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魔王業務日記 ~三日目~





「ふぁはっはっは!! よく来たな勇者よ、しかし今日が貴様の命日よ! ふはははは!」




 

 とりあえず、こんな感じでいいのでしょうか、魔王って。


 なにせ魔王に就任して日が浅いのでございます、そもそも先代魔王が辞任して三日目でございます、つまり三日前、唐突に、



『ちょっとやることができたから、後は魔王役はお前に任すわー』



 なんて言って、次の日には消えやがったのです、魔界を出やがったんです、あの魔王バカ、いえ先代魔王様。


 そもそもなぜ俺なのでしょうか、自慢じゃないですが俺は貧弱です、先代魔王に比べたら、それはもう弱い弱い、スライム以下! 得意な事は料理、裁縫、掃除、洗濯、猫と犬の世話と少しばかりかじった魔法ぐらいなものです。


 そもそも魔王とは交代とか滅多にしないんです! 不死だから! 死なないから! 無駄に強いから! やられちゃったりしないんですよ、これが。


 半永久的に一人の有機生命体が君臨し続けるんです、なんてったって魔族の王! 魔王ですから!


 だから統治してる間が長い分、そもそも家臣やら他の貴族やらは先代魔王様しか崇拝すうはいしないんです! 信頼してないんです! それだけのカリスマ性がある魔王バカだったんです。


 てか先代魔王様、無駄に長生きなもんだから、今や家臣なんて最初の就任から何世代も続いてきた由緒正しき家系の方々ばかり、近親交配きんしんこうはいしまくりの血液サラサラのサラブレットばかり! 合法兄妹子孫繁栄貴族なんです!


 打って変わって我が家、そもそもは魔王様の小間使いから始まった小さな家系です。

 

 元々は立派な悪魔の血筋だとは聞いています、まぁそれも昔の話です。


 我が家は近親交配とかダメなお家だったんです、ダメよ私達兄妹なのよってことで、ちゃんとお外でお嫁さんやお婿さんをもらいながら、細々と続けてきた家系なのです。


 先代魔王様は俺の爺さんの頃から知ってるとかじゃないんですよ、ひいひいひいひいひいひいひいひいひいひひひひィはぁーーー疲れた、……ひーーーーー爺さんぐらいから知ってるんですよ。


 もう俺の世代なんて途中で色んな血筋が混ざり過ぎちゃってハーフとかクォーターとかじゃないんです、100種類の野菜が交ざったドロドロミックスジュース状態!


 色んな雄と雌が世代が変わるごとに交ざって交ざって交ざりまくって、純粋な魔族の血なんて一滴ぐらいしか残ってないんです!

 


 なのに、なのにですよ?

 


 いきなり『お前、明日から魔王な』ですって。

 


 それで今まで魔王様を崇拝してきた家臣が納得すると思います?

 しちゃったんですよこれが、だから問題なんですよ、これが。

 だから俺がこの席に座っているんです。

 先代魔王様ったら、最後にこう書き置きしたんですね。




『次の魔王に逆らったらぶっ殺す、家族も潰す、お家も潰す、マジぽよー』 




 バカじゃない?、あ、いえバカじゃない、いやバカだけど魔王様なんです、本当に。

 やっちゃうんです、やるといったらそれが簡単にできるのです、魔王様って。

 それで次の日から魔王の椅子に座った俺です。

 で、家臣達がどんな目で俺を見ているかというと、




 『ちっ』



 すれ違う度に舌打ちです。

 えぇそりゃもう、盛大な舌打ちです。



『ちっ』『ちっ』『ちっ』『ちっ』『ちっ』『ちっ』『ちっ』



 ハイハットで8ビートかよってくらいの舌打ちの嵐。


 それもそのはず、俺の見た目は魔族ぽさなんて微塵もないのです。


 雄々しい角も無ければ、ドラゴンのような翼も無い、全てを嚙み砕く牙もありません。


 見た目がですね、言いづらいのですが、人間ぽいんです俺、よりにもよって。


 黒髪、黒目、白い肌、オマケに全長180セルチのおチビさん、細い腕、細い腰、細い首、細い足、もうお分かりですね、グロテスクなんです、俺。


 親父がですね、変態だったんです、もうどうしようも無い異常性癖者。


 俺もね、リザード族とか、ギガンテス族とか、ワーウルフ族とかの女の子に手を出しちゃうまでは自由恋愛の時代ですし、いいんじゃない? って思いますよ。


 でもよりにも、よりにもよってですよ、一族でぶっちぎりの異常性癖の持ち主だった親父はヒューマンとの間に子供を作っちゃったんです。



 ヒューマン、人間ですよ、人間。



 あのどこに住んでるかも分からない、一匹見かけたら千匹いると思えの人間!


 台所に唐突に現れてご婦人方に悲鳴をあげさせる、あの黒光りする人間!


 プシュっと吹き付けて5秒で抹殺ヒュマジェットはご家庭の必須アイテム!



