361話情けない姿と師の声
「私と戻ろう?身体もびしょ濡れだよ」
レンの様子を見ながらエリアスが声をかけてくる。だが、レンはエリアスの顔をしっかりと見れず俯いてしまう。
「レン、酷い顔だね……あなたに初めて会った日の私と同じ顔」
親を、故郷を失い、さらには自らも呪いに侵され絶望の日々を送っていた。心が折れ、自らの命に価値を見出せなくなっていた時に出会ったレンという男。
あの日とは、逆の立場となって向かい合うことになっている。
「情けないだろ?あんなに、格好つけて君を助けてたのに今じゃこんな様だよ……」
この世界にやって来て、様々な人を救った破黒の英雄はもういない。自らの無力を笑うようにレンが言葉を漏らす。
「情けなくない、あなたがあそこまで抵抗しなければみんな死んでた。だから、そんなこと言わないで」
首を横に振りながらエリアスが答える。
「でも、お母さんもレイも死んだんだ……守れてないじゃないか。もう俺には何かをする力も残ってない」
「本当にそう思ってるの?」
「ああ……、がっかりしただろ?」
エリアスには呆れられたことだろう。伺うようにエリアスを見ると、エリアスはこちらをじっと見ている。
「そうだね、今のレンを見たらレミさんもレイもガッカリすると思うよ?」
強めの口調になってエリアスが言ってくる。レンとしても2人の名前を出されるのは辛い。
「そうだよな、2人ともガッカリするよな……だけど、どうしようもないんだ。だから、もう良いんだ……」
せっかく命懸けで守ってくれたのに、今の自分を見られれば悲しむだろう。このまま、自分はどこかに行ってしまいたいと思う。
そんなレンを見て、エリアスは拳をギュッと握りしめるのだった。
「師匠、そろそろ起きてくれないかなぁ?」
ミラがカラミィの遺体に向かって話しかけていた。魔法で身体を保護しているため遺体をそのまま置いておいても大丈夫なのだ。
当然ながらカラミィが起き上がるなんてミラも思ってはいない。何度目かのため息を吐きながら立ち上がる。
「まだ教えてもらってないことばっかりだったのになぁ……」
ミラが呟きながら外に出ようとする。
直後、
『情けないな、ミラ。そんなに私が死んだのを悲しんでくれているのか?』
声が聞こえた。心に投げかけてくるような、最も待ち望んでいた声だ。
「嘘……師匠?」
『私は、賢者だからな!死んでしまってもこんなことが出来るんだよ』
とカラミィの声が元気よく答えるのだった。




