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盆明けに高級パフェ

作者: ムルモーマ

 今年の盆は仕事が多忙でない事もあって九連休を取れた。

 しかし、コロナが蔓延るこの時勢だ。実家には帰れず、旅行等の計画をする事もなく。

 加えてこの酷暑。外に出て数分歩けば汗が流れて来る。しかもマスクをしないと白い目で見られる事はほぼ確実だ。

 遠出をする事も余り気乗りがしない。銭湯に行きたい気分もあったが、時勢以上にその暑さで結局帰って来た頃には汗だくになっている事で行く気も起きなかった。

 結局、そんな事で何の予定も無く、アパートでゲーム三昧な盆を過ごす事になったのだが、盆明けの事だけは決めていた。

 九連休という休みの後、いつもの週明けより一層憂鬱であろうその日に何をするか。

 会社の近くにある、いつかは入ろうと決めていながら三年以上経っていたフルーツパーラーに入ろうと。

 そしてそこの高級パフェを食べようと。


 基本的に食べる事全般が好きだが、その中でもパフェというものは特別なものに感じる。甘味の中でも特別な部類に入る感覚。

 細長い、層がしっかりと見えるように作られた専用のガラス容器。そしてまた、それを食す為の細長いスプーンやフォーク。

 専用尽くしであるそれらは、喫茶店のスイーツやフルーツパーラー等での目玉として扱われているようにも感じられる。

 そんなパフェというものに強く興味を抱いたきっかけは多分、ある漫画が原因だった。

 記憶喪失の主人公がある時、引き取られた家の家主に連れられて来た、家主が経営するフルーツパーラー。

 そこで出されたパフェはまるでグルメ漫画かのような詳細な解説を入れられ、正に飯テロものだった。

 かなりの長寿であるその漫画の中では他にも時々飯テロが混じり、大半は調べればネット上で再現されたり、更には実際にレストランでそのコースを提供していたりもする程だった。

 自分も一つ二つは再現したりもしたそれらの中でもパフェはしかし、再現するより高級なフルーツパーラーで食したいと思った。

 自炊が趣味と言えど、パフェを再現するには特別に必要な物も多過ぎたし、後に残る、早急に処理しなければいけない具材も多いだろうし、またフルーツパーラーで食す、という雰囲気も結構重要だと感じられたし。


 しかし、社会人になってからパフェを食べる事はあれど、そこまでの高級なものを食べる事は無かった。

 チェーンの喫茶店で安値で食べられるそれ相応のパフェや、街中の喫茶店が作る缶詰の果物等が入ったパフェ、結構な飲食店で食べる千円を超える位のパフェまでは食べた事はあっても、その漫画のように見るからに高級なフルーツパーラーで食べる最高級のパフェを食べる事は無かった。

 入社してそのようなフルーツパーラーが近くにある事を知っても、いつか入ろうと思いながらも、それを実際に行動に移す事は三年以上も無かった。

 その程度の欲望でもあったのだろうし、そしてまたパフェ一つに何千円も使うのに躊躇いもあった。

 その割にはそれ以上に高い品……五千円以上普通にするパフェの食品サンプルなどを買ったりなどもしていたのだが。

 まあ単純に、それ程までに高級なパフェを食べる、という事に値するきっかけが今まで無かったのだろう。

 そして社会人になって四年目の盆明け、やはり大してどこにも行かなかったその盆明け。

 どうしてリモートにさせないのかと何度も疑問に思う程に暑い、都会の昼。

 けれど、その二時過ぎ。ランチセットが終わる時間だと言うのもあったがそれ以上に、自分はその入ろうとした高級フルーツパーラーの窓際に見えるマダム達に気圧されて、入る事を諦めた。

 適当な所で昼飯を食べて、会社に戻った。


 盆前の金曜日に決め、十日間経って待ちに待った事でもそんな事で諦めた。

 黒い愚痴が頭の中で過ったり、男一人でも入りやすいパフェ等をたっぷり扱う店とか結構受けるんじゃないかという妄想をしたり。多少の後悔もあるが、あの中に入ったとしても実際楽しめないだろう。

 男一人で、マダムだらけな中、パフェを食べる。そこまで周りの空気を気にせずに食を楽しめる程、自分は図太くは無かった。

 ただ、諦めきる前に、帰り、夜にもう一度行こうかとも思う。しかしあの場所は元々、そういう人達が入りやすい場所だ。そのような店内を見て再び諦める事はかなり可能性の高い事だろう。

 けれど、他の徒歩で行ける場所にもフルーツパーラーがある事を思い出した。どっちも徒歩で行ける距離で客層は殆ど変わらないかもしれないが、同じ場所に行くよりは入りやすい雰囲気である可能性を見込めると思えた。

 帰り、そちらのフルーツパーラーに寄った。外からは客層が見えない。中に入る。マダムは多少居る。でも、多少。

 中には男子高校生の集まりというのも居てこんな高級な場所にと多少驚くが、男も居ない事は無い。そして一人で来たのは見える限り自分だけだったが、昼のマダムだらけなフルーツパーラーよりはよっぽど入りやすかった。

 注文。サンドイッチなども頼めたし、元々五千円まで使う気概だったが、何だかんだで飲み物も頼まずにパフェだけを頼む。

 桃のパフェ。しかも季節の物を使ったより特別で高価な二千九百円するそれ。

 ただの桃のパフェよりも使っている具材の量も少ないが、自分はそれに惹かれた。

 尿意も完全にゼロにして、やや長い時間待ってから出て来た。

 桃一つを使ったパフェ。一番上に桃がふんだんに乗せられていて、それを幾つか食べない限りは下の層に手は付けられない。

 食べ始める。ケーキなどをぼちぼち食いまくっていた影響もあるかもしれないが、桃はそこまで甘くない。中のアイスやシャーベットも甘味は控えめだ。

 でも、自分はいつの間にか無心になって食べ続けていた。

 値段の事も勿論あるだろう。けれど、何もかもが上品なそれは、周りの言葉に耳を傾けようと思っても頭の途中で止まって、食べる事に集中させ続ける。

 ガツンと甘い訳じゃない。けれどそれは安直にそういうものを強くしない事で、高級さや上品さという物を知らしめているようで。

 食べ終えた時にはそんな落ち着いた、改めて息を吐くような事も無い静かな満足を覚えていた。


 電車に乗り、勿論それだけでは腹は足りないのでコンビニで冷凍パスタを買う。

 シャワーを浴びて冷凍パスタをレンジに入れて、それまでの間、座椅子に座る。

 すると、まだその満足感が続いている事に気付いた。この満足感を冷凍パスタで上書きするのは勿体無いな……と思いながらも、レンチンし始めた物は止まらない。

 味は冷凍食品としては百二十点あっても良いようなそれを食べながらも、やはり足元にも及ばないのは言わずもがなだった。

おいしかったです。

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