 普通ヤリますか? 人間と……、いやぁもうマジでありえない、親父。



 もう想像するだけでも恐ろしい、いや、うっぷ、ごめんなさい、オカンの顔を思い出しちゃって、うっぷ、おかんと親父が、うっぷ、ごめんなさい。



 そうなんです、オカンが人間なんです、俺。



 赤ちゃんの頃はそんな事もしらないで、あのおっぱ、うっぷ……に、うっぷ、しゃぶりついて……。



 深く考えるのを止めよう、こんな時はそう、昨日こっそり買った『爆複乳ミノちゃん特集、下から三番目が一番イイのっ!!』を思い出して記憶の上書きをします。



 まぁ、今は円満離婚で別居中ですし、そもそもたまに親父がつれてくるぐらいなんで。



 気にしてないというか、もう、慣れました。



 いくら魔王様に仕える貴族の一端とはいえ、こんな生い立ちですからとても順風満帆な人生を送ってきたわけじゃありません。



 皆様の隅っこで家事に勤しむのが丁度いいんです。



 なのに、今日から俺は魔王様、はー、笑うー、ウケるー、死ぬー、殺されるー。




『ちっ』『ちっ』『ちっ』『ちっ』『ちっ』『ちっ』『ちっ』『ちっ』



 舌打ちの8ビートで俺の心拍数は16ビート、あぁもう嫌だなぁ……とか思ってた矢先にですよ。



『……クソ……魔王様、人間の勇者が現れました』



 いや確かに言ったよ、魔王様のことクソって言ったよ、ダメでしょそんな事いったら。



『人間は人間でも、勇者が現れた場合は、必ず魔王の間に通すのがしきたりです』



 とか言うんです、家臣の偉い人が、僕の親父の上司が!



『かならず一対一で会い、なにかしらしてください、大体は殺し合いをします』



 とか言うんです、親父を昨日クビにした上司が!



『あ、はい、あぁー、そうなんですか、あぁじゃぁ通してください』



 とか言っちゃったんです、俺が! 人間に会いたいって、一対一で。

 同級生とか見てたら白い目で見られますよ、イジメが始まりますよ、これ。


 そもそもイジメられて育ってきたんですけどね、俺。

 それも含めて慣れました、めげない魔族、諦めの極地に至る魔族、それが俺です。

 で、来ちゃったんですよ、真っ直ぐにこっちに、来たんです。


 人間の勇者、雌でした、これが人間の雌だって分かるのは、もちろんオカンとの特徴が一致するからです。



 真っ白い髪、凹凸の無いお胸、しかも二個しかないです、貧相です。

 真っ白い目、なんの希望もないわーって目をしてます、三白眼、目つき悪いです。

 真っ白い体、うっそーってくらい白い、そして細い、小さい、俺よりチビです。

 真っ白い服、え、なに、保護色? この広場はタイル白いから凄い視認率低いです。

 真っ白い液、右手に持ってるんです、なんか、白い液体が詰まった透明な容器です。



 以上、勇者さんの紹介終わり、印象、白い! 小さい! グロイ! 白い勇者!




「私は、勇者……魔王、お前に、会いに来た」



 あ、この白い人間、なんと片言ながら魔族語を話しました。


 俺も母親が人間なので人間語には多少は覚えがあるので、そこだけは良かったなーって前向きに思ってたのに、勇者に気を遣わせちゃったなぁこれは、でもがんばって覚えてきたのに、実は人間語ペラペラとまではいかないにしても、多少は知ってたとかショックだろうし……。



「うむ、俺、魔王、お前来るの、待ってた」



 白い人間の会話レベルに合わせて、できるだけ簡単な言葉にしました。



「そう、ありがとう、魔王、私、勇者」



 おお! 片言だけどちゃんと伝わる程度に勉強してる! すごいなぁ!



「うむ、俺、魔王、勇者、お前、何しに、来た?」



 どうだ、これくらいのレベルならきっと分かるはず……。



「そう、私、勇者……魔王、お前、会いたかった」



 おおお! すごい! 初めてオカン以外の人間と喋れてる! やべぇ感動した!



「俺も、会いたかった、ありがとう、何、する?」



 やばい、ちょっと感動で楽しくなってきた、いやぁもう、なんだろう、ペットと喋れたぐらいの感動があるよ、うん、よしよし、これなら特に問題なく事が終えられそうだ。



「私、勇者、だから……魔王、お前、こ、こ、こ、」



 うんうん、てか何するんだろ、あ、そうか殺すんだった、えー、どうしよ、うーん……あ、一応持ってきています、ヒュマジェット、うわーでもまぁ噛んできたらねぇ、俺もそこまで優しい悪魔じゃないけど、だけどすごい震えてますよ、この白い人間、そりゃ怖いよねぇ……。



「わかった、怖がるな、大丈夫だ、優しくする、5秒だ」



 5秒でコロリ、ヒュマジェットを手に取った、その時でした。



「5秒、速い……、大丈夫、何回でも、私、勇者、今、お前と、、こ、子供を作る」



 おおぅ最後の言葉がちょっと発音が怪しいせいで、酷い言葉になってるぜ。

 


 ――なんて思った瞬間でした、


 

 王座から15メートルくらい離れていたはずの勇者が、一瞬で目の前に来たんです。

 縮地です、瞬間移動です、さすがに俺も驚きです、確かにカサコソ素早い奴らですけど。




『ごめんなさい、でも、全て、世界のためなの』




 あれ、人間語だ、分かる、分かるぞ! 鈍ってなかった!




