────同じ時間────
わたしは掟を犯した。だから罰を受けるのは当たり前だった。帰る場所はなくなり追放されてしまったのだ。
周りには誰もいなくて、自分だけで生きていかないといけない。化ける力も剥奪されてしまったから、人間に成りすまして生きると言う選択肢もなくなっている。
ひと時の自由の為に、これからの永遠をこうして不自由に過ごさなくてはならない。仕方ないと割り切ってしまえばそれまでだけど、やっぱり悲しい。
いつからだろう、一匹でいることにも慣れた。ただ、もう生きることにも疲れてきた。なんの幸福もないんだから、寂しいし、だから夕と出会ったあの場所で眠ることにした。
あのときの記憶はほんの数秒前のように思い出せる。でももう十年以上、ひょっとしたらもっと時間は過ぎているのかもしれない。
もう考えるのも疲れてきた。だからお休み。
目蓋を閉じた最後に、何故か懐かしい音色を聞こえたような気がした。
わたしがわたしとして目を覚ますことが出来た。何故? どうして? 疑問が巡るが答えは出なかった。周囲を見渡してもここがどこなのか分からなかった。タダとてもお腹が空いていることだけは理解できて、目の前にあった油揚げを食べてしまった。
「あの時は買ってやれなかったからな」
食べ終えるのを待っていたかのように誰かが声をかけてきた。
「なぁ瑞音。お前、なんだろ?」
夕、狐のわたしがわかるの? 声が届かない。もどかしい。
「そうそう、これ昔お前が忘れていった葉っぱだぜ。俺が取っといてやったんだからありがたく思えよ」
そう言って夕はわたしの頭の上に乗せた。なんだか涙が流れてきた。また会えて嬉しい、でも声も想いも届かない。こんなに近くにいるのに。また化けることが出来るなら、夕に抱きつくことだって出来るのに。
「うえぇえん……」
あれ、何か聞こえる。他人の声みたいなのに知っているようなその音色。
「お、お前……」
夕の声に驚きが混ざっている。
「瑞音、やっぱり瑞音だったんだな!」
「夕? あれ、わたし喋ってる」
「……よかった。また会えた。もう消えるんじゃねぇぞ」
夕は私に抱きついてきた。少し痛いのにもっと強くして欲しい。
「うん、もう消えないよ。わたし帰る場所もないんだから」
わたしは夕を離さないように、もっとぎゅっと抱きしめる。
「帰る場所ならここに在るだろ? ふふ、これも短冊に書いたお陰なのかもな。あるいは織姫と彦星みたいに、俺たちが七月七日に出会ったこと事態意味があったことなのかもしれないな」
「これからは、一緒にいてもいいの?」
「むしろ俺がそれを望むさ。一緒にいろ瑞音」
「……うん」
嬉しかった。生きていて一番嬉しかった。
そして謎が残った。私の化ける力は失われたはずだった。いくら自分で葉っぱを乗せても化けることは出来なくなっていたのに何故。
気づいたのだ。以前使っていた葉っぱには未だ化ける力が残っていたのだということに。夕がわたしの残した葉っぱを持っていてくれたから、こうしてまた触れ合うことも、会話をすることも出来た。
夕にはありがとうをいくら言っても足りない。だからこれからいろんな恩返しをするんだ。大好きな夕に────
七月七日、七夕。わたしたちの出会った記念日。
これからこの日をわたしたち二人は永遠に忘れることはないだろう。




