────夜のハジマリ────
いつも見ている世界があった。でもそれは届かないって分かってる。だって、掟だから。
わたしはそんな掟を破って外に出てみたかった。自分の自由が欲しくて、縛られるのなんて嫌だから。そっちのほうが何倍も楽しいに決まってるもん。
そしてお父さんもお母さんもダメって言ってたけど、私は遂に成し遂げてしまった。星が瞬いていている夜、思い切ってみんなの目を盗んで走り出したんだ。
身体に受ける疾走感はいつも以上に気持ちよくて、少しじめじめしている空気も気にならなかった。
暫く経って後ろを振り返るけど、だれも着いてきていないみたいだったので一安心。休憩ということで川の方に行って少し涼もうと思った。走った所為で身体が熱っぽかったから、水を飲もうと月明かりが反射している川に顔を近づけると、わたしの顔が映った。それは馬の尻尾を模した橙色の髪型で、ちょっと頬が紅潮している自分だった。
────よし、上手くいったみたいだ。
「なぁ!」
急に声が聞こえて私はビクっとして思わず振り返った。ひょっとして見つかったのかもしれない。
折角ここまで来たのに。内心のそんな杞憂とは裏腹に、そこにいたのはわたしと同じぐらいの人間の男の子だった。
「なぁなぁ、お前なんでこんなところにいるのさ」
「え、え~と」
上手い言葉が見つからない、どうしよう。
「あ、分かったぞ。七夕のお祭りに来たんだろ?」
「えっと、うん、そうだよ」
取り敢えず調子を合わせよう。なんだか緊張するよぉ。
「へへへ、さっすが俺だぜ。なぁ、一緒に周ろうぜ。お前みたいな面白そうな奴見たこと無いし、友だちに自慢させろよ」
面白そう? さっき川に映った私を確認したけど、おかしなところはなかったと思うけどなぁ。
「え、あの。わたし何か変かな?」
「それ、最近都会で有名な……なんだっけ? え~と、コスプレって奴だろ? 耳と尻尾なんか着けてさ」
「………………あ」
それは、自分にとって当たり前すぎてまったくの盲点だった。