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魔王業務日記 ~四日目~



「おはようございます、皆さん、ご機嫌は如何でしょうか?」





『『『BuOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!! 』』』

 




 集まった氏族のお偉方の前で俺はとりあえずご機嫌を伺ってみましたが、ダメでした。


 雄叫びが上がる、八割罵声、一割が皮肉、残り一割が意味が分からない田舎の言葉です。どこから来たんでしょうか、滅多に見ることの無い魔界深層のキノコ族までいます。凜々しいお髭ですね、あ、いやあれは髭じゃなくて髪なのか、いやぁ怖い、皆怖い顔してます。




『SE%dr6!!TFY!”!!HU)J!!!IKo=!!!KFGHK!!!!!』




 はい、そこのギガンテス族の族長、五月蠅いですよ、何言ってるか分からないよ! 

 

 共通語の魔族語で話しなさい!! あ、地団駄踏まない! お茶が溢れる! 

 

 良い茶葉なんだから! あぁもうほら下にいるゴブ族の長に散っちゃってあーあー、怒ってるよ、怒って杖でギガンテス族長の足の小指を叩いてるよ、知らないよ! 民族紛争になっても!!




「と、まぁ、皆様が何にそんなにお怒りなのか、魔王就任4日目の俺としましては、重々承知しておる所存でありまして……」



『『『BuOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!! 』』』



 ダメだ、九割が罵声になっちゃったよ……。


 そもそも種族が違うと言葉も違う、価値観も違う、文化も違います。


 そんな人達を一つにまとめて会議をしようというのが、そもそも無理な話なのです。


 そんな無理な事をやってたのが前魔王様です、主に力に物を言わせながら。


 そんな前魔王に従っていた氏族の長達をここでざっくりと紹介します。


 ゴブ、オーク、タヌキ、狐、猫、小悪魔、マミー、ミノタウルス、スライム、百足、デッドリースパイダー、ダークエルフ、ファンガス、スケルトンの族の長達、他にも沢山、魔界には種族と長がいるのですが、その殆どが今日の会議をボイコットしております。



 だって魔王様が変わりましたから、俺に。



 そしてその中でも一番の議席数を確保しているのが、我らが魔族、神祖魔族達ピュアブラッドデーモンです。


 顔は牛だったり、カエルだったり、トカゲだったり、ヒツジだったり、猿だったりと、それぞれ特徴のある風体をしていますが、悪魔族は必ず尻尾と角と翼があります。


 俺にもありますが、これが見えないくらい小さい、粗末なんです、髪の毛と制服で隠れます。




『SE%dr6!!TFY!”!!HU)J!!!IKo=!!!KFGHK!!!!!』




 もう五月蠅いよデカいの!! そうだギガンテス族もいました。


 余りにも大きいので、王の間の天井を支える柱みたいに立っています。


 中にいれる時も大変でした、方法は企業秘密ですが。




だまれッ!! 貴様ら無礼であろうが!! 魔王様の御前であるぞッ!!」




 全員を一瞬で黙らせる怒声。


 放ったのは俺の隣に立つ、実に立派なご老体の悪魔、


 前魔王様の右腕、『リミアス・ルド・トルネ』通称、ルド爺です。


 銀髪の鬣を持つ獅子です、ドラゴンよりも強く羽ばたける翼に、筋骨隆々の肉体に黄金の甲冑を纏い、右手には伝家の宝槍、それを杖代わりにしながら、今一度王座の隣でガンっとタイルを突きます。


 突けば大河を空へと巻き上げ、投げれば魔界の端まで届くとまで言われた槍です、ちょっとした地震がおきました。



 そりゃビビリますよね、静かにもなります。



「ありがとう、ルド爺、助かったよ」


「いえ、こやつらは魔王様の何たるかを解っておりませぬ、仮にも我が王に対してあのような暴言の数々、そう易々と許せましょうか」


「今、仮にもって言ったね」


「……これは失礼しました、我が王、それで仮の話なのですが、こやつらをどうしてくれましょうか、狩りましょうか?」


「いや、なにもしないよ、怒って当然だし」


「なんと! 仮にも王ともあろう御方が、あのような侮蔑を許すとは! 私が王ならこやつらの首を狩りますぞ!!」


「また仮にもって言ったな、まぁもう仮にでもいいです、怒ってくれてありがとうございます」


「そうですか……、では仮の話ですが、狩りますか、こやつら」


「狩りません! 仮にも狩りません! もういいですから!!」



 なんでそんなに狩りたがってるんだ、本能だろうか。

 さて、では魔王としてのお仕事に移りたいと思います。



「えー、本日皆々様に集まって頂いたのは、事前に文を回して知らせた通りです」


『SE%dr6!!TKo=!!!KFGHK!!!!!』


「五月蠅いよ!! ギガンテスの長!! あと下にいるゴブ長に謝りなさい!!」


「黙れこのデカブツ!! 貴様の粗末なケツの穴に魔王様が収まるわけなかろうが!!」


「そんな事言ってるの!? すごい暴言だね!?」



 てか収まっちゃうよ! あのデカさなら頭からすっぽり収まっちゃうよ!



『FY!”!!HU)J!!!ISE%dr6!!』



「なんだと貴様っ!! 仮にも魔王様に向かって!! よりにもよって、そのような粗末なケツの穴に一族全員を納めると申すか!! 貴様の尻の中は3LDKかっ!!」



 いや、それ前の我が家より広いです、前の我が家は2DKだったからね。

 親父と俺だけだったからね。



「いや、もういいですよ、ルド爺、話が進まないので、ね?」


「しかし……、仮にも魔王様に対して3LDKなどと、せめて4LDKくらいには」


「こらこらー、どこと交渉する気だー、そして仮にも魔王様をどこに引っ越しさせる気ですか」


「仮魔王様の願いとあらば、私自ら飛び込み、この槍にて拡張工事リフォームして来ますぞ、如何いかがか?」


「本格的に計画するなー、リフォームしません、可愛そうでしょ、幸せな家族計画はこっちで考えてあるから、あぁはい、閑話休題、話を戻します、皆さん、静かにー!!」



 と、手をパンパンと叩いて今一度静かにしてもらいました。


 今度こそ言うことを聞いてくれました、主にルド爺が唸っているからですが。


 それでは、恐らく最初で最後になる魔王としての命令を皆に出します。







「手紙にも書いた通り、俺こと魔王は、人間の勇者と……あー、結婚けっこんします、許してね」





我が家は2LDKのボロマンションです。

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