363話何もなくても
「まるでカラミィを見てるかのような気持ち……」
フィレンが呟く。
「師匠がくれた力だから……、師匠みたいに使いこなせるようにならないと」
ミラは決意を新たにする。
カラミィも本当は、ミラが一人前になるまで自らで鍛えたかっただろうが、それも叶わなかった。カラミィから得た想いにその気持ちを汲み取りながらミラは彼女に感謝する。
「さーて、いっちょ魔法を試してみるとしますかぁ!」
未だ、師匠を失った悲しみは大きいが、カラミィのように明るくいたいという気持ちがあった。それに、彼女が共にいてくれるような暖かさをミラは感じているのだった。
無事に戦いが終われば、彼女の前でいっぱい泣いてやろうと思うミラだった。
「本当にもう良いの?」
「どうせ何も出来やしない……」
エリアスの言葉に答える。あんな化け物に勝てるとは思えない。無駄な犠牲が増えるだけだ。
「それじゃあ、これからどうするの?」
「そうだよな……どうすれば良いんだろうな?」
地面をボーッと眺めながらレンは息を漏らした。時間がとてつもなくゆっくりと進んでいるような感覚だ。悪いことをした小学生が先生に怒られて言い訳を考えている時の様な……長い長い感覚。
「どこか遠くに行く?」
ポツリとレンがつぶやいた。
「レン……」
「エリアス、2人でどこかに行かない……ったぁ」
レンはエリアスに頬を叩かれていた。
「わかってるでしょ、本当はどこにいても同じってことくらい」
「それでも終わりまでの少しの時間でも生きていられたら……」
頬を押さえながらレンは、エリアスを見る。真っ直ぐな瞳がこちらを覗き込んでいた。
「それに、レンは2人でって言った。ルティアは?それに他のみんなは?確かに大切な人を失った。でもまだ大切な人は残っているでしょ!」
エリアスだけじゃない、ルティアとも結婚した。自分は、それさえも考えられないほどなんだろう。大切な仲間も何人もいるのに
「俺は……でも、俺じゃみんなに何もしてやれない」
そんなレンを見てエリアスは、
「何も出来なくて良い、側にいてくれるだけで。だから、そんなこと言わないでよ」
出会ったばかりの頃の話をエリアスが始める。もう遥か昔の様な気分だ。
「私の呪いを消そうとしたでしょ?でも出来なかった。それでも必死に考えて私を助けてくれようとしてた。レン、私はあなたが私の呪いを消してくれたから嬉しかったんじゃない。例え無理でも一緒にいてくれたから嬉しかった」
「ただ、ほっとけなくて……」
「嬉しかった、ただ近くにいてくれるだけで。あなたが何も出来なくても私は救われてた」
あの時から、あなたが好きだった。愛したいと思っていた。
「エリアス……」
レンがエリアスの顔を見ると、彼女は涙を流していた。悲しみの涙を流させてしまったな、と思わずにいられない。
「レン、あなたの気持ちは痛いほど分かる。だから……」
と言いながら、エリアスはある物を取り出してレンに差し出す。
「これって、運営からの手紙……」
「レンと私のアイテムボックスは共有だから、レンが閉まった物も取り出せる。もしも、辛くて逃げ出したかったらこれを使うと良い」
と言いながら、渡してくる。使えば元の世界に帰らせてくれるという内容のものだ。
「これを使えば……元の……」
母さんが待つ、家に帰ることが出来る。そうすれば、恐ろしくなった世界から解放される。
「そうだね、だから良く考えて。最後に、この世界での出来事を1から思い出してくれると嬉しいな」
茂みの方を見ながらエリアスがレンに言う。
手紙を受け取ったレンは……




