────笹の葉っぱ────
「瑞音。これが今日の主役、でっかい笹だ!」
とても安直だった。けどわたしの手の平じゃ足りないくらいの葉っぱの大きさで、たしかに大きかった。いったい何をするんだろう。
「ほら、書けよ」
そう言いながら、ポケットから長方形の紙と鉛筆を取り出してきた。
「え、何を書くの?」
「お前そりゃ、短冊に願い事を書くに決まってんだろう」
そういう風習があるんだ。知らなかった。そもそもお祭りって魂とかを慰めるものじゃないのかなぁ、なのにみんな騒いでるけど……。神様に何か願って叶うものなのかな? だって騒いだりしたらなんか罰当たりというか、なんというか。
「神様にお願いすることを書けばいいの?」
「おう、そうすりゃきっと叶うんだぜ」
「お願いか……そうだなぁ」
今日こうやって夕と過ごしているうちに感じたこと────人間と一緒に生活したい。人間と一緒にいると楽しい。人間と一緒にいたい。きっと今のお願いはこれだと思う。自分の自由がそこに在るんだと思える。でもこの願い事を書くときっと変に思われるだろうから、違う言い回しにしないと。…………そもそもわたし、字を書くことが出来ないから夕に書いてもらわないとなぁ。
「ねぇ、夕に書いてもらってもいいかな? わたし字を書くのが苦手でさ」
「お前女なのに、そんなんじゃこれから大変だぞ? まぁ今日の俺は何でもやってやるけどな。貸してみろ。なんて書くんだ?」
「夕と一緒にいたいなって…………それがわたしのお願い」
うん間違っていない。きっとそれが一番純粋な想いだと思う。たった数時間過ごしただけだけど、夕と一緒にいるのは楽しかった。ずっと一緒にいたいと思えたのは、夕と出会うことができたから。だからこれからも色々な経験を夕と一緒にしたい。そう思った。
「……そうか、まぁ俺も瑞音とは一緒にいたいと思うがな。はっはっは! お前みたいな奴、他にいないしな。それに、結構可愛いし……」
最後のほうの言葉は小さくなって聞き取りづらかったけど、夕も同じ気持ちみたいで嬉しかった。
「じゃあ書いてもらえるかな?」
「おう、任せろ!」
それから夕は、わたしと自分の短冊を書いて、大きな笹に吊るしたのだった。
「おい瑞音、これから花火が始まるから見に行こうぜ」
「うん!」
近くに穴場があるとかで、林の獣道を抜けて暫く進むと高台に出た。下を覗くと村明かりがほんのり見えた。そして花火が上がり始めたのだ。ただそれと同時に私の時間もそろそろ終わりになりそうだった。
「ねぇ夕……」
「なんだ?」
夕は花火から目を逸らすことなくわたしに声だけよこした。こっちとしても都合が良かった。だって別れは辛いから。
「また会えるかな? それでまた、一緒にこうやって遊べるかな?」
小さい声だったから、花火に紛れて夕には届いていないかもしれない。それでも今は、口に出来る間に言葉にしないと、きっと後悔する。
「だから、絶対にまた……」
大きな花火の音色が響いたのと同時に、わたしは夕の傍から離れた。
振り返った夕はわたしの姿がないことに驚きながら、足元に落ちていた葉っぱを拾ったのだった。




