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360話酷と負け犬

ただ目的もなく走る。


走り出してすぐに森に入った。木の枝が身体に当たろうとも無理矢理進んでいく。普段ならこんな進み方はしないが、今のレンにそんなことを考える心の余裕など存在しない。



「あ……」


森の中には、腰が浸かる位の長さの川が流れており、足を滑らせて落ちてしまう。



「ゴホッ……ゴホッ……」


咳き込みながら、立ち上がる。幸い流れは急ではないため立ち上がることもできる。顔から突っ込んでしまったため鼻から水が入ったのが苦しかった。


「スキルさえあれば……こんな」


これまで水中にいようともスキルがあったおかげで自由に動けたがスキルが無くなった途端にこのザマだ。自分を情けなく思いながら川から這い出る。


ありがたみは無くなってから良く分かると言うものだが、やはりその通りだと思う。


今這い上がったばかりの川に目を向けると自分が映っていた。


「酷い顔……髪も服も……」


映っているのは自分とは思えない自分だった。あまりの滑稽さに笑ってしまいそうにもなる。


「はぁ、ナビゲーターさん。聞いてよ……」


相棒をいつもの様に呼ぶが、返事が返ってくることもない。静かな時間が流れていた。


「何度目だよ……いないってわかってるのに……お母さんもレイも。失ったってのに」


近くの木に思うまま拳をぶつける。木は音を立てて折れ、倒れる。スキルはなくてもそれくらいの身体能力はあった。




「レンが幸せに生きていけるように……」


「最後に君を守って終われるなら本望だよ!今までありがとう、兄弟」


レミとレイの最後の言葉が頭に流れてくる。もう会えない大切な人、そしてレンの英雄。




彼らは、レンがベルゼを倒してくれると確信して逝った。最後の片時まで疑いもしていないだろい。


だが、自分には出来ない。もう何も残っていないのだから……


「〈ステータス〉……はは……酷いもんだな。さっきからそれしか言ってないけど、本当に酷いもんだ」



これまでの冒険で得てきた称号、破黒の英雄を始め、すべての称号が無くなっている。代わりにそこにあるのは、〈敗北者〉と〈折れた心〉だけだ。


「負け犬には相応しいって感じか……」


呟きながら地面にへたり込む。全てを失った負け犬。まさにその言葉が相応しい男がそこにはいた。今の彼を見れば誰も英雄だとは信じないかもしれない。



背後からガサガサと音が鳴り、レンはゆっくりと振り返る。森の中であれば魔物がいてもおかしくはない。


「魔物の接近さえ、わからないもんな」


スキルがない今、少しばかり力があるだけのレンでは下手すると魔王領の魔物には勝てないかもしれない。


特に構えることもなく、魔物が出てくるのを待った。別に魔物でも良いやと思う。このまま終わってしまってもと、気力がない。



そして、草木を掻き分けて物音の正体が姿を表す。


「レン、ここにいたんだね。私と一緒に戻ろう?」


「エリアス……」


目の前に現れたエリアスを見て、レンは小さく呟くのだった。

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