特別編 一匹狼のエリアス②
「そうしてエリアスは、レンという名の男の子に呪いを解いてもらい救われました。そして幸せに暮しましたとさ」
母親が本を読み終わると、娘は満足げな様子で笑っていた。
「良かったぁ、エリアスは救われたんだね!」
「そうよ、それからも大変なことが沢山あったけどエリアスは幸せに暮らしているわ!」
母親は答える。それに対して、娘は目をキラキラとさせていた。
「今も幸せ!私、エリアスに会ってみたいなぁ。ママは会ったことあるの?」
疲れてきたのか眠そうな表情になってきている。いつもよりも長い時間本を読んでいたことに気づく。
「あなたも会ったことあるわよ。いつでも会えるから、ほらおやすみなさい」
と言いながら、娘の黒色の髪を撫でる。すると、気持ちよさそうに狼の耳を揺らしてすぐに眠りに落ちたようだ。
部屋の電気を落として、音を立てないようにそっと部屋を出る。文字通り全く音の立たない無駄のない動きだ。
母親が部屋を後にして、今に向かうと夫は椅子に座って待っていたようだ。
「あの子に本を買ったの、あなたね?レン」
「素敵な本だと思うだろ?エリアス」
やはり本を買ったのはレンだった。
「自分の話を娘にするのもなかなか恥ずかしいものよ」
「ルティアも良くおすすめしてるぞ?」
「もぉ……、そのルティアはどこにいる?」
少し文句を言ってやろうかと思いながらエリアスは、ルティアの居所をレンに聞く。
「今日は、忙しいみたいだな。聖女様だし」
「そっか、なら文句は帰ってきてからにしとこう」
と答える。レンもそれを聞いて笑っていた。
何か小腹を満たせるものでも出そうかなと思いエリアスがキッチンに向かおうとすると、レンが声をかけてきた。
「本の最後にエリアスはいつまでも幸せに暮らしましたって、あったけど。エリアス、今幸せ?」
「ふふっ!もちろんだよ。これまで悲しいこともあった。傷ついたりもした。だけど、レンに出会って、あの子が生まれて来て、私は幸せ」
一度全てを失い1人となった少女の姿は、もうどこにもなかった。




