよ~」
少女はまた唄い始め、それに合わせるかのように風が、草木が騒がしくなり始める。
カラカラ、と首にかけているペンダントを手で弄びながら少女は先ほど視線を向けていた山の方へと歩き始めた。