364話出会いの思い出と相棒
運営からの手紙を使えば、すぐにでも元の世界に帰ることが出来る。優しい母さんのいる世界に戻り、全て夢だったと目を背けて生きていくことが出来る。
だが、その前にエリアスに言われたようにレンはこの世界に来てからのことを思い出していた。
夢にまで見た憧れの世界。
好きな人が出来た。
もう2度と会えないと思った人と再会した。
いつの間にか多くの仲間もできていた。
幼い頃からの憧れの英雄にも会えた。
例え見えなくなったとしても、決して消えたりなどしない。残された思いが確実にある。今はただ見たくない現実から目を背けていただけだった。
自然と頬を涙が伝うのを感じた。
「エリアス、この世界に来て良かったよ。本当にありがとう」
そう、この世界で最も愛しい人にお礼を告げる。エリアスが、目を見開いてレンを見る中
手に持つ手紙を両手で握り……
ビリっ……
思いっきり手紙を破いた。
2つに破かれた手紙は、そのまま光の粒子となって空に向かって溶けていった。
「レン……」
エリアスが気がつくと、レンに抱きしめられていた。これまで以上に強い抱擁にエリアスは、為されるがままだ。
「ありがとう、エリアス。本当に、すべてを台無しにする所だった」
「レンが自分で気づいたんだよ。それに手紙、破って良かったの?」
「良いんだ、どこにも逃げたりしない!今も、これからもみんなと一緒に生きていく」
と答える。これで良かったのだ。例え災厄が待ち構えていようとも、今できることをやる覚悟を決めた。
レンの答えに対してエリアスもレンを抱きしめ返すのだった。
「戻ろうか、みんなの所に」
「うん、そうだね。でもその前に話さないといけないことがあるんだ」
とエリアスが言い出す。
「それって」
「大丈夫だよ!」
茂みに向かってエリアスが声をかけると、音が聞こえて、
「マスター」
金髪の髪、少しボロボロになった黒いドレス。場所に不釣り合いな格好だ。
「え……う、そだろ、全部喰われたはずなのに」
だが、この声を聞き間違えるはずがない。この世界に来る前から共に死線を駆け抜けてきた相棒だ。
「ハラハラでしたが、立ち直ってくれてなりよりです。マイマスター?」
「ナビゲーターさん!」
レンは喜びの声をあげるのだった。