『絶対に痛くしない、でも、気持ちよすぎて、死んだら、ごめんなさい』




 おーやっぱり何言ってるかわからない! ちょっとブランクありすぎたか!




       『感度6万倍パンチ』




 そんな事を言って、勇者がペチリと俺のお腹の辺りを殴りました。


 まってまって、パンチって言葉もわかる、感度って言葉も知ってるぞ、発音も悪くない、じゃぁ感度6万倍パンチってナンアヒュン――、





 § § § 





 目が覚めました。

 どうやら気を失っていたようです。

 

 眠気眼ねむけまなこをこすり上げ、視界のクリア度を上げてみると、どうやらここは魔王様の寝室でした。俺にはスケールのでかすぎる、いやもうちょっとした家かよってくらいの、大きな真っ赤なベッドの上でした。



「掛け布団が、重い……なんだ、何があった……全然記憶が無い」



 確か、なんか、そうそう人間が来たのでした。

 白い人間、白い雌の人間が来て、



「あぁそうだ、殴られたんだった……あれ、俺死んだ? んなわけないか、てか、時間は?」



 魔王様の寝室だけあって、寝室の窓もバカでかいです、バカの寝室だけに。

 背を起こして見てみると、どうやら朝焼けが見えます、チュンチュンと悪魔スズメが鳴いています。



「……あ、やべ、朝食と洗濯……は、しなくてよくなったんだっけ、はぁ、寝よ」



 二度寝ができる、なんて贅沢な魔王生活、そこぐらいは魔王になってよかったと思います。


 よいしょとベッドへと再度寝転ぶと、なにか肩の部分に柔らかい物が当たりました。



 プヨン、という、ポヨンというか、なんだか生暖かいです。



 もちろん見ました、そして居ました、白い人、勇者です。



 裸です、衣服を着用していません。



 思わず悲鳴をあげそうになりました。



 てか俺も裸です、特注させた魔王の制服を着ていません。

 お互い裸で、同じ寝所にいました。



「…………おはよう、魔王」



 起きました、勇者、起きました。


 まだ眠そうです、なんだか疲れてます。



「おはよう、魔王、私、わかる?」



 やっぱり片言の魔族語です、うーん、でもわかる、わかるぞ。



「わかる、勇者、俺、魔王」


「うん、お前、魔王……」



 そして勇者は俺の所へともそもそくると、そのまま腰当たりにギュっと抱きついたんです。うわ、なにこれ、すごいすべすべ、暖かい、てかちょっと熱いくらい……。



「勇者、熱、あるのか?」



 かなり高めの熱です、風邪、病気、病原菌持ち!? 



「……うん、昨夜、魔王……その、()()()()()()ら……」



 何が!? 何が凄かったの!?



「俺、なに、した? 勇者、俺、なに、した?」


『覚えてないの? そう、やっぱり、ちょっと6万倍は強すぎたのね』



 あー、はいはい、そう感度6万倍パンチね! されたされた……された……。


 俺は思わずシーツの下を覗き込みました。


 湿り気があります、なんか色んな匂いもします、汗と、あぁ懐かしい、前の自室のゴミ箱の匂いだ、これ。



『……ううん、三日間もずっとだったから、さすがに、疲れた』


「三日間ぶっ続けで何をしたの俺!?」


『え、言葉、わかるの?』



 思わず叫んだ俺の言葉を理解したのか、腰に抱きついていた勇者が顔を上げて目をパチクリしています。



『……う、うん、すこしわかります、はい』



 そう言うと、勇者は徐々に顔を真っ赤にして俺の腰から離れると、シーツの中に潜り込んでしまいました。


 どうやら俺はなにか、とんでもない事を、してしまったようです。



 落ち着こう、一旦落ち着こう、ね?



 水、そう、水を飲もう!



 そう思っていつも近くに置いてあるデスクまでシーツの海を這いずっていくと、水差しの隣に置いてあったコップを重しにして、何か一枚の紙が置かれていました。



 コップをのけると、そこには「父より」と書かれた手紙がありました。



 なぜ? 今? 手紙? あぁそういえば仕事も首になったし俺の給料で旅行いくとか言ってたけど……そう思って、手紙をひらきました。






 【 童貞卒業おめでとう、――このド変態め(ハート)】






 と、一言だけ書かれていました。

 

 ド変態、裸の二人、体温の高い勇者、頬を赤らめる裸の勇者、二人で寝所。

 

 全てが繋がって、一連の流れを完全に把握、なるほどなるほど……。

 

 なるほどね、俺は悲鳴を上げました。


 たぶんクラッシュシンバルが割れるぐらいの勢いで、叫びました。






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