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三話 虚構も現実

「……他人認識症候群。ラブラビット。幼なじみの橋辺環波がアイドルの浜本美奈に見える。地獄なのか天国なのか……


 春野葉生は洗面台の前で自分の顔を見ていた。昨日受けた検診の結果は特殊な病である以上すぐには出ない。現在は葉生のラブラビットは国内一例目として、国立医療ウイルスセンターのゼロで研究されている。


「……俺の細胞を研究してるとは言っても、根本的な事がわかるのはコロナウイルスの特効薬が見つかった後じゃないか? 症例が世界が隠蔽してない限りは俺だけなら治療法は難しいだろうな。でも、赤目だけはカラコンで誤魔化せる。ラブラビットが治るわけじゃないが」


 ラブラビット特有の赤目症状はカラコンを入れる事で解決していた。いきなり目が赤くなっていたら充血ではなく、カラコン入れたのか? と思われてしまい、もしもラブラビットが発覚したら真っ先に葉生が疑われてしまう。現在の人間達は人を差別し、区別する能力だけは長けている。


 顔を洗ってリビングのソファーで横になる葉生はスマホを見た。

 学校も当分は宿題をこなすだけの日々であり、午後になったらやればいいと思っている。


「コロナも収まる気配無いし、こんなんじゃ今年は無理かなぁ。来年になったらどうなるかもわからんが、正体不明の敵と戦うのは大変だ」


 スマホのネットニュースもコロナ関連の話題が多く、葉生は自分のコロナ後遺症である他人認識症候群ラブラビットを検索していたが、そんなものは検索結果には出なかった。


「出るわけねーか。出たとしても、その国が隠すよな。ゼロのように」


 隣の家の橋辺家の大黒柱である時夫を思った。国立医療ウイルスセンターのゼロの主任である時夫と今後付き合っていかないとならない。その娘の環波の顔がアイドルに見えてしまうという現実に対処していかないといけない。今後、それが犯罪などのパニックにならないように――。


「……芸能ニュース見よ」


 濃いめのカルピスを飲んだ葉生は気持ちが重くなった為に芸能ニュースを見た。すると、口に入れたカルピスを吹き出しそうになる。


「浜本美奈・ドラマで噂の出たイケメン俳優との関係は破局!? いやいや、そもそも付き合ってねーだろ。適当な記事書いてアクセス上げてんなよクソが」


 人気アイドルの浜本美奈がイケメン俳優との関係についての記事を否定する。そして、その俳優に関しては追加の記事があった。


「しかも、イケメン俳優コロナ陽性かよ。天罰じゃ、天罰。まぁ、せいぜいゆっくり休んでくれ。女遊びされて誰かに感染させたらヤバいしな」


 自分も陽性から完治したし、大丈夫だろうと思う葉生は浜本美奈を思う。けど、その存在は幼なじみの橋辺環波という存在としても認識してしまっている。


 美奈と環波――。


 二人の女は別人であるが葉生の中では一人の存在で有り、その二人の女が葉生の意識の中で弾けて混ざった。一人の女である浜本美奈が目の前に現れ、微笑んだ。伸ばされた手を取り、葉生は前へと歩き出す。それは紛れも無く浜本美奈だった。


「葉生ー。いるわね」


「うげっ! 何だよ環波……!」


 唐突に現れた環波に驚いた。同時に環波の顔浜本美奈としてしか認識出来ない自分にも焦る。


「なーに突っ立ってんのよ。お寿司持ってきてあげたわよ。何かお父さんがちゃんと葉生の事を見てやってくれって言われてね。このお寿司はお父さんから」


「おう、ありがとう。おじさんには今度会ったら伝えておく。


「今度会うって、またお父さん当分帰って来ないけど? もしかして、検査で何か引っかかった?」


「んな事はねーよ。それより寿司を食おう。飲み物は……」


「あ、私やっとく」


 流石に人の家にも慣れてるから行動が早いなと思った。話をしていれば、当然環波と認識は出来る。顔は違えど、口調や行動は別人だからだ。しかし、人間はそうは思っていても所詮は「見た目」には勝てない性がある。

 目の前で動いている憧れの女に葉生は思った。


(本当に環波が浜本美奈なら、俺は……)


 口が好きと動くが言葉には出さず、好きだと言ってしまいそうになる自分を抑えた。


(ここで好きと言った相手は環波じゃなくて浜本美奈になる。そんな事はやっちゃいけない。やっちゃいけないんだ)


 そうして、葉生は乱れた心のまま環波と寿司を食べる。テレビのニュースでも、浜本美奈の事は取り上げられており、環波もそのニュースに対して意見していた。


「この浜本美奈と俳優が破局したのは嘘じゃない? 陽性としておけば休めるし、最近この俳優遊んでるってスクープされまくってるから。事務所辞めてユーチューバーになるって話もあるしね」


「確かにこの俳優はコロナ関係無く遊んでるからな。事務所出てもユーチューバーになるとか、キャバクラ経営するとか言われてんな。この御時世だからおかしくもなるだろ」


「おかしいのはこの俳優だし、浜本美奈も人気アイドルだけどマシーンのような完璧アイドルでいるのも疲れてるんじゃない? だから遊び慣れた男に引っかかるのよ」


「ワイドショー見てるおばちゃんの発言だぞ」


「うっさいわね。イクラもーらい」


「うげぇ! 最後のイクラがぁ!」


 と、本物の浜本美奈は絶対しないであろう行動をするのは環波だからだ。だけど、葉生には浜本美奈にしか見えていない。


(だけど、本人の顔で言われたら、妙に説得力があるな。完璧マシーンアイドルであればこそ、素の浜本美奈はストレスマックスなのかも知れない……)


 環波の言葉を聞いて納得してしまう部分もあった。やがて、カラコンの奥の赤目が発光したように輝き、段々と葉生の性的な気持ちなどが高まり出していた。


(……)


 葉生は環波の手を握り締めていた。


「何? イクラならもうない――」


「俺と付き合ってくれないか?」


 流石の環波も顔が固まっていた。

 幼なじみの葉生から触れられるのは嫌では無いが、この言葉を言われてしまっては黙るしか無い。


『……』


 少しの沈黙の後、深呼吸をした環波はその手を握り返して言う。


「うん、いいよ。葉生と私はずっと一緒が当たり前だと思うし。んじゃ、これからもヨロシクね!」


「おう、ヨロシク!」


 そして、人気アイドルの顔である浜本美奈と認識してしまっている幼なじみの橋辺環波と交際する事になった。

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