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六話 壊れたトライアングル

 ラブラビットにより、自分が望む全てを手に入れた葉生は、アイドルの浜本美奈と国立医療ウイルスセンター・ゼロ内部でデートをしている。ゼロ内部は泊まり込みの職員の為の遊戯場や映画館。カラオケなどのアミューズメント施設も揃っている。


 ラブラビットの病を利用して葉生は美奈と堂々とデートをしているのだ。職員の中には当然怪しむ者もいるが、どうせ一般人がアイドルになんて相手にされないだろうという見方が多く、葉生は気兼ねなく美奈と一緒にいた。


 ゼロのスタッフからしても、この少年と少女に逃げられたり、真相を暴露されては堪らないからある程度の事は見過ごす事にしていた。

 現在、カラオケルームにいる二人は浜本美奈の歌を二人で歌ったりして盛り上がっている。美奈はコロナの影響も有り、予定されていた仕事もキャンセルや変更が多く、空いてる時間はゼロで過ごしていた。そして、一通り歌い終わると雑談をする。


 その中で、葉生は友達として確認しておかなければいけない事があった。


「ねぇ、美奈ちゃん一つ聞いていい?」


「なーに?」


「ネットニュースで見たんだけど、イケメン俳優のナオヤっていうのと付き合って破局したの?」


「あー……それね」


 コップに入るカルピスをストローで飲む美奈はナオヤの事を思った。


 その美奈と交際から破局が噂されたナオヤは、浜本美奈が体調不良で握手会などを欠席してる事から、コロナを感染させたんじゃないのか? という扱いにされてTwitterが炎上していた。うさぎケースのピンクスマホでナオヤのTwitterを見る美奈は葉生に答えた。


「ナオヤは友達だよ。友達。恋人役のドラマで一緒で仲良しってだけ。ファンはみんな勘違いしちゃうから困るんだよね。何にも無いのに……」


「ん? 丁度ナオヤが会見してるね。ネットニュースに出てる」


「マジ!?」


 すぐに美奈はその会見が見れるサイトを探した。どうやらYouTubeでも生で放送しているらしい。追いかけるように葉生も自分のスマホで会見生中継を見た。二人はそれを見て黙り込む。


『……』


 ナオヤは今後一切、浜本美奈と関与しないという事を生中継による会見で発表していた。恋人の件や破局などには言及しなかったが、ナオヤはもう浜本美奈に関与するのがうんざりという様子で会見を打ち切った。余程、コロナ陽性で入院してからのバッシングが堪えたのだろう。

 そうだよそれでいい……という顔をする葉生はふと、隣の美奈を見る。


(美奈ちゃん……?)


 顔が青ざめている美奈は葉生の手を掴んだ。


(え?)


 そして、ぎゅっ……と恋人のように葉生を抱き締める。驚きつつも、葉生は美奈を抱き締めた。


『……』


 じわっ……と浜本美奈のカラコンの奥の目が赤く輝いた。そのまま葉生と真っ直ぐ目を合わせる美奈はニッコリと笑って呟く。


「ダメよ。貴方は私のモノなんだから」


 その直後、葉生にとってかけがえのない言葉を言われた。


「ねぇ、葉生君。私と付き合ってよ。いいわよね?」


「うん……」


「なら、交際の証を誓いましょう」


 いきなり熱いキスを交わした。

 頭が沸騰しそうになるが、意外と葉生は冷静に美奈のキスを受け入れていた。おそらく、環波とのキスのおかげだろう。


 二人は互いの全てを求め合うように激しくキスをした。こんな情熱的に愛されているのか俺は……と思う葉生は、カラコンの意味を為さないほどに目が赤く輝いている。


 そして、仕事に向かう美奈と別れた。

 こうして、葉生は本物の浜本美奈を手に入れてしまった。





 自宅では浜本美奈顔の幼なじみの橋辺環波。国立医療ウイルスセンター・ゼロでは本物のアイドルである浜本美奈を葉生は相手にしていた。


 夏休み期間に入り、プールや遊園地に行きたい気持ちもあるがどこも少ない人数しか受け入れないか、そもそも閉館している場所だらけだった。

 自宅で出かける準備をしていると環波からLINEが来た。


〈お父さんの着替えとかの荷物、私が届ける事になっちゃった。

さっきも言ったけど、今年の誕生日は葉生と過ごすからヨロシクね!〉


〈おう、任せとけ!〉


 Tシャツを着替えながら勢いのままに返信した。そして鏡で髪型をチェックしながら呟く。


「環波とは家のデートで充分だし、美奈ちゃんとは外デートしたいけどマスコミとか怖いからゼロでのデートが一番。いつでもどこでも浜本美奈を独占してる春野葉生って天才だな!」


 二人の浜本美奈を独占している少年は自画自賛している。今日は定期検診の日だから葉生は国立医療ウイルスセンター・ゼロに向かう。そしてゼロへの特別エレベーター内で葉生はふと、大事な事を思い出していた。


「そういや、環波と美奈ちゃん誕生日同じ日じゃん。このままだとやべーな。7月30日どーしよ……」


 まだ美奈の仕事も確定ではないから、とりあえず誕生日デートの件は後でいいかなと思う葉生はゼロの更衣室で着替え、定期検診を受けた。


 そして、美奈も健康診断を受けた為に、後の時間はいつも通りゼロ内でのデートの時間になった。ゼロ内部には大型スクリーンの映画館も有り、二人はそこで配信されてる映画などを見ている。


 それは男と女二人の古いラブストーリーであり、三角関係が壊れていく青春の儚さを描いた作品だった。それを少し葉生は自分と重ねて見ていた。けど、自分はそんな風にはならないという自信が今の葉生にはあった。

 砂上の楼閣でしかない自信が――。


 その後、二人はゼロの食堂にある自販機の前でバイバイのキスをした。


「じゃね。葉生。月末はなるたけ仕事空けておくから誕生日パーティーしようね!」


「おう。こっちも空けておくからヨロシクな。ゼロの人間に言えば色々豪勢にしてくれそうだな」


「ゼロでなんて嫌。どーせならウチ来てよ。今、新しいマンション引っ越すからまだバレないウチに色々しよ」


「お、おう。色々するか!」


 デレデレになる葉生はまた美奈とキスをする。目を開けると、美奈は自分ではなく誰かを見ていた。ふと、気になった葉生は振り返る。すると、そこにいた少女は震えた声で言った。


「葉生……何してるの?」


 そこに、橋辺環波がいた。

 環波は持ってきた父親の着替えなどの荷物を落としてしまう。自分の彼氏の名前を呼ばれた美奈は明らかにキレており、その美奈の顔にしか見えない環波は震えている。対照的な感情ながら、両者は葉生にとっては同じ顔だ。三人は時が止まったように黙った。


『……』


 とうとう、葉生が見ていた本物の浜本美奈と偽物の浜本美奈が出会ってしまった。

 ここで初めて運命のトライアングルが形成され、同時にそのトライアングルが壊れた。


 新型コロナウイルスの後遺症。

 他人認識症候群――ラブラビットの赤い牙が葉生の人生を襲った。

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